第二七話 VS蟲魔人
その速度は圧倒的だ。「思考加速」していても、速く感じられるのだ。相当な速度だろう。
弾丸の如く飛翔し迫る
「なッ⁉」
思わず俺は驚きの声を上げてしまった。
なんと
偶々だ、偶然だ、『圧制者』が通用しない敵がいるはずがない。
動揺してしまった俺は正常な判断が出来ず、一度回避されてしまった『圧制者』による攻撃を何度も繰り返してしまう。
その結果、判ったことと言えば、
『圧制者』は俺にとって生命線だ。何度も窮地を救ってくれた最も信頼するスキル――。
《マスター、それはちょっと酷くありませんか? ワタシをお忘れに?》
サポートAIさんの怒気に溢れた声が聞こえ、思わずごめんなさいと謝る俺。
《マスターが最も信頼するスキルは、ワタシ『支援者』でしょう? そうですね?》
あ、はい。そうです、そうです。
《ならば、これくらいの事で動揺しないで下さい。マスターが
そ、そうですね、うん。
サポートAIさんの凄まじい怒気に触れ――嫉妬かな?――、動揺していた俺の心をかき乱した結果、何故か俺は冷静になった。
もしかして、サポートAIさんはこれを見越して――はないな、うん。単純に二番手扱いされて怒っていただけだと思う。
サポートAIさんのおかげ(?)で、落ち着きを取り戻した俺は、何故『圧制者』による攻撃が躱されたのかを考える。
戦闘中に考えることではないと思うかもしれないが、『圧制者』を初めて回避してみせた敵が相手だ。今後の為にも貴重なサンプルになることは間違いないし。
それに『圧制者』による攻撃を回避することは出来るものの、その威力には
牽制も兼ねて
何故、
《マスター、お困りの様ですね。ここは最も信頼するワタシに訊ねるべきでは?》
いや、サポートAIさん……。それ、まだ引き摺るの……?
サポートAIさんの意外な一面を知れて良かったのか、悪かったのか……。まぁいいか。
どうやらサポートAIさんは既にカラクリを解析している様だし、素直に聞いてみるとしますかね。では、サポートAIさん解説どうぞ。
《承知しました。恐らく種族名
感知系スキル? 「魔力感知」とか、カロンの「超嗅覚」とか?
《「魔力感知」はその通りですが、「超嗅覚」は対象外です。魔素に付随する感知系スキルということが正確でしょう。その感知系スキルが何とは断定出来かねますが、恐らくマスターが所持している「魔力感知」と似た性質を持つことは確かです。種族名
魔素に付随する、ねぇ。
俺は試しに「魔力感知」の精度を高めて、自身の攻撃を観察する。すると、途端に疑問が解消された。
「なるほど。納得したわ」
「フハハハ。貴様ノ攻撃ガ通用シナイコトヲ、ヨウヤク理解シタカ!」
「あぁ。おかげで弱点に気付けたよ。その点だけは感謝しとく」
「……気色ノ悪イ奴ダ」
えぇ⁉ それは酷くない⁉ つーか、そんなドン引きしなくても……。
ちょっとした精神攻撃を受けたものの、持ち前の前向きさで気にしないことにした、うん。
さて。何故、
「魔力感知」でちゃんと観察すれば判る。『圧制者』による攻撃の際、その定められた空間に僅かな魔素の揺らぎがあるのだ。余程注意深く観察してないと見分けられない程の極小の揺らぎだけどね。
ただ、その揺らぎを見分ける事が出来たとしても、数瞬に満たない僅かな発動までの時間の中で回避することが出来る身体能力が必要だ。
仲間内ではカロンくらいかな? カロンの「瞬身」であれば回避可能かもしれない。ただまぁ、カロンの「超嗅覚」では、そもそも攻撃予兆を感じ取ることは出来ないけれど。
『圧制者』は圧倒的な力を秘めたユニークスキルだ。だが、完全無欠ではないことを俺は頭の片隅に置いておかなければならない。
逆に言えば、完全無欠なスキルなど無いということなのだから。どれ程強力なスキルだったとしても、攻略の糸口は必ずあるのだ。この事が判っただけでも、この戦いに意味はあった。
「イツマデ無駄ナ足掻キヲスル! 貴様ノ攻撃ハ妾ニハ通用シナイノガ、何故判ラヌ!」
中々接近することが出来ず、蟲魔人(インセクトレス)は苛立ちを募らせているようだ。
「通用していないことはないでしょうよ? 少なくとも牽制の役割は出来ているんだからさ」
確かに『圧制者』では、高速飛翔する
「貴様ッ!」
もはや我慢の限界を迎えたのか、
地を蹴るように宙を蹴って、俺に向かって急降下する
俺はこれまで通り、牽制する様に『圧制者』を行使。
だが――。
「グハッ⁉」
悲鳴を上げたのは、まさか俺の方だった。
腹にめり込む
凄まじい一撃により、弾丸の如き速度で殴り飛ばされてしまう俺。
咄嗟に羽を生やし、急制動。それでも勢いは止まらず、俺は後方宙返りをして壁に足から着地。なんとか激突だけは避けた。
事前に〝知死〟を発動していたことが功を奏した。殴られる間際、咄嗟に身を引いたことで、少しは衝撃を緩和出来たみたい。危うく身体に風穴が空くところだった。
しかし、一体何で――と、思考する暇さえ無く、目前に迫り来る
繰り出される拳撃。二度も受けて堪るかと俺は必死に頭を背けて回避。
不意に嫌な予感がし、咄嗟に俺は身を屈めると、
そのことに安心する余裕は無い。
正拳、裏拳、フック、アッパーという拳による多彩な攻撃。その一撃一撃が重く、直撃を受けないように必死だ。
また、前蹴り、回し蹴り、踵落としといった蹴り技も混ぜられ、反撃するどころか、一旦間合いを開ける余裕さえ無い。
極め付きは、不慣れな宙に浮きながらの立体的格闘戦ということ。通常ではあり得ない軌道で放たれる攻撃に、何とか対処出来ている自分を褒めたいところである。まぁ死属性魔法〝知死〟による危険感知で何となく攻撃が来る場所が判るからこそ、辛うじて対処出来ているんだけれどね。こんなことならバスメドやカロンに近接格闘術を教示してもらうんだったよ。
ただじっくり考えることはちょっと無理そう。なのでここはサポートAIさんに頼らせてもらおう。
《お任せ下さい。マスターが疑問に感じた点は、何故種族名
流石、サポートAIさん。よく俺の事を判っている。
サポートAIさんが言ったように、そこが疑問だったんだ。確かにあの時、急降下して来る
避けたんだろうと思われるかもしれないが、実際は違う。避けられたわけでも、攻撃が不発だったわけでもない。
『圧制者』による攻撃は確かに
それにも拘らず、
《マスターの仰る通り、『圧制者』による攻撃は種族名
だよな? サポートAIさんもこう言っているし、それは間違いないんだ。
《一つ訂正するとすれば、マスターの勘違いでしょう》
勘違いだって?
《マスターはこう考えておられます。種族名
いや、間違いって……。現に
《平然としているように見えているだけです。種族名
平然としているように見えているだけ……? ダメージを負っている?
《はい。元々種族的防御力が高い魔物です。種族名
そうか。そうだったのか。結局はただ
今まで凄まじい攻撃力を誇る『圧制者』に、堪え切れた魔物は居なかった。だからこそ、『圧制者』の攻撃力を信じ、チートスキルだと思い込んでいた。『圧制者』による攻撃に耐えられる者など存在しないって。
それに
だからこそ
なんて無茶な事を、と思う反面、少しばかり俺は感心する。
「チョコマカトッ! 避ケルナッ!」
「いや、それは無理じゃね?」
一向に捉えられず
「練習相手には丁度良かったよ、お前は」
降り注ぐ拳打の雨を躱しながら、俺は呟く。
今回の戦いで本当に多くの事が学べた。ユニークスキルの弱点や、戦いには予想外の事が起きるなど、多くの収穫があった。
「でも、そろそろ終幕といこうか」
「何ヲ言ッテイルノダッ! 貴様ハッ!」
俺が余裕を見せ始めたことで
今までとは違い、精彩を欠いた拳撃。俺はそっと手を添え受け流す。
「ナッ⁉」
拳撃を受け流されたことで
隙とも言えない隙。その一瞬を見逃さず、俺はピストルの形に手を取った。
「〝死弾〟」
指先から放たれる黒の弾丸。密接するかのような至近距離で放たれた〝死弾〟を回避する術は
『圧制者』による攻撃を耐えきった
「グハッ⁉」
血反吐を吐き、フラフラと力なく後退る
やはり破壊力という点では、『圧制者』よりも〝死弾〟の方が高威力。何せ死属性とは、破壊、消滅という性質があるのだから。
「〝死弾〟……〝死弾〟」
容赦なく追い打ちを掛ける俺。次々と連続して〝死弾〟を浴びせかけた。
「クソガッ!」
身体の至る所から鮮血を流しながらも、蟲魔人(インセクトレス)が最期の悪足掻きをするかのように、俺に殴りかかって来た。が……。
「〝死弾〟」
一切の感情を排した無機質な呟き。俺は迫る
パーン! と乾いた音が響く。
脳漿が撒き散らされ、グラッと力なく
ドサッと仰向けに倒れた
やはり魔物といえ、人型を倒すのは心に来るものがあるな。正直キツイ……。
《しかし、誰かがやらなければなりませんでした。この種族名
コイツを倒さなければ、グールやコボルト達に悲劇が訪れてしまう。そのことは理解している。理解しているが、やっぱりキツイものはキツイ。この異世界で生きていく為にも、いずれ慣れないといけないんだろうが……はぁ、今からちょっと憂鬱だ。
俺がげんなりしていると、まだ生きていたジャイアントアーミーアント達が
もう俺に敵意を向けてはいないが、それでも見逃すという甘い対処は出来ない。ここで殲滅しておかなければならなかった。
「せめて、
《マスター、避けて下さい!》
弾かれるように、俺はその場から飛び退いた。
ザシュッ! と深く刻まれる裂傷。少しでも回避行動が遅れれば、裂傷を負っていたのは地面では無く、俺自身であっただろう。
「まさか、他にも敵が⁉」
他にも見逃していた敵がいたのか⁉ サポートAIさんに何も言われなかったぞ⁉
《違います、マスター。攻撃を放ったのは
何⁉
俺は直ぐさま倒れた
「おい……お前、何して……」
視線の先にはあまりにも凄絶な、悍ましい光景が広がっていた。俺は驚きを通り越して茫然としてしまう。俺が見たものは……。
倒したはずの
――グチャグチャグシャ……。
酷い咀嚼音を響かせて、ジャイアントアーミーアントを貪り食う
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