第106話 要予約

「始め!!」


教師の号令で、四回戦第二試合が始まった。



この試合の立ち上がりは両者の雰囲気とは裏腹に、静かな展開を見せた。



それはパワータイプのゲレラが積極的に距離を詰めず、様子を見ている事に起因する。



「なんや、こーへんの?」



「……」



「俺にとっちゃあええ事なんやけど、なーんや企んどんなあ。どないしよか…」



そのゲレラの静けさに、オーフェルも合わせるような形で様子を見ていた。



散発的な魔法をオーフェルが繰り出し、それをゲレラが躱しながら様子を伺う形で試合が展開されていく。



思わぬ膠着状態に陥った第二試合だが、口火を切ったのはオーフェルだった。



「こら埒あかんわ。こっちから行くで!!」



無詠唱で自身に加速魔法を付与すると、ゲレラの周りを駆け出した。



図らずも第一試合と似た運びになったが、オーフェルの選択はより攻撃的だった。



「炎よ、囲え!!」



オーフェルの手から現出した炎が、ゲレラを囲うように展開する。



「へへっ、これで動かれへんやろ!ほんで次は…これや!!」



今度は無詠唱で腕を天に向け、続けて振り下ろす。



ゲレラよりも二回り程大きな岩が、ゲレラに向かって幾つも飛来した。



「ふん。ううぉらあああ!!!」



ゲレラはそれまでの応酬で強化していた自身の肉体に物を言わせ、天から落下してくる岩を砕いていく。



「カハハ!ウソやろ!おっさん固すぎやて!!」



オーフェルは笑った。



ゲレラはジロっとオーフェルの様子を窺うと、突然走り出す。



「お?なんや?…はい?」



オーフェルは炎の壁に向かって駆け出したゲレラを面白そうに見ていたが、次の行動に驚愕を隠せなかった。



ゲレラが炎の壁に突っ込む。



そしてそのまま突破した。



「いやいやいやいや!どないやねん!!」



「うおおおお!!!!」



そしてゲレラは勢いそのままに、慌てふためくオーフェルに突進していく。



掴みかかるゲレラの腕を、オーフェルが躱す。



「近い近い!寄らんといて!!」



慌てるオーフェルだが、もちろんゲレラは聞く耳を持たない。



ゲレラが顔面目指して伸ばした拳をオーフェルが躱してバックステップで距離を取ろうとするが、ゲレラは追いすがり距離を開けない。



「そうらああ!!」



「ぐあっ!!」



ゲレラの前蹴りが遂にオーフェルを捉え、オーフェルの身体が宙に浮く。



ギラッ



「うおおお!!!!」



「うあああ!!!!」



ゲレラの両拳がオーフェルの腹部に集中的に打撃を加え、オーフェルはなすすべなく吹き飛ばされた。



「うおっしゃあああ!!!」



ゲレラが拳を天に掲げ、観衆が大きな歓声を上げた。



しかし直後、目を見張る。



「痛ちちち…あー、ビビったー。」



オーフェルが少しつまづいた程度の呟きを見せながら平然と立ち上がってきたのだ。



「な…?」



「お、今度はおっさんビビる番か?まあこれでトントンやな!カハハ!!」



オーフェルは笑うが、ゲレラにとっては笑い事では無い。



完全に勝ち切った手応えだったのだ。



これで倒せないとなると、それこそ殺し合いになってしまう。



「あー、フツーに喰ろたらカラダいわしてんで。魔法や、魔法。蹴り以外はガード間に合うたんや。ギリッギリやったけど、な!」



オーフェルは種明かしをしながら、笑顔で魔法を飛ばす。



「くっ!」



飛来した炎をゲレラがすんでのところで躱す。



「ほい!ほい!」



オーフェルの両手から次から次へと魔法が飛ぶ。



「ぐっ!くそ…」



「そら!そら!まだまだいくでー!!」



「ぐっ、うあああ!!!」



躱し続けていたゲレラだが、一度被弾すると続けて被弾してしまう。



しかし持ち前のタフネスで倒れない。



「カハハ、ほな!」



炎の飛来するペースが落ち、ようやくゲレラは一息つく。



それを見たオーフェルはニヤリと笑うと、左手をバッと上げた。



「なんじゃ!?」



ゲレラの足元から植物が伸び、身体を拘束していく。



「これで終いやな!」



身動きを封じられたゲレラに高速で接近したオーフェルが掌を当てる。



「どないする?」



「ぐっ………くそ……降参だ。」



「勝負有り!オーフェルの勝利!!」



「よっしゃ!」


勝敗が決まり、オーフェルがパチンと指を鳴らす。


スルスルと体を拘束していた植物が引いていき、項垂れるゲレラが解放された。


「くそ…俺は…」


「まあそう気ぃ落とすなや!俺はいつでもリベンジ受け付けんで?」


肩を落とすゲレラに、オーフェルがたまらず声を掛けた。


その言葉にゲレラはジロっとオーフェルを睨みつけ、人差し指を突きつける。


「フェルさんと呼ぼう。」


「はい?」


唐突な申し出にオーフェルは理解が及ばない。


「俺は尊敬する相手に愛称をつける。あんたは今日からフェルさんだ。闘技祭が終わったらバンバン胸を借りるからな!」


「ちょ、ちょお待ってや?こっちにも予定ってモンがあるやろ?」


「知らん。」


ゲレラは言いたい事だけ言うと、ブスッとした表情のままフィールド中央から去って行った。


オーフェルは面倒ごとの予感に頭を抱えながら、ダラダラとフィールド中央から歩き出す。


「予約制とかにでけへんかな…」


オーフェルの呟きは誰に届くこともなく、風の中消えていった。

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