第93話 運営会議2日目

「3人とも、昨日はお疲れじゃったの。お陰で闘技祭は形になりそうじゃわい。」


「いえ。元々ほぼケントが考えた事ですし。」


「そうよね。ケントくんって何者なのよ。こんな事新入生が思いつく物かしら。」


ベアムースの労いから思わぬ流れ弾を喰らったケントだが、どこ吹く風だ。


「新入生だからこそ気付く事もありますから。それにジョンがいたからこそ意見を聞いて貰いやすかったというのもありますし。」


「そういうものかしら…まあ良いわ。」


ケントは未だに家族含め、誰にも前世の記憶がある事を伝えていない。


これは周囲を信用していないと言うよりも、ケント自身が自身に起こった事を整理できていないのが原因である。


「まあ良い。昨日で闘技祭の大枠は設定し終わっとるから、今日は来年度の制度改革に関してじゃ。ケント、まず概要の説明を。」


「はい。私が提案した制度改革は、大きく分けて三つ。

一つ目は、入学試験。

二つ目は、クラス編成。

三つ目は、メンター制度です。

これらを組み合わせて生徒の長所を伸ばそうというのが概要です。」


「ありがとう。ここまではジョンもマールも把握しておるな?」


生徒会で先行して聞いていたジョンとマールは頷く。


「まずは入学試験じゃが、闘技は得意じゃが学術は苦手、またその逆の生徒に対してもチャンスを与える。これは教育者として、方向性が正しいのは間違いないと思っとる。じゃが第一学院が求めるのは心技体が揃った生徒じゃ。そこはケント、どう考えとるんじゃ?」


「そうですね、まずは筆記試験を簡略化して、口頭試問に比重を置くのはいかがでしょうか。」


ケントは自身が受験した時から思っていた事を素直にベアムースにぶつける。


「口頭試問…生徒と対話して判断すると言う事か。時間がかかりすぎるのでは?」


「ジョン、そこはやり方次第です。面接官一人に対して複数名の受験生という形式にする事もできますし、選抜した上級生に面接指導を行なってこちらの頭数を増やす事もできます。」


ケントは準備していた副案を提示しながら自身の意見を補強していく。


「なるほど。それなら対応できるか。」


「そうね。ただ、それをするには動き出しを早くしなきゃね。」


ジョンもマールも吸収が早い。


ある程度ケントの提案に対して事前にイメージを膨らませてくれていたのが良くわかる。


「ワシもそこは懸念じゃったが、クリアできそうじゃな。ある程度基準はこちらで設定しておいて、新学期からすぐに動き出せるようにしておこう。」


ベアムースのお墨付きを得て、入学試験に関しては方向性が定まる。


順調過ぎるぐらいに物事が決まるが、これはベアムースの方針によるものが大きい。


基本的には生徒や教師陣の意見を取り入れつつ、方向性がズレていたり無理がある場合には軌道修正をするのがベアムースの基本方針だ。


「ありがとうございます。続いて、クラス編成に関してですが、こちらは私も決めきれておりません。入学時からクラスを分けるのか、それとも学年が進んでから分けるべきなのか。学院長はどうお考えですか?」


「そうじゃな。クラス分けはあくまで基本の単位。指導は授業毎で行う訳じゃから、どちらでも構わんよ。」


ベアムースの返答に、マールが首を傾げる。


「どういう事ですか?」


「クラス毎に授業を行うのであれば、最初の2年は現行のクラス編成、3年次からは…そうじゃな、闘技クラス、学術クラス、総合クラスとでも呼ぼうか。そういった編成にする事が望ましい。ここまでは大丈夫かの?」


マールが頷いた。


「じゃが、例えば1年1組から4組の闘技選択の生徒が受ける授業、学術選択の生徒が受ける授業、という風に授業に生徒が紐づく形式であれば、クラスを分けんでも指導は特化したものができる。じゃから指導面で言うと、クラス分けのタイミングはいつでも良いんじゃよ。」


「なるほど。では他の面からの検討が必要ですね。」


「そう言う事じゃ。」


「学院長、宜しいですか。」


ここまで黙って聞いていたジョンの手が上がった。


「俺はクラス分けを初年度に行うべきでは無いと考えます。」


「ほう。何故じゃ。」


「得意な事と将来やりたい事は必ずしも同じではない。入学時からクラスを分ける事で、将来の選択肢を狭める可能性があります。俺も学院に来るまでは、将来何をやりたいかなど決まっていませんでしたから。」


ジョンの言葉に、ケントは過去を振り返った。


(そういえば家を出る時、そんな事を言っていましたね。一理あります。)


「まあそうじゃな。特徴のある子を見逃さない事ができれば、授業の重みづけで調整はできるか。では4年次にクラスが分かれる形式でどうじゃ?」


「異存ありません。」



こうして話し合いは続いていった。

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