第65話 対抗戦の終わり
決勝戦の激戦から暫し経ち、陽が落ち掛けた緑のフィールド上では、表彰式が行われていた。
先に表彰を受けたマールは、誇らしげにしながらも涙を湛えて立っている。
「闘技部門、優勝!
第一学院、並びに第六学院!
代表者は前へ!!」
ジョンとマテウスが並び立つ。
「貴殿らはヤネン対抗戦、闘技部門において頭書の成績を収めた!
よって、その栄誉を讃えここに表彰する!
尚、数十年続くヤネン対抗戦において、同時優勝は初の事である!
両者の卓越した戦いは、後年まで語り継がれるだろう!
誇れ!
そなたらは互いに最強であった!」
高揚を隠し切れない様子のヤネン領主、コレアに讃えられ、両者が手を携えて優勝者の証である大きな杯を受け取った。
ジョンとマテウスは目を合わせ、勢い良くその杯を頭上に掲げる。
その時、会場が揺れた。
この2日間で一番の、地鳴りのような歓声に会場は包まれ、こうしてヤネン対抗戦は無事終了した。
————————————————
その夜、第一学院では盛大な打ち上げが行われた。
普段は何もないフィールドや道端が出店で溢れ、代表者はもちろん観戦に訪れた全ての人々が思い思いの時を過ごしていた。
そんな中ケントはジョン、メグと共に、両親であるドリス、マリーナと出店を歩き回っていた。
「それでね!お兄ちゃん凄かったんだよ!火がボワーって出てるのに、グワーって出てきてね、ドカーンって!」
「そうか。あまり覚えていないな。」
メグが楽しそうに身振り手振りでジョンの戦いについて振り返っていた。
「ケント、惜しかったね。あの相手の子は随分と魔法に秀でていた。」
「そうですね。チェンバロさんは強かったです。次があれば負けませんが。」
「お!良く言ったね!さすがアタシ達の息子!アンタ達3人が戦ってる姿が見られて、ホントに嬉しかったよ!!」
ケントはドリスとマリーナに慰められていた。
とはいえ、既に気持ちは切り替わっている。
(ジョンのあの強さ…我が兄ながら恐怖を覚えますね。本人は覚えていないと言っていますが、あれは恐らく…)
「おいケント。言ってくれるじゃねえか。次があっても負けねえよ。」
聞き覚えのある声がしたかと思うと、ケントの後ろからチェンバロが肩を組んできた。
振り向くと、そこにはマテウスやナンナ、グライザもいた。
「今回の敗因は分析済みです。私は身近にジョンもいますから、これからも研鑽を続けますよ。」
「おお、大将も一緒か!アンタ凄かったなあ。それにナンナさんを破ったメグさんも。これはうちの上級生にはちっと気まずいか?」
チェンバロはジョンとメグもその場にいる事に気づき、後ろを振り返る。
「チェンバロ!いい加減その話題に触れるのやめなさいよ!!」
「この中で唯一の勝者たる俺に何という口をきくのか。まったく、嘆かわしいぜ。」
「チェ〜ン〜バ〜ロ〜!!!」
「へへっ、じゃあな、ケント。またやろうぜ。」
そう言い残すと、チェンバロはナンナに追われて風のように去っていった。
後に残されたマテウスとグライザはまたか、と顔を顰めるが、気を取り直しケント達に歩み寄る。
「ジョン、今日は俺の負けだ。」
マテウスがジョンに声を掛けた。
「違う。俺も気を失った。勝者も敗者もいない。」
ジョンはマテウスの目をじっと見つめながら答える。
「そんな事はない。お前の攻撃で俺は気を失った。あの力はなんだ?急激にお前の動きが変わった気がしたんだが。」
「俺もあまり覚えていない。わからん。」
「あれは、フローでしょう。」
「「フロー?」」
ケントの声に、ジョンとマテウスが疑問符を浮かべた。
「極度の集中状態に入ると、稀に自分の意識とは別の意識が身体を動かしているような状態になる事があります。思考や行動も最適化されるんですが、原理は良くわかっていません。正しいかは分かりませんが、普段使っていない部分の脳を使っている、という解釈がわかりやすいですかね。」
「なるほど、正に先程のジョンの状態に当てはまる。」
「ふむ…」
ケントの説明に、ジョンもマテウスも納得顔だ。
「マテウスさん。そろそろ追いませんかな?」
「そうだな。またな、ジョン。」
グライザの催促に、マテウスは歩みを進めた。
「ああ。またな、マテウス。」
ジョンの言葉に、マテウスは振り向かずに右拳を上げて応えた。
こうして、他にも様々な人々と関わりながら第一学院の夜は更けていく。
ヤネン対抗戦
闘技部門 優勝
第一学院、第六学院
学術部門 優勝
第一学院
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