第23話 【魔法少女】の弱点

『ピピッ、任務続行。問題なし』


 河童メカはエフェクトたっぷりな魔法を放ち、蒼穹ヶ原紅葉が生み出した幻影と対峙していた。


 2人の魔法少女姿の幻影の攻撃は、河童メカ1体の攻撃と相殺されていた。

 普通ならば"幻影魔法少女2人分の攻撃"と"河童メカ1人分の攻撃"ならば、人数で勝る幻影の魔法少女の方が攻撃力が強いはずで、相殺などあり得ない。


 しかしながら、何故、相殺しているのか?

 それはレベルでも、2人が【厨二病】の蒼穹ヶ原紅葉のスキルによて生み出されたからでも、敵が河童メカという機械だから、でもない。


『(あぁ、君は素敵だよ。君の素晴らしさを、直視するのがとっても辛いね)』

『嬉しい、ドキドキ感知。魔力上昇を確認』


 ヘッドホンから流れてくる音楽----正確には【イケメンボイスが慰めてくれる、素晴らしい音楽DVD】から流れてくる音声が、河童メカを鼓舞していく。

 そう、これこそが【魔法少女】という職業の正しい運用方法なのである。


 【魔法少女】、それは超高火力の魔法攻撃を行いつつ、心臓がときめけばときめくだけ魔法が使えるようになるという魅惑の職業ジョブ

 こうしてヘッドホンから流れる音声を聞くだけで、河童メカの身体の中の魔力----【魔法少女】として使える分の魔力がどんどん増えていく。


『(神様が君をこの僕と巡り合わせに感謝しているさ。君との出会いに、乾杯)』

『魔力上昇を感知。体温上昇を感知』


 この【魔法少女】に唯一弱点があるとすれば、それは体温上昇。

 【魔法少女】はほんの些細な、例え何百何千何万と聞き飽きるほど聞いた言葉だとしても、身体がときめいてしまう。

 河童メカの生みの親、【三大堕落】の【不老不死】担当のダブルエムは----こう言っていた。



『【魔法少女世界】はね、めちゃくちゃチョロい少女しかいないのさ。そもそも恋のドキドキやら、愛するという言葉程度で魔力が溜まってしまうくらい、チョロい女の子達しかいない、平和な世界。

 そんな【魔法少女】の職業ジョブになってしまうと、その世界の影響からなのか、多少の事くらいで顔が赤くなってしまうくらい、チョロい性格になってしまう。

 ----まぁ、弱点としては誉め言葉を受け続けて、体温がめちゃくちゃ上昇しまくって、魔法を放ってないと、軽い誉め言葉10個程度でも50度くらいになるから、覚悟してね?』



 そう、こう言っていたのだ。

 事実、今の体温は80度越え----人体ならば、とうに融解していておかしくない温度だ。


『ピピッ、そろそろ魔法を放ちますか』


 体温が上がりやすすぎるこの身体を平常運転に保つため、河童メカは再び高火力の魔法を放つ。

 これで体温は大幅に下がって60度くらい----あと2、3発で30度くらいの平温に戻れるだろう。


「あぁ~♪ 素晴らしきは、河童の力~♪ 川流れても、優秀さは変わることなく~♪」

『ピピッ? 体温上昇を感知?』


 その時である、河童メカの体温が再び上昇し始めたのは。


 原因は、【吟遊詩人】の三日月三言が歌う、河童メカを褒めたたえる歌のせい。

 【魔法少女】の職業ジョブの影響で、些細な誉め言葉であろうとも、身体が褒められて嬉しいと感じてしまうのだ。

 どんどん身体が、体温が熱く上がっていく。


『もっ、問題発生! 体温、急上昇! 危険温度まで、上昇中! 上昇中!!』


 河童メカの身体は、どんどん体温の熱暴走によって、真っ赤に燃え上がっていく。

 緑色の顔とフリフリのドレス、そんな彼女の身体が赤く色づいていく。


『危険! 危険! すぐさま熱排出を提案っ! 実行、実行!!』


 河童メカは自分の熱暴走を止めるため、熱排出を決めた。

 【魔法少女】の熱排出の方法は1つだけ、それは超強力な魔法を放つ事。

 河童メカはその作戦実行のため、強力な魔法の詠唱に入る。


『"強敵発見! みんなぁ~、いつもよりもドッキドキでトロピカルな、プリンセスでハートキャッチ!!"』

「あぁ~♪ 素晴らしきはその緑の水かき~♪ 私をその力で溺れさせてぇ~♪」

『ピピピピッ!! 体温、上昇! 体温、急上昇!!』


 【魔法使い】に必要なのは、集中力。

 強大な力が暴走しないように、しっかり集中しておかなければ、魔法が暴走して、自分が暴走に巻き込まれてしまうから。


 そして、【魔法少女】もときめきで魔力無限回復でありながら、それでも魔法であることには変わらない。

 集中して魔力を溜めなければならないのに、【吟遊詩人】の三日月三言の讃美歌が、河童メカの魔力を否応なく無限に増大させていき、制御できない。


「ハートソングフラッシュ♡」

「アローライトニングぅ♪」


 しかも、【魔法少女】の幻影2人の攻撃で、集中を欠く河童メカは損傷を受けて、冷却装置がやられた。

 どんどん熱くなる河童メカ----。


『ピピピピッ! 自爆、推奨! 自爆、推奨!』


 魔力を制御できず、どんどん体温を上昇し続ける河童メカが取った最後の手。

 それは、相手全てを巻き込む、自爆である。


 既に、主であるダブルエムは逃げきれている事だろうと、河童メカはせめて最期は相手を抹殺してから死のうと、そう決意した。



 ----そんな彼女の眼前に、熊の着ぐるみを着た男が立っていた。



「よぉ、河童メカ。今、切りさいてやるから待ってろ」

『----?!』


 男----【着ぐるみ】の有賀刀祢が立っているのは、空。

 なにもない空の上を、熊の着ぐるみを着て剣を強く握りしめていた。


 空の上、翼もないのに、着ぐるみを着た男は立っていた。


「"よぉ、止めを刺すなら今だと思うぜ。オレよ"」


 そんな熊の着ぐるみを着た有賀刀祢の後ろから、賢者のような格好をした"もう1人の有賀刀祢"が現れていた。

 赤いローブ姿の、賢者の恰好をしたもう1人の彼は、右手に青い魔力の塊を作り出していた。


「"よぉ、河童メカ。オレはそこの【魔法少女】達と同じ、スキルによって生み出された幻影なり。とはいっても、オレは【魔法少女】ではなく、オマエの頭の上にいるヤツの職業ジョブだが"」

『----?! 頭の上っ?!』


 そこで、河童メカは頭の上----このダンジョンを維持させるために、ダブルエムが用意した人間。

 

『魔力を使って、空間を凌駕して支配する【天・青魔導士】の、高見渚!!』


 そう、【厨二病】の蒼穹ヶ原紅葉のスキル【異次元ノ煌メキ】の力は、2人の幻影を生み出すスキルではない。

 指定した対象と同じ職業ジョブに設定し直したパーティーメンバーを生み出すスキル。

 蒼穹ヶ原紅葉が設定したのは、河童メカ----だけではなく、その頭の上で磔にされている高宮渚も。


 そして、蒼穹ヶ原紅葉は、3人の幻影を生み出したのだ。


 【魔法少女】の三日月三言、【魔法少女】の山田花子。

 そして----【天・青魔導士】の有賀刀祢。


 【天・青魔導士】の自身の幻影の力を借り、有賀刀祢は河童メカの前まで近づいていたのである。



「"これこそ、【天・青魔導士】の『天』の意味! 『天』----足場なき場所をも支配して足場とする、職業ジョブ!

 空間を凌駕して支配し、足場がない場所を足場とする。ダンジョンを支配するよりも、空でも足場として攻撃する。それこそ、この職業ジョブの売りだろ?"」

「そして、足場さえあれば----オレは全力を出せるっ!!」


 ----喰らえ、スキル【取捨選択斬り】っ!!


 その技は、【剣士】であった有賀刀祢が、ボスへの止めの際に使用していたスキル。

 ダンジョンで成長した事で、使えるように復活したスキル。


 その効果は、簡単だ。


 ----武器である剣を潰して、超高火力を相手に与える。



『ぴぴぴぴぴぴpt4ぷいうえwぷうぇうぷえwぷpうぇうpふpうぇぷふぇるpfjrpwf!!』



 高火力の攻撃に、河童メカは耐えられず、そのまま爆死するのであった。



 ===== ===== =====

 【《魔法少女》河童メカ with 高宮渚】を 撃破しました

 マナ系統職業の1つ 【魔法少女】が 解放されました

 《聖リエック女学院》の ダンジョン化が 解除されました

 高宮渚の 幽鬼化が 解除されました

 ===== ===== =====



 こうして、有賀刀祢達は、聖リエック女学院のダンジョン化を阻止するのであった----。

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