【感謝1.7万PV】やさしい監禁-幼馴染のお姉さんにお金をあげるからあなたの人生をくださいと言われた

猫カレーฅ^•ω•^ฅ

1_お姉さんと10年ぶりに再会した

「あっくん、私に監禁されてみないかな?」


「は!?」



 場所は喫茶店。静かな店内で俺の間抜けな声が響いた。

 俺は、美人でお胸の大きなお姉さんと同じテーブルについていた。このお姉さんの名前は、桜川瑚々乃さくらがわここの。 広い意味で言えば……俺の幼馴染だ。


 少しカラーが入った亜麻色のフワフワのロングヘアに、ブラウン系のニットワンピース。

 細身なのにお胸が大きく、否が応にも視線を持って行かれる。

 ちょっぴりたれ目気味で俺の琴線に触れまくっている。


 可愛いと美人が同居する感じではっきり言って好みだ。ど真ん中のドストライクだ。

 こんな結婚詐欺師がいたら、俺は絶対騙される!

 それくらいけしからんお姉さんなのだ。


 ただ、俺とお姉さんが「馴染んでいた時期」は、俺がまだ小学生の頃のこと。

 たしか、小3とか小4の時だったと思う。

 その後疎遠になって10年…まではないかな。

 あの頃既に、お姉さんはお姉さんだったので、今いくつだろう?


 俺の記憶が確かなら、7つか8つ違うから、俺が今19歳なので、お姉さんは26歳か27歳というところか。

 以前からきれいだったけれど、年齢と共にもっときれいになった印象だ。


 ここで改めて、俺の目の前に置かれたカフェオレのカップを見る。

 湯気こそ出ていないが、まだまだ温かい。

 一口飲んで、これが現実であることを確かめた。


 うん、うまい。

 お姉さんに呼び出されて来た喫茶店だったが、カフェオレの味はよかった。

 いや、待て。店は何も悪くない。

 このお姉さんが変なことを言うから、俺が動揺しているだけだ。

 そのため、店の印象も悪くなっているだけだ。


 思い出してみよう。俺がお姉さんと遊んでいたのは俺がまだ小学生の頃。

 当時のクラスメイトと馴染めなかった俺は一人公園で遊んでいることが多かった。

 そんな時にお姉さんは俺と遊んでくれたんだ。


 少しマセガキだった俺は、年上だけれどきれいなお姉さんが大好きだった。

 多分、初恋だっただろう。

 当時の俺は、お姉さんに「大人になったら結婚してやる」って言ってたな。

 超上からの物言い……思い出しただけで恥ずかしい。

 そんな余計なことを思い出して、俺は少々挙動不審になっていた。



「言い方がよくなかったかな?」



 俺が、少し混乱気味に色々考えていると、お姉さんがさらに話しかけてきた。

 反射的に俺は顔を上げ、お姉さんの顔を見た。



「私があっくんをちょっぴりだけ監禁していいかなってこと」



 2度目聞いたけれど、何も新しい情報はない。

 その昔、俺が「あっくん」と呼ばれていたかを思い出したくらいか。

 藤村旭ふじむらあきらだから「あっくん」。

 それは別にどうでもいい。


 昔はキラキラしたお姉さんだった記憶があるけど、こんな危なそうなことを言う人になったのか。少し残念なような、寂しいような気持になった。



「普通に嫌ですけど」


「え!?ちょ、ちょっと待って!私のお願い聞いてくれたら、私のお金全部あげる!これでどう!?」



 お姉さんは益々ダメそうなことを言った。



「あれぇ~、そんな表情になっちゃうんだ……」



 俺が心の底から嫌な顔をしていたのだろう。

「苦虫を噛み潰したような顔」とはこういう顔だろうか。

 それがお姉さんに正しく伝わっていると思う。


 そもそも、俺は目の前のお姉さんに呼びだされてここにいる。

 一人暮らしをしている俺の電話番号を探し当てて電話してきたのだ。

 俺の電話番号なんて親くらいにしか知らせていないから、親経由で聞いたのだろうか。


 ほとんど記憶にはなかったけれど、お姉さんに対して小さい時遊んでもらったいいイメージしかなかった。

 だから、久々に会ったら仲良くなったりできないだろうかとスケベ心満載で会いに来てしまったのが間違いだったらしい。


 10年ぶりに連絡してくる友達なんて、高級羽毛布団を売りつけてきたり、業務用浄水器を売りつけてきたり、そんな感じだとは思っていた。

 だけど、お姉さんならば違うと思っていたのだ。

 それが、よりによって「監禁していいかな?」って……



「ちゃんとあっくんのことは、養うからバイトは辞めてもいいんだよ!?一生、三食昼寝付きにおやつ付きだから!」



 この状態で「はいOKです」という人がいたら見てみたい。

 俺の目はきっと半眼になっていることだろう。

 怪しさ満載のお姉さんに、ここまで来たこと自体時間の無駄だったことと、昔とはいえ好きだった人がこんなになってしまったことを悲しく思ったことしか感じなかったので、コーヒー代だけ払って帰ろうとカバンから財布を取り出そうとしていた時だった。



「ラストチャーンス!話!お話だけ!聞いてくれたら何でも言う事をききます!」



 お姉さんがすごく必死になればなるほど、俺の気持ちは下がっていく一方。

 ただ、こんな美人に「何でも言うことをきく」と言われたら、多少は興味はひかれる。

 そりゃあ、そのよくお育ちになったお胸を生で揉ましていただく一択だろう。


 しかも、こちらは話を聞くだけでいいらしい。

 素人判断だけど、リスクらしいリスクはない。

 入会金を払って高級羽毛布団や業務用浄水器を買わなくていいらしい。

 新しい会員を見つけてきたりもしなくていいらしい。


 俺は一旦立ち上がろうとしてあげた腰を再び下ろした。



「本当に話だけですからね?あと、高級羽毛布団も業務用浄水器も買いませんから」


「布団と浄水器が欲しいの?お姉さんが買ってあげようか?」



 売り込んでくると思った高級羽毛布団や業務用浄水器を逆に買ってくれると言いだした。少なくともマルチの売込みではないらしい。

 まあ、どちらもうちには必要ない物だ。



「話だけですよ?」



 俺は少しぶっきらぼうに言った。

 まだ心を許したわけじゃないことを知らせるためだ。


 それを知ってか知らずか、お姉さんはテーブルに肘をつき、掌は彼女の頬に当てられ、頬杖の状態でニコニコしながらこっちを見てきた。



「あっくん、大きくなったねぇ。しっかりとした大人になって、お姉さん嬉しいわぁ」



 しっかりとした大人と言ってもらって申し訳ないが、俺は高卒のフリーター。

 夢も無ければ、やりたいこともない。

 ちゃんとした大人と言ってもらえる資格はないと思えた。

 少なくとも俺が小さい時に思い描いた大人にはなれていなかった。



「改めて、自己紹介から。桜川瑚々乃28歳。職業ライター兼ソフトウェアエンジニアです♪夢はあっくんを甘やかしまくって同棲生活に持ち込むことです♪」


「……」



 またとんでもないことを言いだした。

 誘っておいて、いざ手を出そうと思ったら、後から黒いスーツにサングラスの怖いお兄さんが出てくるパターンだろうか。



「……」


「……」



 ここで変な間ができた。お姉さんはニコニコ笑顔で俺の言葉を待っているようだ。



「え?もしかして俺も?自己紹介すんの?」


「お願いしますっ♪」



 鈴の音のようなかわいい声でそんなお願いをされたら断れる男はいるはずがない。

 知っている人に自己紹介をするという羞恥プレイを強要されている。

 ただ、お姉さんと会うのはざっくり10年ぶり。

 近況を話すという意味では改めての自己紹介もいいのかもしれない。



「藤村旭、19歳。高卒のフリーターです。今はパン屋のイートインコーナーでスパゲティとかスープとかの料理出してます。趣味は読書。ハッピーエンドの話が好きです」


「さすがあっくん!やっぱりあっくん以外考えられない!」



 お姉さんがめちゃくちゃ笑顔で喜んでる。

 自己紹介で褒められるのって未経験なんですけど……



「小さい時の口癖は?」



 お姉さんが俺の自己紹介に茶々を入れてきた。

 ニコニコしている笑顔が可愛すぎて憎い。

 なにを考えているのかは皆目見当がつかないけれど。



「口癖?そんなのなかったと思うけど…」


「『大きくなったらお姉さんと結婚してやる』じゃなかったかな?」



 最悪だ。

 このお姉さん、俺の黒歴史を覚えてやがった。

 俺の顔が途端に赤くなっているのがわかる。


 俺は下を向いて顔なんて上げられない。

 すごく恥ずかしい。今すぐ家に帰りたい。



「私ね、嬉しかったの。だから、あっくん最近どうしてるかな、と思ったら、もう十分大きくなったし、結婚してもらおうかなって」



 えー!?マンガやアニメじゃないんだ。

 昔の幼馴染がずっと好きだったとか、結婚しようと思っていたとか、そんなことがある訳がない。

 それが今、このお姉さんはキラキラした瞳で祈るようなしぐさで過去を語っている。



「あれ?テンションが上がると思って言った内容で、あっくんのテンションがダダ下がり……」



 お姉さんは「なぜ!?」という顔をしていたが、当たり前だ。

 昔は仲よく遊んだ仲(実際は遊んでもらった)だが、それも10年前の話。

 こうして会ってみるとお互い大人だ。初対面とたいして変わりはしない。


 会って即行「監禁したい」「同棲したい」「結婚したい」と言ってきたら、怪しさしか感じない。

 しかも、干からびた様な人ならまだしも、キラキラ美人で、全身細い癖におっぱいバイーンだ。モテてモテて困っちゃうのMMKに違いない。

 笑顔も素敵だし、口の辺りに手を添えて笑う仕草も可愛いとしか言いようがない。


 年上だろ!アラサーだろ!なんでそんな乙女みたいな瞳をしているんだ!

 惚れてしまうじゃないか!

 どうしようもなく惹かれる本能と、危険を告げ続ける理性の綱引きで俺の脳髄はどんな表情を作ったらいのか判断に困っているようだ。



「久しぶりだね。あっくん」


「あ、はい。お久しぶりです」


「あー、あっくんがちゃんとしてる……」



 普通の返しだったと思うのだけれど、お姉さんは額に手を当てて考えこんでいる。

 そんな悩ませるようなことを俺は言ったのだろうか。



「あのー、さっきの監禁って、ヤンデレ的な感じですか?家に連れ込んだら、俺の足の骨を折って動けなくしたり、縛って拘束したり……」


「うっわ!なにそれ、こっわ!そんな痛そうなこと、私があっくんにする訳ないし、できる訳ないじゃない!」



「もー」みたいな感じでかわいらしく頬を膨らませて怒っているけれど、一般的に「監禁」と言ったらそれくらいのイメージではないだろうか。

 そんな明るい監禁があってたまる訳がない。



「あっくん、ある日、90歳のお金持ちの令嬢が結婚を申し込んできたらどう思う?」



 もう、訳が分からない質問だ。なんの脈絡もない。

 ここまでの会話で分かったことがある。

 お姉さんは、基本的に人の話を聞かないし、ヤバい人だ。


 俺のできる最善の手は、一刻も早くこの場を離れて家に帰って寝ること。

 そして、お姉さんのことはいい思い出のまま、今日のことは忘れてしまうことだ。



「お姉さん、話ができてよかったです。それじゃ俺、これで…「あっくん、これからうちに来ない?」



 お姉さんが被せてきた。

 俺はもう帰ろうと本気で思っていたけど、「うちに来ない?」と!


 これまで彼女がいなかったどころか、友達もいなかった俺にとって、若い女性の家に招かれるというのは一生に一度あるかないかの一大イベント。


 俺は二の句が出ないで止まってしまった。今の一言で家に帰りたさもなくなった。



「一旦、私の家を見てから決めてもいいと思うの」


「……何をですか?」


「監禁されてもいいか」



 やっぱり監禁するんだ……俺はこのお姉さんに着いて行ったら、きっと部屋にはSM用の器具や設備が備えられた部屋に通されて、拘束されて二度と太陽を見ることなどないだろう。

 そして、その部屋はきっと地下室。そんな勝手な想像をしていた。


 想像をしている間にいつの間にかお姉さんの家に着いているーっっ!!

 どうした俺の危機感!しっかりしろ俺の警戒心!


 こういう時は「いかのおすし」だろう!

「いか」…行かない!

「の」…乗らない!

「お」…大声をだす!

「す」…すぐに逃げる!

「し」…知らせる!

 これらの頭文字だったか。



「あっくん、いかのお寿司食べたいの?」


「あ、いえ……けしてそんな訳では……」


 思わず口から出ていたらしい。


 なぜ、タクシーに乗せられて、俺はタワーマンションの真ん前で降ろされたのか!?

 自ら行ったし!

 自らタクシーに乗ってるし!

 おとなしくしてたし!

 逃げなかったし!

 誰にも知らせる人がいない!


「じゃーん、ここが私の家でーす!」


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