山田さんちと鍔田さんちのまみむめブラザーズ
みやぎ
第1話
1
「
彼女は言った。
にっこりと笑いながら。
「………え?で、できちゃったって?」
「やだぁ。『できちゃった』は『できちゃった』でしょ〜?」
にっこりにっこり彼女は繰り返す。
僕の向かい側に座って。
できちゃった。
できちゃったの。
それってもしかして。
もしかして………?
………え?
「うわ‼︎明くん⁉︎」
目の前が暗転して、僕の意識はそこで途絶えた。
あ、ご、ごめんなさい。自己紹介が遅れました。
僕の名前は
卒業はしましたが、明日が本命の公立高校の入試の、中学3年生。15才です。
僕は小さい頃から『虚弱体質』というやつで、ちょっと何かあると熱を出す、風邪をひく、咳が止まらなくなる、貧血を起こして倒れる、お腹をこわす………などなどなど。書き出したらキリがないぐらい、とにかく身体が軟弱にできています。
別に、だからと言って特にこれといった病気を抱えているわけではありません。
ただただ身体が軟弱で、ただただ手のかかる子です。
身体が軟弱だからなのか、それはまた別問題なのか、僕は残念ながら心も軟弱です。
自分で言うのも何ですが、すぐ泣く、すぐ落ち込む、すぐ凹む。基本は弱気。後ろ向き。それが僕です。
そんな身体も心も軟弱な僕にとって、毎日は生きるか死ぬかの毎日です。
気を抜くと熱が出ます。風邪をひきます。咳が止まらなくなります。倒れます。
お腹にくるぐらいなら、トイレにいればいいだけだからまだマシだと思っています。
定期テストのときは、1週間ぐらい前から熱とトイレとお友だちです。
そんな僕が、本命の入試前日に元気であるはずもなく、夜の20時、やっと兄の実(みの)くんが作ってくれたうどんを、やっとやっと、一口食べてたところに。
『明くん、私、できちゃったの』
緊張、プレッシャーで体調が悪いところに破壊力満点の衝撃。
身体も心も軟弱な僕は、その衝撃に見事意識をぶっ飛ばされました。
このお話は、そんな僕と家族のお話です。
「明くん。明くん起きて。準備しなきゃ」
「………え?」
「熱は………ああ、ちょっとあるかも。下がらなかったか。明くんどうする?行ける?」
「………
「うん。おはよう。朝ご飯食べられそう?」
頭がすごくぼんやりしてる。
身体が重い。
それでも実くんが呼んでるからとこじ開けた目に、心配そうに僕を覗き込む実くんがうつった。
実くん。
僕の12才年上のお兄ちゃん。
頭が良くて優しくてカッコよくて老若男女各種動物問わずめちゃくちゃモテる、母子家庭の我が家の家事全般と軟弱過ぎる僕の面倒を一身に見てくれる、僕の自慢の。
「………え、朝?」
「うん。朝だよ。明くん昨夜倒れちゃって、そのまま」
「………実くん」
「ん?」
「………今日って、もしかして」
「入試の日だね。でも大丈夫。まだ間に合うよ。今日ボク仕事休みだから、学校までバイクで送ってってあげる」
実くんは優しくそう言ってくれたけど、僕はもうこの時点でほとんど諦めてた。
僕の性格は僕が一番分かってる。無理だよもう。
今から起きてもお腹が痛くなって、トイレとお友だちで、急いで行ってそれから入試。
多分ギリギリに着くから何もできないまま始まる。
しかも昨夜最後の仕上げにもう一回過去問をやろうと思ってたのに、それもできていない。
そんな状態で落ち着いてなんかできない。
絶対途中でまたお腹が痛くなって集中できなくて解けなくて落ちるに決まってる。
「ここまで頑張って勉強して来たんだから、もうちょっと頑張ろう?」
ベッドから起き上がれないでいる僕に、実くんが優しく言ってくれた。
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