第054話『忘却溶解の結末』
現実感なんて存在していなかった──。
そして花花は、重い瞼を強引にでも開け、目を覚ましたのだ。
「……」
けたたましいほどに重なって聞こえる、生きた人の声。
そこは所謂、野戦病院と呼ばれる施設であった。
本来、病院と言って馴染み深いものと言えば、市民病院が上がるのが一般的。野戦病院なんて、それこそ東亜戦線の最前線な戦場でもなければ、目にする機会なんて訪れる事はなかっただろう。
──そう、梓ヶ丘は戦場だった。
10000にも至る“ケモノ”の群れ。
それに対抗すべく、国士と蓮花たち魔法少女が戦った。
馬鹿馬鹿しい作り話だと、笑う奴がいるのかもしれない。
だがそれは、
耳に未だ潮騒のように残り続ける、人々の怒声と悲鳴。
その中で蓮花自身、一体何が出来たのだろうか──。
「──仲間! さっきまで戦った人たちは一体何処へ!」
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どうやら蓮花自身、“乙女課”前の戦いで気を失っていたらしい──。
あの戦いが終わる頃合い。
形成不利を悟って応援に来た他国士たちと魔法少女等の援軍によって、どうにか“乙女課”付近の“ケモノ”たちの撃滅に成功をした。
そしてどうやら、今まで張詰めていた蓮花自身の緊張が、“ケモノ”の撃滅で切れてしまったらしいのだ。
「……」
極度の疲労と生傷。
それらを鑑みて気絶した蓮花は、“乙女課”の駐車場に仮設された野戦病院に身を置く事となったのだった。
ちなみにこれらは、野戦病院で働いている看護士の人から聞いたものだ。
おかげで、蓮花が点滴を外してしまった事がバレ、大目玉を食らう羽目になってしまったのはまた別の話。
「……皆さんは何処に」
そして蓮花は、仲間を探していた──。
凪さんと雫さん。烈火とティファニー。それと、一緒にケモノたちと戦ってくれていた国士の人たち。
あの戦いを生き抜いた蓮花にとって、彼女等はとても大切な戦友なのだ。
故に、その後の安否が気になるのは仕方のない話。
『──おぉ。君は確か、魔法少女ミライとか言ってたっけな』
『そうですけど……。あの、国士の皆さんの方は大丈夫でしたか?』
『大丈夫だ──って、そう言えば良かったんがな。思ったよりも被害が増えちまってた』
国士の人たちについては、案外早く見つかった。
というのも、この野戦病院において、国士たちの病床がある程度決まっているのがとても大きかった。
それもその筈。
たとえ、国士等自身が国民を守った名誉の証だとしても、他の一般市民からすれば想到に値する悲惨な負傷。
それはきっと、可哀そうだとかの哀憫な感情の類ではない。
ただ見ている事がキツイなだけの、現実から目を背ける事でしかないのだ──。
そして蓮花は、疲労困憊の身体を引きずってようやく、その“乙女課”にてとある書類を手にするのだった。
嗚呼、最初から蓮花だって気付いているのだ。
目を背け続けているだけ。
それはきっと、どれだけ幸せな事なのだろうか。
だがそれでも、蓮花はその中身を見る事にした──。
軽中傷者─687人。
重症者──28人。
殉職者──国士5名。魔法少女ナギ、魔法少女見習いティファニー、以下2名。
『──ぁっ。──ぁっ。──ぁっ。──ぁっ。』
『──ぃぁ。──ぃ、ぁ。──ぃやぁ。──いやぁ。──い゛やあっ!?!?」
記憶が蘇る。
蓮花自身の防衛本能によって忘却していた記憶が蘇る。
誰かから望まれた事ができない呪縛が、まるで繋ぎ止める鎖のように、蓮花の体を縛り付けるのだ──。
「──ぁああああぁぁぁぁ!? ──ああああぁぁぁぁ!?」
自分の不甲斐なさを呪うように。
何処までも続く、地獄を見ていて。
歩み続けていた蓮花の足は、もうすっかり折れてしまっていた──。
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お疲れ様です。
今話を以てして、第2章『魔法少女の章』が終わりました。
今後につきましては、話のストックが第4章以降がないため、第4章につきましては、かなり間が開きそうです。
また第3章につきましては、ゴールデンウィーク辺りかな。
あと、気付いた読者がいるか分かりませんが、被害者数について表記方法を分けたのには理由があります。
あれです。
国士や魔法少女たちの実名表記は、表舞台には存在しないのです。
他にも、こういったのがあるかも?
これ以上話していると、あとで読み辛いのでこの辺りです。
お疲れ様です。
感想やレビューなどなど。お待ちしております。
あと、少しでも面白い、続きが気になるなどありましたら、星やフォローなどをくれるととても嬉しいです。
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