第105話 思い過ごしと予想以上
ジョンに負担の大きい雷魔法が直撃した事で、ファムは喜びと同時に心配も抱える事となった。
(え、あの魔法、当たっちゃうと不味いんですけど…)
実はファムは当てるつもりは無かった。
自身最強の雷魔法でなんとか隙を作り、その隙を活かして自身の攻勢を強めるのが目的。
雷が直撃するというのは、並の衝撃では無い。
いくらジョンとはいえ、すぐに処置をしないと命に関わる。
ファムは未だ土埃が舞う中、ジョンの立っていた地点へ見当をつけて駆け出した。
(アゼリアさんから教わった治癒魔法でなんとか命は繋がなきゃ…!)
「ジョンさん!!」
「なんだ。」
トンッ
「え…」
ドサッ
土埃の中から突如現れたジョンの手刀で、ファムは容易く意識を刈り取られてしまった。
「勝負有り!ジョンの勝利!!」
会場内に、戸惑いがちな反応が広がる。
無理もない。
この広い会場内でも、何が起こったか正確に把握しているのは両手の指で数えられる程度だ。
(ジョン…恐ろしい事を考えますね。その発想はありませんでした。)
ケントもそのうちの一人だ。
(文字通り光速で迫る電撃に対して、霧散させるのではなく発散させる。それによってファムの視界を妨げ隙を作り、そこを突いた…同じ学院生の発想とは思えませんね。)
ジョンに直撃したように見えたのは、障壁と体がほぼゼロ距離であったからこそ。
それまでの魔法は余裕を持って霧散させていた事が伏線となって、ファムを含め多くの者を惑わせた。
結果として、ジョンはほぼ無傷でベスト8に駒を進めたのだった。
「ファム!」
「大丈夫。ただ気を失っているだけだ。」
駆け寄ったケントに、ファムを手渡すジョン。
「流石ですね。あんな対応、普通思いつきませんよ。」
「?俺は慌てて防いだだけだが?」
「え…」
ケントの思い過ごしであった。
「しかしファムは強いな。最後の魔法が直撃していたらどうなっていたか。」
「…はい。凄い子なんですよ。」
自分の予想以上にジョンを追い詰めていた同級生を心から誉めながら、ケントは兄と共にフィールド中央から離れるのであった。
続いて、第二試合。
ここで登場するのは、まず生徒会メンバーである力自慢のゲレラ。
そしてもう一人は…
「ケント。あいつがオーフェルだ。」
ジョンの鋭い声に、ケントは未だ目を覚まさないファムを木にもたれかからせながら、フィールドへ目をやる。
そこにいたのは、今にも口笛でも吹き出さんばかりに飄々とした男子生徒がいた。
「あれが…」
「そうだ。マールはあいつに倒された。」
ジョンの平坦な声からは、感情は読み取れない。
「なにか不正のような事は?」
「少なくとも俺に分かる範囲では行われていない。それに俺から見ても奴の魔法は優れていた。恐らく不正は無い。」
(ジョンがこんな言い方するなんて…余程優れた使い手なのでしょうね。しかしマールさんを倒すほどとなると、対抗戦に出てきてもおかしくないと思いますが…)
「お前がゲレラかー。なんや歳下とは思われへんな!カハハ!!
まあなんや、せっかく相手すんねんから、俺の事よう知って帰ってな!
俺はオーフェルや!」
訛りの強い言葉でフレンドリーに話し掛けるオーフェルに、ゲレラは距離を感じさせる口調で相手取った。
「ゲレラです。普段マールさんにはお世話になっています。」
「ああ、マールさんなー!綺麗な人やったし強かったけど、なんやコンディション悪かったんちゃうかー?
動きん中でめちゃくちゃ迷っとったわ。あんなもん見せられたら、さすがに俺でも突いてまうて。」
(やはりマールさんはまだジョンとの軋轢が吹っ切れていなかったんですね。とはいえ、その隙を的確に突ける時点で、このオーフェルという方の強さもわかるというものですが。)
「そうですか。しかし俺としては一応仇をとりたい。」
「まあ、せやろなー。俺もあんなねえちゃんに面倒見てもろとったら、倒したやつシバかな落ち着けへんわ。」
オーフェルはそう言って、ゲレラの目を見つめ直した。
「ええでー、ゲレラくん。俺にその気持ち、ぶつけたったらええわ。そんかわり、ガチで来なあかんぞ。」
「はい。元からそのつもりですわ。」
ゲレラも目に力を込め、オーフェルを見返した。
こうして両者の戦意が高まり、四回戦第二試合が間もなく始まろうとしていた。
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