第24話
実くんが堪え切れず笑ったことによって、空気が柔らかくなった。その場の。
そこで僕はやっと、少しだけ身体から力を抜くことができた。
張り詰めた空気は苦手。
ふうって息も吐いた。
「ごめんね、明くん。大丈夫?」
「うん。大丈夫」
「何か飲む?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
こういうの。
こういうとき、ごめんなさいって思う。
実くんが痛かったのに。実くんの胸が。心が。なのに、身体と連動して虚弱軟弱精神の僕を、こんなときまで心配してもらって、してくれて、ごめんなさいって。
そんな僕たちを、辰さんがじっと見ている気がした。
「冴華さん」
「はい」
「実くんはとても、素晴らしいお子さんですね」
「………え」
「はいっ。実くんは本当にほんっっっっっとうに‼︎こんな子が私の子なの⁉︎って毎日驚くぐらい最高の子なんですっ。もちろん明くんも最高に最高の息子だけど‼︎」
「そうですね。明くんもですね」
「ちょっと冴ちゃん」
「だって‼︎あ、辰さんごめんなさい。私、家事が苦手って辰さんに言ってあるんだけど、じつは苦手って言うより全然できなくて、実くんがずっとやってくれてるの」
「そうでしたか」
「元々たろちゃんが結構家事をやってくれてて、私が働いてって感じで。でもたろちゃんが死んじゃってから家の中がひどいことになって、明くんもどんどん、それこそ明くんも死んじゃうんじゃないかってぐらい弱って………。だから、このままじゃダメだって、一時期私の実家に転がり込んでたというわけです」
「なるほど。それでお引越しされたんですね」
「そうなの。私もちょっと疲れちゃって………。そしたら実くんが実家で家事を覚えてくれて、やっぱりこっちのたろちゃんとの思い出がある土地がいいって戻って来てからはずっと、全部全部、明くんの面倒も含めて私は実くんに甘えちゃっています………」
「冴ちゃん。違うよ。甘えてるのはボクでしょ?」
「実くんのどこが甘えてるのよっ。私が甘えっぱなしなの‼︎私、実くんが居なかったら………たろちゃんが死んじゃって、実くんが居なかったら………」
僕がこんなにも虚弱軟弱じゃなくて、もっと普通の身体だったら、健康体だったら、ふたりをこんな風にしなくて良かったんだろう。
考えても仕方ないことなのに、どうしたって僕は僕のままでどうにもならない、できないのに、ついそう考えて、つい落ち込む。
「………冴ちゃん」
「実くんは私の最高に自慢の子。今実くんの話だから実くん実って言ってるけど、明くんもそうよ‼︎あなたたちふたりは私の、私とたろちゃんの宝なの。だからお願い、どんな自分でも、人と違う自分でも、自分を変に卑下したりしないで。もしあなたたちを悪く言う人が居たら、私が絶対絶対、容赦なくしばき倒すから‼︎」
「し、しばき倒すって………」
こっそりと僕が落ち込んでいることが冴ちゃんに分かったのだろうか。
冴ちゃんは僕に向かってそう言ってくれた。
冴ちゃんはあんまりお母さんらしくないけれど、冴ちゃんのこういうところはやっぱりお母さんなんだなって思う。
そして、僕は冴ちゃんがお母さん良かったと、実くんがお兄ちゃんで良かったと、思うんだ。
「実くん」
「はい」
「実くんの夢の実現に、政なんかどうだろうか」
「はい⁉︎」
「少々面倒なところや不器用なところがったり、最近ちょっとメタボ気味ではありますが、アレでも小児科医ですし、そんなに悪くないと思うのですが」
「ちょ………ちょっと何を言ってるんですか、辰さん‼︎彼はノンケでしょ⁉︎」
「ノンケ?」
辰さんの突然の提案と、実くんからの謎の言葉に、はてなマークが部屋中に浮かんだ。
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