第92話 運営会議

体育祭が終わり、学院内はひとまず落ち着きを見せた。


例年であれば生徒会選挙、文化祭とイベントが更に続くこの時期。


しかし今年度はそれぞれ事情があり中止された。


生徒会選挙においては会長にフリック、副会長にメグと文句のつけようもない2人が早々に立候補してしまった為、対立候補がおらずそのまま当選となった為中止。


文化祭に関しては対抗戦が自校開催の年は実施しないという慣習となっている為、今年度は実施しない。


ただでさえ対抗戦、体育祭と慌ただしかったのに加え、今年度からは更に闘技祭を追加する事になっている。


慣習無しにして考えたとしても、学院側の負担を考えると妥当な判断と言える。


しかし学院全体の落ち着きとは裏腹に、ケントの周囲は慌ただしくなっていた。


「ケントくん、君は陸上部に入るべきだよ!共に世界を目指そう!!」


「いやいや、お前綱引き見てなかったのか?あのパワー。ケント君はレスリング部こそ相応しい。」


「ジョンさんの後を継ぐ気はないかい?筋肉愛好会の次期会長は君しかいない!!」


「いえ、今のところ部活動をするつもりはありません。有難いお申し出ですが、お断りします。申し訳ありません。」


対抗戦に続き体育祭でも活躍したケントのところには、連日勧誘が押し寄せていた。


「ほんとに何も入らなくていいの?勿体無いんじゃない?」


「良いんですよ。私にも考えがありますので。」


ファムが忠告してくれたが、ケントはそれすらもすげなく断った。


「あんたが良いなら良いんでしょうけど…何かまた始める気なの?」


「検討中です。一人で実現できる事でもないので、他の方の反応待ちといったところです。」


ケントの目は窓の外、遠くを見つめていた。


ファムはその姿に、形容し難い感情を抱くのであった。



————————————————



時は流れ、学期末。


ケントはジョン、マールと共に会議室に呼び出されていた。


「今回の特別補講はこの3名に参加してもらう。講師はワシじゃ。」


ベアムースが自らを指し示しながら話し始めた。


「もう3人の得意不得意は把握しとる。今回は学校経営に関して学んでもらうぞ。具体的には、ケントの改善案3つを軌道に乗せる。」


「面白そう!!良いんですか!?」


マールは嬉しそうだ。


「もちろんじゃ。まあこっちの都合も多分に含んどるから、不満が出る事も覚悟しとったんじゃが…」


「この学院でも、今しか携われない。不満など出ませんよ。」


ジョンが力強く答え、ベアムースはどことなくホッとした様子だ。


「そう言ってくれると有難いの。では早速じゃが、まずは闘技祭じゃ。年明けの学期初めにはすぐに動き出さなきゃならん。ある程度骨子はできとるんじゃが、発案者のケント。何か補足はあるかの。」


「拝見します。」


ケントは手渡された資料に目を通していく。


流石はベアムース。


ケントが思い描いた闘技祭のイメージに、ディテールが詰められた物になっている。


「学院長。一つずつ確認させて頂いても宜しいでしょうか。」


「ああ、構わんよ。ジョンとマールも、気になった所があれば聞いてくれ。」


ジョンとマールが頷く。


それを見て、ケントは順を追ってベアムースに問いを投げていく。


「基本構成は予選で人数を絞って本戦は一対一となっていますが、何日間で終える事を想定していますか?」


「予選で1日、そこからは1日に2試合ずつと決勝で1日で5日の想定じゃな。」


ベアムースもこの辺りは元々用意していたので即答だ。


「という事は、予選突破は128人、約10人に1人の想定ですか。妥当ですね。」


「運営だけで言ったらもう少し絞りたいんじゃがな。闘技祭の目的を考えて裾野はギリギリまで広げたつもりじゃ。」


「ありがとうございます。」


ベアムースの言う通り、元々闘技祭は普段発揮する機会の少ない闘技をアピールする為の場。


予選落ちする生徒が多過ぎては意味が無いのだが、ベアムースがしっかりとそこを汲んでくれていた事にケントは感謝していた。


「1日2試合って結構ハードじゃないかしら?」


「そうですが、魔獣や魔物は疲れたからと言って待ってくれませんよ?」


「そうだな。これぐらいは許容範囲だろう。」


「物騒な想定ね…ケントもジョンも、ボルクさんに毒され過ぎじゃないかしら…」


特別補講でボルクにスパルタ指導を受けた2人に、マールは引き気味である。


「ではこの辺りは良いでしょう。続いて試合のルールに関してですが…」


こうしてケント達は闘技祭に関する議論を重ね、終わった頃には既に陽が暮れていた。

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