第039話『お外は危険で出たくない』

 天気は恐ろしいほどに晴れ、じりじりと肌に照り付ける。

 アスファルトの地面が燃えるほどに熱い。

 ぶっちゃけ、もう外に出たくないでござるな、快晴日和──。


「……」


 そんな、炎天下な人並木の中を、彼女は物陰に隠れてこそこそとしていた。別に物陰に隠れようとも、多少の程度の違いでしかない。

 汗を拭い、やる気なさげな彼らが本末転倒な人混みを作る。

 だがその一方で、当の彼女──柳田伊織はというと、何やら喜々とした表情で何かを見ていた。


「なぁ、これから何処に行く?」

「そうですね……」

「何処か、建物の中に入るのはどうですか?」

「それはいいな。よし、行こうか!」


 まぁ詰まる話が、他人等のデートの覗き見である。

 古今東西、覗き見とはロマンである。まるで、第三者──それも俯瞰の景色から見る現実世界というものは、当の本人に全知の感覚を覚えるものだ。


 しかして、伊織の場合は少しだけ違う。

 どちらかと言えば、出歯亀の類である。

 何しろ、今現在伊織がいる世界は、かなり大筋と離れているがそれでも『花咲く頃、恋歌時』という乙女ゲーの世界なのだ。

 たとえ、つい最近にまるでストーリーの最後らしき出来事を終えたとしても、物語は続いている。ゲームの世界はそこで終わっても、人生には世界にはまだ終わりではないのだ。

 というかまだ、『花恋』の主人公たる鈴野蓮花が親密な関係になっているどころか、まだ付き合っている段階にすら行っていない。


 だが今現在、鈴野蓮花とその他攻略対象である楓雅徹と城ケ崎健人、それと瓜生啓介。彼女等が集団デートをしているのだ。

 一対一のデートならば、伊織としておは興味をそそられる内容であったのだが、追跡するほどでもない。

 だが、こうして一対複数という変則的なデートならば、伊織としてもその内容を見たくなるというものだ。

 もしかしたら、よく聞く他人のデートを覗き見をするという行為は、こんな感情を抱くのかもしれない。


「はぁ、何でこんな事に……」


 ちなみに、伊織が丁度連れていたフレイメリアからは、あまり良い感情というか、不評だったらしい。



 ♢♦♢♦♢



 ──数十分前へと遡る。


 炎天下の中を、伊織とフレイメリアは人混みを躱しつつも歩いていた。

 丁度、買い置きしておいた洗剤がない事に気付いたのだ。

 やる事もないため暇で、伊織はフレイメリアを誘って幾つかの必需品を買いに来たのだが、如何やらその判断は間違いだったらしい。

 適当に近場の食堂で昼飯を終えた伊織とフレイメリアであるのだが、外に出た瞬間その暑さに心をやられる。確かに、エアコンという物は人類文明の画期的な発明であるが、こうした反動があるのが、些か難点である。


「あ、暑い………」

「姉ちゃん。アイス買いましょう。このままでは溶けてしまいます」

「だけどな。生活費だって湯水みたい無限じゃないんだ。いやそれも、無限じゃない、か。いかん、熱で頭をやられた、か?」


 あとは、家へと帰るだけ。

 伊織とフレイメリアの家に帰れば、冷蔵庫に大量のアイスがあった筈だ。それに加えて、エアコンも完備している。

 これ以上ないほどに、対夏仕様な快適空間。

 しかして、フレイメリアの言うように、暑い空間の中で食べるアイスもまた一興。夏らしさ、それをを覚えてくれる。


 誘惑の狭間で伊織が揺れる中、どうにかしてフレイメリアを説得した後に帰路に着く。

 ──そう例えば、家に帰ればアイスがあるよ、的な常套句により。


 ──そんな時だった。

 柳田伊織は、そんな夏の暑さすら忘れてしまいそうな光景に出会うのだった。


「──!」

「──!」

「──!」

「──!」


 そう、『花恋』の主要登場人物たる、鈴野蓮花たち四人の姿がそこにあったのだ。

 伊織としては、あの出来事を境に学園で男性三人組と会う機会が少なくなった。今までは、蓮花とそれに加えてカレンと言う接点があったのだから、今となっては一人欠けている現状、会う機会が少なくなるのも当然の話だ。

 しかし、それで興味がなくなるというのも、それはそれで無理は話。

 態々、蓮花たちの計画を盗み見て、何処か何時間と張り込んで。そんな事などをしてまで覗き見る興味のほどにはなかった。

 だが、こうして機会が巡ってきた以上、気になるのは当然の事だ。



 ♢♦♢♦♢



「──前に学校であった事件についてだけど、その……大丈夫かい?」

「それはどういう意味ですか?」

「いや、ああして襲われて、心の方は大丈夫かなと思っただけで……」


 言い淀む。

 そもそも、たとえ徹自身が引き金になったとしても、争った当事者である蓮花とカレンの出来事である。彼の出る幕という偽善な上等な話題の入り方は、最初から存在していない。

 嗚呼きっと、もしかしたら最初からこの話題を出す死角すらないのかもしれない。


「はい。あれから何事もないですよ」

「──そうか。それは良かった」


 しかし、それでも蓮花は必要最低限ながらも、此方の意思を汲み取って答えてくれた。

 ──気配り上手な、鈴野蓮花。彼女が基本的に誰からも一定以上の好感度を保有している、その一端なのだろう。

 だけども、蓮花だって万能でもない。

 出来る事だって、出来ない事だって。人並みには、存在している。


「だけどよ、何だったんだアレ。まだ蓮花さんとアイツの喧嘩だけなら、まだ理解できるんだがよ。あの後、情報規制されたのは納得いかないな。もしかして……」

「──健。言っていい事と悪い事はあると思うよ」

「おっと、失言だったか。それは悪かったな、忘れてくれ」


 当の蓮花が何かしらフォローをする訳でもなく、反応をする時間があった訳でもない。

 まるで、暴走車が勝手に発進したかと思えば、その数瞬後には急ブレーキをしたような、時間が飛んだ感覚。

 それでも、その内容を聞き流すほど、蓮花は平和にどっぷりと浸かっていた訳ではない。

 ──いや、浸かっていた過去とは違う。と言うべきなのだろう。


「此処だけの話、政府の上層部がですね、あの一件を揉み消したからですね」

「「「──っ!」」」

「ですがそれは、向こうの思惑もあるでしょうけど。だからこそ、こうして日常生活を送れているんです」


 どうにか、魔法少女の詳しい事について省いた上で、拙い説明をする。

 正直言って、彼等からすれば、蓮花にはその事実を説明する義務はない。知らない事実は、他人からすれば義務ではなく、己が内の貯める矜持である。

 だけれども、この事実を言わなければきっと、このまま停滞したままの日常を繰り返す事になるのだろう。


「(──それは、嫌だ……)」


 それは、ただの矜持。

 だがしかし、それは何事にも代えがたい、心の支柱。


 それに加えて、忘れているのかもしれないのだが。健人と啓介はともかくとして、楓雅徹という男子学生は、良いところの実の息子の一人である。

 先の婚約破棄となった件を鑑みれば、その現当主が徹とカレンの不仲の原因を、フェニーミア家の過失として探し出したいのは、あまりそういった事情に詳しくない蓮花であろうとも、予想のできるものだという事。


 蓮花は、カレンの事が嫌いだ。

 それでも、過失が少しでもあって。

 何故と理解できるのならば。

 ──少しだけ、手を貸してあげるのも吝かではない。


 だからこそ、蓮花は言うのだ。


「──それにあの件、如何やらカレンさんは操られていたようですし」


「──君は何故、そんな事を知っているんだ?」


 それは、当然結路であった。

 一方的に巻き込まれた側の人が、そこまで踏み込んだ事実を知るのは可笑しいと、そう徹は言っているのだ。

 詰まる話が、──そう、嫌な予感が予感がする、というやつだ。


「あの時は言えなかったですが、私は魔法少女となりました」

「あぁ、なんとなくは……」

「そして私は、正式な魔法少女になるために“乙女課”と呼ばれる、魔法少女を統括する組織の試験を受けている最中でして。その過程で、あの件の裏側について知る事ができました」


 嗚呼、嘘だ。

 真っ赤な大嘘である。

 嘘だけれども、それは決意であるのだ。


 ──人を救いたいと。

 その決意の楔の一つが、こんな何処にでもある喫茶店なんて、笑い話にもほどがある。

 だが、蓮花自身は決して笑わない。

 笑わせは、しない。



 ♢♦♢♦♢



「──畜生!?見失った。何処に行ったんだ、アイツ等」

「姉ちゃん。アイスの追加ありますか?」

「ほいっ」


 そう言って伊織は、適当にチョコアイスをフレイメリアの口の中に突っ込む。

 もぐもぐとするフレイメリアの姿は、何処か小動物を思い浮かべる。


 あの後、蓮花たち四人が喫茶店から出てきたのを追って外へと出たのだが、人混みに紛れて見失ってしまった。

 流石に、追跡中のひと時とはいえ、ケーキを頼んだのは失敗だったのだろうか。実際、食べ掛けで店を出る訳にはいかず、他に頼んでおいた珈琲と共に飲み干し、また食べつくす羽目になったのだが。

 また機会があるのだとしたら今度は、しっかりと味わってみたいものだ。


 とはいえ、現状をどうするべきなのだろうか。

 適当な人物に連絡を取って彼女達を探すのは、とても現実的な話ではない。

 だがその一方で、このまま足で探すのもまた現実的な話でもない。


「あれ、伊織。こんなところでもどうしたんですか?」

「ん? あれ、涼音さ──」

「ん?」

「おっと、涼音。こんなところでどうしたんだ?」


 何やら、寒気がしたような気がする。


「いえ、丁度散歩をしていた時に貴女を見かけて、ね」

「散歩か、散歩……。お前がそんな暇人みたいな事をするとは思えないのだけど」

「実践を繰り返していると、どうにも向こう側に精神が引っ張られるでしょう。だから、こうして日常を過ごすものいいと聞くけど。──どう?」

「──よく分かっているな」

「流石に、柳田家次期筆頭当主候補には敵わないですけどね」


 戦場で戦っていると、どうしても自身の精神がまるで一本の剣のように変質させられる。

 それがもし、戦国時代のような、戦いに明け暮れたのであれば問題はなかったのだろう。その時はきっと、今と同じ化物としての扱いを受ける事になるが。

 だがしかし、今伊織と涼音が過ごしているのは、表向きは平穏な今現在。

 ──化物が人間にならなければならない、そんな時代なのだ。


「それはそうと、伊織は何でこんなこんなところに?」

「あぁ、実は蓮花とあと男性三人組が集団デートをしていてな。その後を私とメリアが付けていたんだけど、こうして見失ってな」

「……。伊織、貴女って、そんな風の人でしたっけ?」

「──面白いものには興味が湧くというだけのものさ」


 怪訝そうな涼音に対して、伊織は当然と云わんばかりにそう答える。

 たとえ、本人が面白いと思っても他人からしてみればつまらない、本人が面白いと思ってもそれは碌に価値のないものなのかもしれない。

 それでも、面白いものは面白いのだ──。

 もっとも伊織としては、他人の面白いに共感できるのかと問われれば、無理だと即答するのだろうが。


「まぁ、それはそれでいいとして。そちらさんは?」


 一応の納得をしてくれたようだ。

 そして、次に涼音が視線を向けた先にいるのは、先ほどからアイスを頬張っているフレイメリアの姿だった。

 そう言えば、涼音にフレイメリアの事を直に紹介するのは、これが初めてだっけか。


「あぁ、前に妹の写真を見せた事があるだろう。それがこの、柳田フレイメリアだ」

「……。そうですか。あれ? 貴女に妹なんかいないと覚えていますけど」

「まぁな。フレイメリアは、私の実の妹ではない。あれだ、というやつだ」

「そうでしたか……。大変そうですね」

「……えぇ。姉ちゃんの相手をするのは、正直大変です」

「──メリア!?」


 柳田伊織と柳田フレイメリアは、実の姉妹ではない。

 血は繋がっていないし、記録上も実の妹でもない。

 それでも。


「フレイメリアは元々、私の親父の二人目の母親の子でな。まぁ、記録上は血が完全に繋がった実の妹ではないけど、それでも私の義妹いもうとだ」

「──なるほど。伊織の父親はその、を築いているんですね」

「あぁ。今時、お偉いさんがハーレムを築いているなんて、そう珍しい話でもないだろう?」


 この世界においてハーレムというものは、多少の忌避感を覚える人もまだ残っているのだが、それでも一つの文化として残っている。

 何しろ、今現在は“ケモノ”とであるが、長期間な戦争を繰り広げているのだ。

 “ケモノ”が数はパワーだよ戦術を取るのであれば、人間側も多少はその戦術を取るのは、そう可笑しな事ではない。


 この国──日本国というか全世界において、産めよ増やせよのスローガンだ。

 それは、伊織や涼音やカレンにだって、至極当然に求められている事である。誰か男性と結婚して、その子供を沢山作り、そして育んでいく。

 前世が男性な伊織としては、非常に鳥肌を覚える思いであるのだ。


 ちなみに、魔法少女が“ケモノ”との戦線を支えている現状、引退した魔法少女が子供を作る事は急務である。

 何しろ、魔法少女としての才能は、基本的に《《遺伝的形式》》。優れた魔法少女の娘は、優れた魔法少女になる可能性がとても高い。

 故に、ハーレムもとい、も認可されていたりもする。

 何とも、恋愛シミュレーションゲームに最適な話だことで。


「まぁ、そんなクソつまらない話はゴミ箱にでもポイしておいて。──どうだ、私の義妹は可愛いだろ?」

「……そうですね」


 伊織の方を見る事もなく、涼音はフレイメリアの方へと歩み寄っていく。

 当のフレイメリアはというと、何事かと首を傾げるばかり。

 一方の伊織は、何事も問題のないように涼音の姿はそっと眺めていた。いや、その彼女の表情には、まるで好きな自慢の玩具を見せびらかす子供のようなものを浮かべているのだった。


「──貴女、の名前を聞いてもいいですか?」


「……はい。あたしの名前は、“柳田フレイメリア”、です。よろしくお願いしますね」


「ボクの名前は、黒辺涼音。貴女の姉の友達です。よろしくお願いしますね」


「……。」


「……。」


「──あの!」




『──男性は、私たち女性よりも下等で下賤な生き物です!』




 心地よい。まるで、白絹のような声色の会話。

 そんな、伊織からしてみれば頬を緩む光景の中を、一つのが入り込む。

 一摘み、されど一つ。

 雑多な十人十色の会話の中でも眉を顰めたくなるその内容。

 しかして、純白な会話の中に入れようものなら、先ほどまで頬を緩めていた伊織でさえも血管を浮かび上がりそうになる異物。

 されど、そんな不快になっている人等なんて全く気にしていないのか、その彼女は言葉を紡いでいく。




『──今までの社会において、女性の立場は不当にも低かった。低賃金で働かされるし、休みなんて碌にもらえていない。それどころか、男性からのセクハラ行為を受けても、泣き寝入りをする始末でした。』


『──ですが、そんな不当な差別を受ける我々女性陣でありますが、眩いほどの光明が差し込みました。』


『──そうです。という、人類を守る存在です。彼女達は、今もこうして毎日人々を守っています。まさに、その献身には、誰もが感謝を覚えるべき存在なのです。』


『──ですが、男性共はどうでしょうか? よね。』


『──であるのならば、何故こうして今も人を喰らう“ケモノ”と戦っている私たち女性陣が差別を受けて、何故何もしていない男性共が利益を享受をしているでしょうか?』


『──だからこそ、私たち女性が男性共の上に立つべきなのです。彼等が得る筈だった利益を正しい私たちに貰い受け。そして、下賤な彼等を導いていきましょう!』




 ほくほくしていた伊織からすれば、くそったれな演説内容であった。

 不当な待遇を女性たちが受けていたという話は、一度はよく聞く話だ。

 自由平等に反する行為。それ自体であれば特に伊織も問題視をするつもりはないし、他の人たちも賛成意見が多い事だろう。

 だが、彼女達は魔法少女という、自分達ではない誰かの功績を自分達のものとしているのだ。それに加えて、男性陣は何もしていないというイメージを植え付けている。

 魔法少女な伊織としては、別に功績を彼女達に還元するつもりなんて絶対にないし、男性陣が魔法少女でもないのに、“ケモノ”と戦っている事実を知っている。

 ──本当に、くそったれな演説内容だ。

 それは、涼音やフレイメリアも思っている事で、他のこの場に偶然居合わせた群衆たちからしても眉を顰める演説内容である。

 だがしかし、その一方でこの演説を支持する人たちも見受けられる。


「──“女性至上主義者”、か」

「まぁ、戦争の時とか、そういった差別主義者が出てくるのはままある事ですがね。──もっとも、ボクたちが戦っているのは、人間じゃなくて“ケモノ”だけど」


 ちなみに、そんな女性が男性よりも優れている“女性主義者”という団体がいる一方で、対抗するように同じぐらいに過激な“男性至上主義者”なんて団体もいるのだけど、それはまた別の話。


「……さっさとこの場を離れるか。目を付けられて関わる羽目になるなんて、私たちは、ごめんだからな」

「そうですね、さっさと離れましょう」


 そう言って、伊織と涼音、それとフレイメリアはこの場を去っていった。

 このまま、女性至上主義者の演説を聞いていようものなら、耳が文字通り腐ってしまいそうだ。

 何も各自自らの耳というものは、聞くに堪えない言葉の欄列を傾聴するためのものではない。確かに、日常生活の中から必要な聴覚的情報を手に入れるという必須項目であるのだが、自信に満ちた罵詈雑言な情報を得るためではない。


「──姉ちゃん、姉ちゃん。」


 ──そんな時だった。

 その出来事に対して、何故と問う質問が聞こえる。

 正直、伊織としてはフレイメリアと涼音の会話を邪魔された事実から、思い出したくない出来事なのだが、相手が相手なだけに答えないという選択肢は彼女にはなかった。

 もし、あの場からさして離れていないのならば彼女といえど話すのにも躊躇するのだが、こうしてある程度離れた以上は話しても大丈夫だろう。


「──どうした、メリア」

「何故、あの人たちはああ言っているでしょうかいるでしょうか?」


 そう言われても、その感覚を持たない伊織としては理解できない話。というか、理解したらいけない話なのだろう。

 とはいえ、何も答えられないというのは、姉の威厳が廃るというもの。

 ──話を逸らしつつも納得できる、そんな内容にするしかない。




「──多分、楽しいからだろうな」

「?」

「そして、差別というか他者に対して優越感を得たいのだろうな」

「愉悦感?」

「そもそも差別というものは、安価で費用対効果の高い一種の娯楽だ。そこで生じる優越感な美味は、そう簡単に超えられるものなんて現れない、極上の料理のようなものだ。別私は、味わいたくもないけどな」


 そう、彼女達は自らの無茶苦茶な意見を通した事による全能感、他者を貶める事によって生じる優越感。

 ──それは一種の娯楽なのだと、伊織はそう言っているのだ。

 そりゃ、掛ける手間暇以上の圧倒的な自己肯定感を得られる故。多少の損はあろうとも、自身の利益を取りたい人なんかには、それはそれは美食なのだろう。

 もっとも、その美食は巷で言うゲテモノ料理の類なのだろうが。


「──っと、そう言えば。蓮花たちを探している最中だったな」


 ──この胸糞悪い会話の内容をリセットすべく、伊織は思い出したかのように会話の話題を変えた。

 そもそも、伊織とフレイメリアがこうして町を彷徨っているのは、見失った蓮花たちを捜索しているためだ。決して、あんなクソみたいな演説を聞くために、今此処にいるのではない。


「なぁ、涼音。私たちと会う前に、蓮花たちを見なかったか?」

「……蓮花?」

「ほら、前にカレンの件で蓮花と一緒にいた、男子生徒三人組だ」

「そう言えば、中央広場で見かけたけど……」

「よし、来た!」


 そう、喜々とした表情で答える伊織は、早速行こうと足を進めだす。

 確か、この辺りから中央広場まではそれなりの時間があるために、行くのだとしたら早めの方が断然良い。

 それでも、もう既に蓮花たちがいないという可能性がある。

 だけれども、行ってみるには十分過ぎるほどの情報だ。


「ありがとな、涼音」

「えぇ、今度軽く何かを奢ってくれると嬉しいです」

「何かそれ、碌でもない気がするんだけど。まぁ良いか。──よし、メリアも一緒に行こうか!」

「──アイス、なくなりました」

「なん、だと……!?」



 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷


 お疲れ様です。

 もしかしたら今回のお話は、人によっては不快感を滲ませるかもしれません。しかし、今後の展開で必要になってきますので、こうして書かせていただきました。

 感想やレビューなどなど。お待ちしております。

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