オレっ子が叩きのめしたのは、王位継承権の二刀流の男でした~炎の獅子と氷の竜と~

大月クマ

オレはやらかしたかもしれない。

 これは、とある剣と魔法の国のお話――




「――お前を勘当する」


 厳粛な堅物の親父オヤジは静かにそう言った。

 そりゃあそうだ。王子か何か知らないが、半殺しにしたのだから。


 後悔か――


 んん~……あのことに関して、今更ながら多少は後悔はしている。

 オレに挑戦してくるヤツを、片っ端から叩きのめしていたからなぁ~……

 しかも、相手が王位継続者だったそうだ。

 ヒョロヒョロの優男。で、応援団だが知らないが、右に左に男や女を連れてやってきていた。

 そいつらに格好を付けたかったようだが、反対に大泣きさせてやった。


「上等だッ! クソ・オヤジッ!!」


 事の起こりは、顔を合わすことが嫌いなオヤジの執務室に呼ばれたときだ。


 ――相変わらず、偉そうにしていやがる。


 自分で呼びつけたくせに、部屋に入ってきたオレに気にもとめずに、書類整理が忙しいようだ。何人もの秘書官がオヤジから書類を受け取ると、事務処理をしている。

 ウチは武芸に優れていた家系であった。それで王家に仕えていたのにだが、オヤジの代で剣をペンに持ち替えた。

 今の時代はこれが国に奉仕する形であり、平和な時代の騎士の末路だ、そうだ。


「オヤジ何のようだ。これでも忙しい身なんだが……」


 オレはドンと、執務室の中央に置かれた応接セットのソファに腰を下ろした。もちろん、ワザと音をたてて……。

 すると、目の前にまたしても会いたくない奴がいる。

 義母だ。


「マイケル、何ですか!? その汚い言葉遣いはッ!」


 いつもフリフリした扇子で口元を隠している女がガミガミ声を上げる。


 ――ああ、うるさいッ! うるさいッ! なんでオレはこんな家庭に生まれたんだ。


 オレはこの家の跡取り……残念ながら、男ではなく女に生まれた。

 丁度オヤジと生きていた祖父ジイさんが対立していたときだ。

 跡取りがオレしかいない。オレの本当の母親は、オレを産んでからすぐに死んだというし……。

 それでジイさんがオレを跡取りとして、武芸に優れた者として育てた――オヤジは一時は抵抗したようだが、諦めたらしい。跡取りがオレしかいなかったから、血筋を絶やさぬように女のように扱われず、男の跡取りとして育てられた。しかも、名前をすでに決めていたので、男の名前が付けられた。

 子供の頃から、朝から晩まで稽古、稽古……剣術、槍術、体術何でも、オレの体に叩き込んだ。後で思えば、その所為でオレこんな性格になったのかもしれない。

 それが変わったのは、ジイさんが死んでから。

 オヤジはオレを跡取りとするのではなく、養子をもらうことを決めた。ようは、オレに婿を取れというのだ。

 わけの分からぬ男と結婚するなんて……気に入らなかった。

 一時期、放り込まれた女学校の友人から借りた本にだって、そんなこと考えが載っていた。


 結婚とは愛し合うものである。


 愛ってなんだか知らないが、ともかく話を聞いたときは気に入らなかった。だから、条件を出した。


「オレに勝てる奴なら結婚してやる!」


 オレにだって選択権はある。

 さっきも言った通り、ウチは武芸に優れていた家系で、ジイさんに子供の頃からあらゆる戦闘術を叩き込まれた。

 相談に乗ってくれた学友も「それがいい」と、いってくれた。

 と、いうわけで、やってくるやるってくる貴族やらの婿養子候補を叩きのめした。

 国内のみならず、外国にまで声をかけたようだが、ほとんどが木刀さえ持ったことのない者ばかりだ。色白の優男や鼻先の通った色男を叩きのめして、彼らが泣きじゃくる姿を見てオレは興奮した。


 やあ、愉快、愉快!


 だけど、両手で収まらない数を叩きのめしたところで、オヤジはオレの性格を直そうと、女学校を辞めさせ家庭教師を付けさせた。

 それが、この義母だ。

 素行が悪い一人娘を教育し直すために、親父がどこからか連れてきた。

 しかし、この女がオレの躾は無理とサジを投げると、どういうわけか親父と結婚する話に変わったではないか!

 どうやらその前から不倫をしていたようだけど、事情は変わったのはこの女が懐妊。

 気が付くと男子を出産していた。

 そうなってくると、オレの立場など風前のロウソク? 灯火ともしびってやつか?

 中途半端な男女なんかよりも、れっきとした息子の方が跡取りとしてはいいに決まっている。


 たとえ生まれたばかりだろうが……


 それに、王位継続者の男を叩きのめした。

 後で聞いたところによると、その男は一応、文武両道の優等生らしい。王位継続順位は、三番目ぐらいだという。

 それを叩きのめしたのだ。オレって強いだろ!

 でも、それ以外に聞いているのは、あの応援団の男達のこと。

 王子様は男色の気もあったようだ。その恋人達の前で、鼻をへし折ったのだ。

 そんなヤツが、ちゃんと女をめとることも出来るのだろうか?

 疑問に思ったが、女も連れてきていたよなぁ……あれも恋人なのか?


 まあ、どうでもいいか……ただ、当てつけは、親父に来るだろうとは見当が付く。


 というわけで、オレは勘当放り出された。当日、速攻で。

 荷造りなんて……まあたいした持ち物なんてないので、適当に着替えを背嚢に突っ込み、マントを羽織って屋敷から出てきた。嫌がらせに、宝物室からなんだかよく解らないけど、家宝の短剣を頂いた。

 さて、どこに行こうか?

 …………

 ……

 いや、マジで行く場所がない!

 この王都の人々は……オレには冷たい。街を歩けば顔を合わそうとしないし、近づこうという子供を引っ込める親がいる。


 なんでだ!


 オレが王子様を叩きのめした事が、知られているのか!?


 そうだ!


 ちょっと遠いが、キャサリンのところにしばらく厄介になるかな。


 そうしよう!


 学友だったが、治めている領土が広い事を自慢ばかりしていた。鼻持ちならないヤツだったが、オレひとりぐらい転がり込んでも、問題はないだろう。




【つづく……かも】

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オレっ子が叩きのめしたのは、王位継承権の二刀流の男でした~炎の獅子と氷の竜と~ 大月クマ @smurakam1978

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