IF『オムライスとコンソメスープ・裏』
「伊織さ~ん。晩御飯できましたよー」
──如何やら、いつの間にか眠っていたらしい。
目を擦り無理矢理にでも覚醒を指せると、今しがた晩御飯の配膳が終わったようだ。
「ん。ありぃがと。それで、今日の晩御飯って何だっけ?」
「──そうですね。オムライスとコンソメスープと、あと少しの付け合わせです」
そう言えばそうだった。
伊織が晩飯を作っている最中に聞いたのだが、如何やら今晩の夕食はオムライスとコンソメスープらしい。
料理風景を見てもいるし、聞いてもいて、匂いだってしていた。
特に伊織は、料理場への侵入を禁止していたため、印象に残ったのも多かったのだろう。
「──では、いただきます」
「「──いただきます」」
伊織と蓮花と涼音。それと凪と雫と。
各々が、自らの御前へと出された晩御飯に手を付ける──。
見た目は悪くない。
むしろ、見た目の綺麗さを基調として、香りが食欲を倍増させている。
確かに味は、料理の基本だろう。不味い料理なんて、人間の本能に反する行為を態々好き好んで食べる奴は、相当追い詰められているぐらいの窮地の中にいる時ぐらいだろう。
「(……よし)」
伊織は、スプーンに手を掛ける。
オムライスの卵が割れて、中のチキンライスが姿を現す。
匂いが充満をする。匂いを嗅いだ瞬間の伊織自身の鼻が、とても喜んでいるのが分かるのだ──。
光沢をする。
口の中に溜まった唾液を飲み込んだ。
その反射する銀のスプーンに乗るオムライスが、とても食欲をそそる。
そして、当の伊織が意を決して自身の口へと運ぼうとするのに、躊躇なんてなかったのだ──。
「──っ!」
味がした。
染み出した味がした。
傍から見たらきっと、今の伊織は、目を大きく開いた上で衝撃でも受けたかのような表情をしている事だろう。
それもその筈、──美味しいのだ。
それ以外に言う言葉なんて、最初から必要なかっただろう。
そう思えるほどの、味の、ような気がした──。
♢♦♢♦♢
「ん。──あれ?」
目を覚ましたのだ。
伊織も起きたばかりで、あまり思考回路が回っていないのだが、“目を覚ました”という事実だけを認識している。
──そう、伊織は今しがたまで如何やら寝ていたらしいのだ。
蓮花たちは夕食の準備をしているらしく、涼音はそこで暇を潰しているらしい。
さて、そんな中で伊織自身は、如何やら寝ていたらしいのだ。
「(……気が、緩んだのか?)」
本来ならば、伊織は他人の家で寝るなんて愚行は起こさないタイプの人である。
何なら、三日三晩の不眠不休の修行だって耐えたというのに、寝てしまったという事実は、伊織自身にとって身に余るほどの衝撃だったのだ。
故に、こうして思い出しては顔を赤らめるのだった──。
「──~~!? ──~~!?」
「──伊織。ようやく起きたのですね」
「……。まぁな、私がまさか寝ていたなんて愚行を起こすなんて思ってもみなかったがな」
「そうですね。確かに伊織は、そういうところしっかりとしていたと思いますが。もしかしたら、気疲れでも起こしていたのかもしれないですね」
嗚呼、それはあるかもしれない──。
巡りゆく、途方もないほどの時間の流れ。
きっと伊織は、いつも寝てはいなかっただろう。
何かしら事が起きたのならば、すぐに行動に移せるように、と。
「──そうかな。そうかも」
理解はした。
納得はしていない。
伊織の人生は、とても平坦な道のりではなくて、気を抜けばそれこそ終わり。
だからこそ伊織は、戦い続ける他ないのだ──。
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お疲れ様です。
感想やレビューなどなど。お待ちしております。
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