第4話 【着ぐるみ】ダンジョン攻略(2)

 《機械兵長》の四つの目が光り輝くと、静かに腕が持ち上がっていく。

 先程と同じように、巨大な槍を頭の上まで持って行って、そこから振り下ろすという戦法を繰り返すつもりである。


 戦法、というか、機構と呼ぶべきだろうか。


 かの巨大な《機械兵長》の頭には『敵に対して、大きな槍を頭上高くまで持ってきて、振り下ろす攻撃をせよ』という命令コマンドしかなく、槍で横に薙ぎ払ったり、フェイントをかけたりといった事は機構プログラムとして存在していない。

 それでもその巨体から繰り出される槍は、威力も高く、振り下ろされる突きの速度も速い。


「いっ、いきますっ!!」


 そんな《機械兵長》の槍を持つ腕が、突如として爆発する。

 「どっかぁぁぁぁんんっっ!!」と、大きな爆破音と共に、《機械兵長》の腕が爆破していた。


 爆破によって生じた白煙と共に、ぽろぽろと、歯車のような部品がいくつも落ちて行く。

 しかし目当ての、大きな腕が落ちてこないのを見て、花子は「……失敗し、ちゃったよ」と慌てていた。


「うぅっ……三言ちゃんと刀祢くんに頼まれたのに……!! 《機械兵長》の腕を爆破して落とせって言われたのに……!!」


 花子は、有賀刀祢からこのダンジョンのボス魔物、《機械兵長》の話を聞いていた。

 そこで考えたのが、あの巨大な《機械兵長》は槍を振り下ろす戦法しか行わないため、その攻撃の起点となる腕を爆破の弓矢でぶっ壊してしまおうという方法である。

 機械兵士と同じく、時間をかければ別の部品を取り込んで復活させるだろうが、それでも攻撃を止める事が出来れば有利なのは確かである。


「(だから、遠慮なく吹っ飛ばすつもりで爆破の弓矢を放ったのに……)」



 ----失敗した。

 間違えた失敗したやらかしたミスした外した

 やらかした間違えた外した失敗したミスした

 間違えたミスした失敗した外したやらかした

 失敗した間違えたミスした外したやらかした

 あたしは間違えた失敗した外したやらかした

 失敗した間違えた間違えた失敗した外した

 外したミスした外したあたしは失敗----



「よし、成功したなっ!!」


 と、花子の横を、着ぐるみを着た刀祢が突っ込んで行った。

 

「良い調子だぞ、花子!! この調子で、続けてくれっ!!」


 うおりゃああああ!! と、頭にラフレシアを思わせる大きな花が咲いた、ボス魔物の《ジャイアントマンドラゴラ》の着ぐるみを着た刀祢は、そのままぐるんぐるんっと大きく腕を振りながら向かって行く。


「それな。ほら、行くよ」


 ぽんっと、肩を叩かれたかと思うと、三言は鎖鎌をクルクルと回転させながら、刀祢の後に続いていた。


「2人とも……!!」


 その彼らの姿が、花子には、とても勇ましく思えた。

 いつも臆病で自信がなくて、こんな命題のせいで派手な感じにされても戸惑いしかなかった花子。

 そんな花子は、初めて自信をつけたいと思った。



 ふわふわもこもことした、どことなく愛らしさを感じる着ぐるみを着た彼の姿に、

 気だるげながらも、常に堂々として自分を気にかけてくれる彼女の姿に、


 自分も、パーティーの仲間として並びたい!!


 と……そう思って、「やっぱり少しおこがましいかな?」とか、「ちょっぴり言い過ぎたかな?」とか。


 やはり、人間、そう簡単には変わらないみたいである。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「喰らえ、《猛毒》!!」


 オレは《ジャイアントマンドラゴラ》の着ぐるみの能力----あらゆる物を侵す猛毒の力を使う。

 防御魔法や防毒のアイテムを使わないと、着ている服や武器さえ腐らせる強力な猛毒の力は、機械兵士の脚を腐らせて体制を崩させていた。


 やはり、《猛毒》の力は強力だ。

 欠点を上げれば、オレ自身も喰らうくらい強力すぎる猛毒だから、連発も長期利用も出来ない事、だろうか。


「良い感じじゃん」


 と、毒が届かない所から、三言が鎖鎌を投げて、《機械兵長》の胸の辺りにあるコアにクリティカルヒットさせていた。


「……なぁ、本当に【吟遊詩人】なんだよな? お前?」

「は? え、なに言ってんの? 嘘吐いてどないなるん?」


 信じられないと言った様子で、三言はこちらを見向きもせずに、鎖鎌を器用に動かして、クリティカルヒットを連発させていく。

 そんな鎖鎌をクリティカルヒットさせまくる印象ないんだよな、【吟遊詩人】に。


 ----どかぁぁぁんんっ!!

 ----どかぁぁぁぁんんっ!!


「おっ、花子の援護も来た!」


 後ろから、花子の爆破の弓矢が来たのを感じつつ、オレは《彷徨う騎士団長》に着ぐるみを変える。

 盾はなくなったが、こいつの剣がオレの持つ着ぐるみの中で、一番攻撃力が高いからな。


「----それに、次はお前の着ぐるみも着させてもらおうか! 《機械兵長》!!」




 そうして、数分後----オレ達の猛攻に《機械兵長》は倒され、《無限の封印遺跡》ダンジョンをクリアすることが出来たのである。



 ===== ===== =====

 Dランクダンジョン《無限の封印遺跡》のボス魔物を倒しました

 有賀刀祢は 《機械兵長の着ぐるみ》を 使えるようになりました

 確定ドロップとして、魔石(小)が 3つ ドロップします

 確定ドロップとして、機械兵士の腕が 9つ ドロップします


 また、初回討伐特典として以下の物の中から、1つを選んで取得できます

 なお、2回目以降は討伐特典は発生いたしません


 1)【全自動修復道具箱】……周辺の機械の部品を集めて、自動的に修理・修復を行う、古代の道具箱。10回まで使用することが出来る

 効果;使用することで、素材を消費することで、機械系アイテムを修理することが出来る


 2)【古代兵装の矢筒】……古代の機械兵士と戦う者達のために、生み出されたとされる矢筒。周囲の魔力を自動で吸収し、常に3本の古代兵装の弓矢を用意する

 効果;装備アイテム。装備することで、機械系統の魔物などに大ダメージを与える事が出来る、古代兵装の弓矢を3本装填します。なお、全ての弓矢を使い切った後、【リロード】と叫ぶと、新しく矢が3本装填されます


 3)【忍者刀・青薔薇】……古代文明が作り上げた、鞭のように伸び縮みする忍者刀。日本刀の特性である《折れず、曲がらず、よく切れる》を受け継いでおり、攻撃を受けても折れない特殊素材を用いている

 効果;装備アイテム。装備している時、自分の持つ刀剣の刃を操作できるスキル《刀剣操作》を発動することが出来るようになります

 ===== ===== =====



「おぉっ、良い感じの討伐特典が出てきたな」


 冒険者が、ダンジョンボスを初めて討伐すると、このように初回討伐特典という物が選択できる。

 オレは前のパーティーでこのダンジョンはすでに攻略していて初回討伐ではないのだが、オレではなく【忍者】が討伐特典を取っていたからな。

 別パーティーに変えたことで、"別パーティーでの"初回討伐特典という形で見なされたのだろうか。


 まぁ、どうやってそれを見極めているかと言われれば、その辺は神様辺りが判断している事だろうから、良くは分からないんだが。


「(こういう時、揉めるとヤバイんだよな)」


 初回討伐特典を誰が取るか?

 良い討伐特典が複数出た場合、取り合いの形となってしまって、そのせいでパーティー解散というケースになってしまった----というのは、良く聞く話だ。


 正直、オレとしては《機械兵長の着ぐるみ》が手に入ったから、正直、欲しい物があるとは言えない。

 だとすると問題なのは、【古代兵装の矢筒】を欲しがるだろう花子、そして【忍者刀・青薔薇】を欲しがるだろう三言。

 その2人がどちらが折れるかと言う話で----。



「欲しいのないわ、うち」



 真っ先に折れたのは、三言の方だった。


「うぇっ?!! でもでも、三言さんの戦い方的には、忍者刀は欲しいんじゃ……」

「いや、うち、【吟遊詩人】だし。そんな暗殺者めいたもん、貰っても。だったら矢筒を手に入れて、花子を強くした方が良くない? なぁ、あんたもそう思わんの?」


 三言がそう言ってオレに話を振って来たので、オレもそうだと言わんばかりに頷く。


「いや、普通に喋れし」

「で、でもでも……ひぃっ!! に、睨まないでくださいぃぃぃ!! も、貰いますからぁぁぁぁ!!」

「なんなん、この逆カツアゲみたいなの。別に睨んでないし」



 そう言う訳で、新たに【古代兵装の矢筒】を手に入れて花子の戦力がアップしたところで、オレ達はダンジョンから無事に脱出したのであった。

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