第016話『攻略対象との接触』
今現在、昼の放課中。
いつもなら、別段取り上げる必要もないのだが、今日に限っては違う。何せ、普段は中庭でだらけている筈の伊織が何やらやる気を上げているのだから。
そんな光景を慣れ親しんでいる他生徒からすれば、驚愕に値するものになるであろう。
「さて、これから蓮華と相性の合う人を探したいと思う」
「い、伊織さん!? 相性なんて、学園で言う事じゃ……」
「? 別に語弊がある訳じゃないだろう。ただ単に、此方に事情を知らない一般学生が勝手に勘違いをするだけだ」
「それを語弊と言うんです、伊織さん!」
そんなこんなで、何故伊織がやる気になっているのかというと、何と此処に来て初めての各攻略対象を主人公が堕とす、あの学園生活シーンがあるのだ。これが落ち着いていられるか!
しかし、そんな伊織、もしも数日前に攻略シーンを伊織のすぐ傍で起こされていたら、きっと曇天模様となっていたことだろう。
「ふっ、ふっ、ふっ──」
「……」
だがしかし、今の伊織には涼音というこの学園の一つ上の生徒にして女性、しかも変な性癖などはなく、これ以上ない友軍がいるのだ。これなら大丈夫だと、伊織自身の勘もそう唸り声?を上げている。
「さぁ、攻略しに行こうではないきゃ!」
「……」
「すまない、噛んでしまった……」
♢♦♢♦♢
今頃になって言うが、この『花散る頃、恋歌時』では、前に会ったことのある黒髪の男子生徒こと楓雅徹の他にあと二人存在している。
まず最初に、黒髪男子生徒な“楓雅徹”。
徹の家はかなりの名家だ。その力はカレンの実家とほぼ同格、一代で財を成した柳田家では到底かなわないほど。少なくとも、世界で両手の指には入る事だろう。
しかも、運動神経抜群、成績優秀と隙がない。運動神経は高いが、それでも柳田家の看板を担がされそうな伊織には敵わない。成績も、前世というアドバンテージを持つ伊織とそんな伊織が教育を多少施したカレンが負ける筈がない。……、あれ? これって、余計な事をしたか。
そんな優しい徹に女性プレイヤーが堕とされるのは、絡まれている主人公を助けるべく現れた勇敢な彼のシーンだ。いや別に古典的なシーンだと思わなくもないが、おそらくはそれまでの日常と追憶、それらを経て彼が登場するのだから、破壊力が半端ない。
そして次に、燃えるような赤色の髪をした男子学生な、“城ケ崎健人”。
健人の家はそれほど裕福ではないが、何とかこの学園に入ってきた生徒の内の一人らしい。そんな彼と蓮華の相性はこれ以上ってないくらいに良かった気がする。同族意識なのだろうか。
運動神経は、徹を上回るほどある。流石に伊織には到底かなわないが、幼い頃から運動してきたカレンでさえ彼には勝てないのだろう。
ちなみに、運動は出来ても、学力面がかなり残念だったりする。
そして、女性プレイヤーが堕とされるシーンは、雨が降り続いている放課後の事だった。最初の頃は伊織も肉体言語で語り合うといった脳筋なルートとばかり思っていたが、まさか雨がざぁざぁと降る放課後にしっとりとした告白シーンには、流石の伊織も唸ったほどだ。
長くなってしまったが最後に、紺色の髪をした男子生徒こと、“瓜生啓介”。
啓介の家はそれなりの家で、攻略対象同士で比べるのだとすれば、健人以上徹以下といったところか。別にそれなりというのは、おそらくは謙遜なのだろう。この聖シストミア学園に在籍している生徒達からすれば、フェニーミア家や楓雅家以下なのは当然の話だ。
学力は、徹よりも上、大体前世の知識ブーストしている伊織やカレンと同等といった具合。これには流石の伊織もケアミスがある上、百点以上を取ることができないのだ。
ちなみに、学力ができても、運動面はもやしっ子同然だ。
故に、啓介と健人はかなり一緒につるんでいたりする。これには、女性プレイヤーの間で健人×啓介というカップリングが密かに成立しているが、元男性な伊織からすれば『?』しか浮かばない話であった。
そして、女性プレイヤーが堕とされるシーンが、啓介が蓮華に対して泣きながら怒る一シーンだ。何を言っているのかさっぱり分からないと思うが、元々彼は大して才能がある訳ではなく、その血の滲む努力によって今の学年主席を勝ち得た。
そんな啓介が蓮華に対して恋愛感情を持って行くが、その頃には既に彼女は彼のすぐ下にいたのだ。
蓮華のために努力をした啓介に対して、啓介のために才能を伸ばしていった蓮華。
果たして、最初に爆発したのが、啓介だったという話なだけだ。
ちなみに、ハーレムルートなんてものも存在していたりするが、かなり厳しい。何せ、徹は他の攻略対象の二人からあまり快く思われていないからだ。
こういう話かつ他人事なら、頭くるくるぱーで良かったんじゃないかと失礼に思う伊織であった。それならもっと、簡単な話だっただろうに。
♢♦♢♦♢
「──伊織さん。何で、徹さんや健人さん、啓介さんの三人なんですか? 他の魔法少女の方が、より強くなれる気がしますが」
「まぁ、大丈夫だ、問題ない。きっとうまくいく」
そう伊織が適当に答えているような気がしなくもないが、それなりの自信を彼女は既に持っている。
まずは、魔法少女という
故に、蓮華の攻略対象な三人に、何かしらの《マホウ》的な繋がりがあったって不思議じゃない。
次に、蓮華自身の好感度について。
前に言ったように、何度か伊織と涼香で蓮華の
故に、最終的には恋人となる攻略対象な三人は、上限がかなり高いとみてもいい。もう少し、実験個体がいれば断言できるだろうが、少ない今はおそらくといった辺りだ。
「………、伊織さんは付いてきてくれないですか?」
「まぁ、私が付いて行っても別にいいんだが、相手が徹だと友人感覚で話そうでな。お前たち、それなりに恋路が進んでいるのだろう?」
「そ、そんなんじゃないです!?」
そう蓮華は否定の意を表すが、彼女の顔が高揚している以上、その言葉の効力は半減がいいところだろうな。
♢♦♢♦♢
最近、カレンの様子がおかしいと思う。
以前は、関係が冷え切りながらもそれなりの関係を続けてきた筈だ。政略結婚故、そこら辺はお互いに了承した筈なのだ。
しかし最近になって、カレンと徹の関係は極寒の冬国に近いほどに冷え切っていている。流石にこれには徹は何が原因かも分からずにとにかく謝罪を繰り返すが、カレンの口調だけはいつものように優し気だ。
「……俺としても、婚約破棄なんて結果にはなりたくはないけど、カレンさんはカレンさんで表面上はいつものように振る舞っているし。──本当に、どうしたものか」
最近、蓮花さんの事が気になっている。
きっかけとしてはとても些細なもので、それ自体はよくある話の一つに過ぎないのだろう。実際、池の中に石を投げ入れて、それで何かに当たるぐらいの確率だ。
ただいつも間にか───いつの間にか徹は、蓮花の事を目で追うようになった。その事実が自分でも分かる程度には夢中だった、と思っている。
「お、おはようございます、徹さん……」
「おっ、おはようございます、蓮花さん。き、今日も良い天気ですね」
などと色々と考えていると、まさか話題に挙がった蓮花に話し掛けられるとは、徹も思わなかった。現実は小説より奇なりと言うが、こういう心臓に悪い事は止めて欲しいと、それと同時に思うのだ。
「あのっ、この前は助けてくれてありがとうございました」
「いや、困っている人を見過ごせませんでしたし。それに、──」
「──なぁ、少しいいか?」
そんな絶好の時だった。
先ほど蓮花と別れて何処かへと歩いて行った、伊織の姿がそこにはあった。しかも、何やら面白そうな事を思い付いたかのような表情をしていて、先ほど蓮花を徹の元へと押し付けていった時を思い出させるものだ。
それに加えて、伊織の後ろには蓮花が後から話し掛けようとした、健人と啓介の姿があるのではないか。
これで嫌な予感をしないというのは、間違いなく危機感辺りが足りないのだろう。
──そして、蓮花の嫌な予感は、予想する物語の伏線並に当たるのだった。
「──中距離走、しようぜっ!!」
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お疲れ様です。
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