#118 [ふたり-青-]①
陽の光を受けて輝く森の中を一筋の光が駆け抜ける。蒼天に轟いた雷鳴が、木々の上で羽根を休める鳥達をざわめかせた。
「…なに、その必殺技!」
羽ばたきの音に続く義希の叫び。蒼は気にせず、肩の上の椿に首を捻った。
「これ、なかなか難しいですね」
「蒼くんが早く慣れてくれないと、私の魔力が持ちません」
へたる椿を尻目に、蒼はもう一度矢をつがえる。狙いをつけた矢が、綺麗に構えられた彼の手を離れると同時。直線を描きながら飛行するそれが光の筋を帯びた。不規則に飛び散る青い火花、的に刺さると落ちる同色の雷。
「…ずるい…ずるいぞ!蒼いいぃぃぃぃ!」
美しいそれを見て、地団駄を踏む義希に笑顔を向けた蒼のグローブの上では、微かに残った電気の筋が弾けていた。
なぜ蒼が雷を撃てるのか……涙ぐましい義希の問いに蒼の笑顔が解答する。
烈に対抗するには物理攻撃だけでは心許ない、そこで椿が提案したのが椿の魔力を蒼が使うというもの。
「…それ、わたし達にも応用可能かしら?」
説明の途中、有理子が真剣に尋ねると、鳥の姿をした椿の小さな首が傾いた。
魔力を分ける、口で言えば簡単に思うかもしれないが、実現には沢山の条件がある。例えば、いつだったか沢也が海羽の魔力を借りたように、魔力を吸収させたアイテムを使って魔法を行使することは可能だ。
しかしそれには、使用者が長すぎる呪文を完璧に唱えられる事だけでなく、海羽の魔力と相性の良い魔力を貯めておけるアイテムが必要になってくる。戦闘中に手数が足りないだけならまだしも、魔力も不足している現状、海羽の持つ水晶一つを使い回すのは無理があるし、効率的ではないだろう。
椿の場合、まずは自分の魔力と相性の良いアイテムを探さなくてはいけなくなる。どちらにせよ、期間内にかき集めたアイテムの中に、二人の魔力を貯蔵しておける代物がない限りはどうにもならないだろう。
「私達が簡単に魔力を共有出来るのは、双子だからなんですよ」
沢也と交代で行なった説明を椿が締めくくると、小太郎が微妙に頷いて顎に手を当てた。
「同じ血が流れていて、且つ同じ日に生まれていれば…力の波動も似てるってことか」
「そういうことです。私の魔力を蒼くん用に変換しなくても、蒼くんはそのまま使うことが出来る…」
「椿が直接魔法使った方が早いんじゃないのか?」
小太郎の疑問は最もで、隣の義希も大きく頷いている。椿はそんな二人に首を振り、ため息のように言い分けた。
「残念ながら、私は攻撃魔法も防御魔法も使えません。体の内側で魔力を変化させる事しか出来ないからです」
「外に出せないってことか。蒼にはどうやって送ってるんだ?」
「それは…」
「僕が手伝ったんだ」
椿の言葉を遮って片手を挙げた海羽は、蒼の右手と椿の足元を指差して話を続ける。
「椿のアンクレットには外に魔力を流す為の魔法陣、蒼のグローブには雷を生む魔法陣を、それぞれ魔力が接触すれば発動するように埋め込んだんだ」
「ついでに、俺の時計にも仕込んで貰った」
沢也が左腕を捲ると、時計の文字盤にバリアの魔法陣が描かれていた。
「この方法を使えば、私が直接魔法を使うことも可能なんですが…戦いの場で上手く立ち回る自信がないので、この形を取らせて貰ったんですよ」
「…成る程、分からん」
椿の補足に義希が間の抜けた顔で答えると、海羽は微笑んで頷きを見せる。
「だよね。簡単に言えば、僕が描いた魔法陣の効力が切れるまでは…蒼も沢也も魔法陣を敷かなくても、呪文を唱えなくても、魔法が使えるってこと」
「魔力を持ってないと、意味がないのね」
「うん」
「その魔法陣、効力ってどれくらいなんだ?」
「大々50回くらいかな?消えちゃったらまた書き直さないとね」
有理子と義希の質問に答えて、海羽は一つ息を吐く。すると義希が唸りながら空を仰いだ。
「そっかぁ。そんなに簡単に魔法が使えるのか」
「残念ながら、そう簡単でもないんですよ」
蒼の明るい声で義希の顔が降りたところに、沢也が小さくため息を漏らす。
「物凄い集中力が必要だろうな」
「その通りです。コツさえ掴めれば、もっと色々出来そうなんですけど…」
「…つまらないんですか?」
どことなく不服そうな蒼の笑顔を、肩に乗る椿が覗き込む。蒼はみんなの視線をぐるりと見渡し、殊更柔らかく微笑んだ。
「いえ、対戦相手がいればなぁ…と」
蒼が顔を止めた先で見開かれたのは、黄金と琥珀色の眼差しだ。
「…死ぬ、死ぬって!」
「バカ言え!バリアストーンの無駄遣いになるだろ?なぁ?」
あからさまに震えながら頭を抱える義希と、震えを押さえて目を逸らす小太郎に、蒼の笑顔からため息が漏れる。
「じゃあ、あの、僕が…」
そこに遠慮がちに海羽の手が上がると、沢也の片眉が下がった。
「…それだと、蒼が死ぬんじゃねえか?」
「…反撃しなきゃ駄目なのか?」
「そうですね、出来ればその方が」
唸る海羽に蒼の困った微笑が答える間にも、三人の視線は再び金髪二人に移動する。
「海羽にはバリアに徹して貰って、小太郎と義希が相手するしかねえだろ」
「……」
「……」
「じゃあ、宜しくお願いしますね」
沢也の提案に沈黙を保ってみるも、椿にアッサリ締め括られて。義希と小太郎は半強制的に蒼の技の実験台になることになった。
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