第84話

 僕がお弁当を出している間に、宗くんはポケットからさっき僕が買ったお守りが入った袋をがさがさと取り出して、中のお守りも出した。



 お守りの金額は800円。



 僕はあのしおりをもらって、宗くんはこのお守り。

 絶対に、色んな意味で釣り合いが取れていないと思う。

 なのに、他に何かってリクエストが『うち来て』。

 リクエスト通りにこうして宗くんの家に来たって、やっぱりまだ釣り合いが取れていないという気持ちがなくならない。



「むっ…宗くん、一応あたためられるお弁当箱に入れて来たからあたためられるよ?どうする?」

「………あっためる。やる」

「あ、蓋はちょっとズラしてね」

「………ん」



 眺めていたお守りをまた袋にしまってポケットに入れて、僕が出したお弁当箱を宗くんがさっとレンジの方に持って行った。



 ちょっとだけ触れた手に、僕はやっぱり、どきんってした。



 宗くんの手はかたい。

 大きさはそんなに変わらないのに、僕の、身体と同じで指もひょろひょろの手より、男の人の手っていう感じの手。



 好きだな。宗くんの手。



 レンジの中でブーンって回るお弁当箱を、もうひとつのお弁当箱を持ってまだかまだかというように見ている宗くんの手にそんなことを思って、思った自分にどきんってした。






「いただきます」



 キッチンの方ではなく、リビング。

 いぐさのラグの上にきちんと正座をして、ローテーブルに置いたお弁当を前に宗くんが手を合わせた。



 ぴんと伸びた背中。少し目を伏せて、しっかりと合わせられている手。



 ほら、こういう所作が、宗くんはキレイ。



「………?」



 長方形のテーブルの長い方に宗くんが座っていて、短い方に座る僕。

 すぐ近くでその所作に見入っていたら、いただきますを言わない僕を宗くんが不思議そうに見ていた。



「あっ………えとっ………いっ、いただきますっ………」



 今、バレたよね?気づいたよね?

 ほとんど見惚れるように宗くんを見ていた僕に。

 どうしよう。何て思われただろう。変に思うよね?きっと。



 どっどっどっど………って、僕の心臓が焦っている。



 慌ててお弁当箱に向けた視線をもう一度宗くんに戻したら、宗くんはお腹をきゅるるるるるるる………って鳴らしながらまだ僕を見ていて、何?って。



「う、ううん。何でも………」

「さっきも見てた」

「えっ………」

「神社で」

「………あ」

「明は時々そうやって俺を見てる」

「………っ」

「何」



 バレていた。しっかり気づかれていた。今だけでなく、今までのことまで。



 ………どうしよう。



 心臓がうるさい。心臓もどうしようどうしようって言っている。



 僕はまた視線をお弁当にうつした。



 普段は実くんに任せっきりだけれど、じつはキライじゃない料理。久しぶりに自分でちゃんと作ったお弁当。



 宗くんに、食べてほしくて。



 何故僕は、そんなことを思うのだろう。

 他にも、手を繋がれてどきどきするとか、何気ないときの宗くんに目を奪われているとか。



 保育園時代を忘れた罪悪感とは別物の何か。別物の気持ち。

 あおちゃんや光くんには抱かない………宗くんへの。



「何?」



 じっと僕を見ている宗くんのお腹が、きゅるるるるるるる………って爆音をかき鳴らした。

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