第21話
俺たちのいる第3地下の食堂へ静かに入ってきたのは、人型のアンドロイドだった。
そのアンドロイドは西洋の鎧から無骨さを削ぎ落したようなやせ細った見た目をしており、左手は鞘に収まった刀を握っていた。
「軍用のアンドロイドか? 見たこともない種類だな」
「……残念ながら私もだ。いや、私はかなりのアンドロイドを見聞きしたがあんな種類は見たこともない」
俺たちが型番も不明なアンドロイドに身構えていると、軍用ドローンのスウェル2号が喋りだした。
「データーベース該当したよ。あれは、近接戦闘特化型試作5号アンドロイド『ローニン』だね。持っている刀は特殊合金タロナイト製の高周波ブレードだよ。装甲車でもバサバサ斬れる切れ味だから気を付けて!」
「おいおい、ったく。おっかない兵器が出てきたもんだな」
何にしても見た目や名称が近接タイプの軍用アンドロイドだ。ここは距離をとった戦い方に限る。
俺は距離をとるために後退し、援護するようにノーヘッドが射撃を開始した。
「むっ!?」
けれどもノーヘッドの射撃はローニンに届かなかった。
ローニンはなんとノーヘッドの狙いを事前に判断し、素早く身体をよじって
更にローニンは俺に追い付こうと接近してきた。
「ならば」
ノーヘッドは機関銃を
ローニンは再度回避しようとするも、今度は弾が空中で炸裂し、ローニンの避けた腕や胴体に当たった。おそらくノーヘッドがスマートバレットの設定を変え、近接信管にしたためだろう。
流石に弾道予測と機動性に優れた動きをするローニンでも近くで破片をバラまかれては避けようがない。おかげで俺はノーヘッドたちのいる最後方まで下がれた。
しかし、それも長続きはしない。
「すまない。もう弾切れだ」
「は!? もうかよ」
ノーヘッドが最後にグレネード弾を撃つも、ローニンに落下地点を予測されて
グレネード弾の爆発は辺りをぼろぼろにするも、その下から這い出てきたローニンはまだ健在だ。多少装甲に傷はあるが、動きにゆるみは無い。
「どうする、カネツネ君」
「どうするったって……」
もちろん策が無いわけじゃない。相手がアンドロイドなら当然処理機能にボックスを使っているはずだ。ならば、スウェルの能力が使える。
「スウェル、できるか?」
俺がスウェルに耳打ちするも、難しそうな顔をされた。
「できるけど、あの子に声が届くようにしようと思ったら社長さんにもばれるよ?」
「そうなるよなあ……。仕方ない。ここは俺が身体を張る。いざとなったら任すぞ、スウェル」
「待ってよ。どうしてそこまで命を危険にさらせるの? カネツネの目標は不老不死じゃないの? こんなところで死んだら本末転倒だよ」
「……」
スウェルの言う通りだ。ローニンの持つ高周波ブレードは俺を絶命させるに十分な切れ味をしている。おそらく俺の装甲でも致命傷は避けられないだろう。
だがそれでもいい。もし死ぬにしてもこれだけ生きるために生きたならば、向こうで待っている父や母も
「その話は後だ。来るぞ!」
俺はスウェルを後ろにさがらせると、1歩進み出たローニンの斬撃を
ローニンの斬撃は縦横無尽に繰り出され、近くの椅子や机の障害物を巻き込んで両断した。
俺が瓦礫をローニンに向かって放り投げると、ローニンは
「社長!」
俺は持っていた拳銃と弾倉をノーヘッドに向けて投げる。
ノーヘッドは器用に空中で銃を受け止めると、素早く構えた。
「警察の支給品か。威力は足りないようだが仕方がない」
拳銃にはロックが掛かっているが、ノーヘッドがボックスハンターならば使用制限は俺と同じだ。
「ハンター、ノーヘッド・マザーウィルを承認しました。標準を十分に見定めてください」
ノーヘッドは個人認証とターゲットの脅威認証をクリアすると、発砲を開始した。
次々と放たれた銃弾はローニンの頭部を的確に撃ち、その姿勢を崩す。
反撃をするなら、今しかない。
「スウェル! 後ろに来い! 俺が取り押さえたらすぐハッキングしろ!」
俺はローニンに畳みかける形で浴びせるように蹴りと正拳突きを繰り出した。ローニンは身を守るように剣で受けようとしたため、俺は刃を掴んだ。
「どっこいせ!」
そのままローニンの身体を抱えると、俺は寝技に持ち込んだ。これだけ密着した状態で、しかも寝転がっているならまともな斬りつけはできない。勝負はこっちのものだ。
「よしっ! スウェル後は頼――」
確かにローニンは俺と密着したままだった。それなのに、身体を拘束しているはずの右腕があっさりと寸断されるのを、俺は見た。
よく見ればローニンの高周波ブレードは小さいパーツに刃が分かれ、
「まずっ――!?」
ローニンは肘うちの要領で俺を弾き飛ばし、寝た体勢のまま高周波ブレードを通常モードに戻して、俺の下腹部を貫いた。
「ぐっ!?」
生体の内臓を有した俺の身体は一瞬激痛が走る。それでもプログラミングされた痛覚フィルターによってすぐにコントロールされ、俺の思考に乱れはなかった。
「ったく。今日は厄日だ」
俺は身体に刺さった刃を抜かず、残った片腕でローニンを捕まえた。
そして後ろから駆け寄ったスウェルがローニンの頭部に腕を絡め、ささやいたのだ。
するとローニンは短く弛緩し、握っていた刀を放して動きを止めたのだった。
「カネツネ!」
俺は刀が刺さったまま座り込む。刃が抜けていないのに、出血が止まらないのだ。
「どうしよう! 血が止まらないよ!」
スウェルは血で服が汚れるのも気にせず、俺に駆け寄って傷口を塞ごうとした。けれどもそれはアンドロイドのマリーによって止められた。
「高周波ブレードが動いているようだな。電源は……ここか」
ノーヘッドは慌てる様子もなくローニンの刀の電源を止めると、俺の傷口を見た。
「位置的に肝臓や腎臓を貫いているな。しかも高周波ブレードでぐちゃぐちゃにかき回されているようだ。このままだと君は死ぬな」
「……」
俺は
それになにより、意識が
俺は泣きじゃくるスウェルの手を残された手で包み、
「もういい……。もういいんだ」
しばらくすると、俺の意識はつっぷりと途絶えてしまったのだった。
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