第17話 指導者誕生
ケントは思案の最中に少年が叫び出した事で、自分が没頭し過ぎていた事を悟った。
(私の悪い癖ですね。もう少し周囲に注意を払えるようにならなくては。精進が足りませんね。)
「おい、お前何をした?」
リーダー格の少年がケントに問い質してきた。
とはいえケントは状況を把握し切れていない。
「私はなにも…何があったのですか?」
「男の子があなたをぶとうとしたら、手が痛いってなっちゃったんだよ」
「ああ、そういう事ですか。
それは障壁に素手で打撃を加えようとしたからですね。」
「障壁ってなんだ?」
ケントの後ろに隠れていた少女が事情を説明してくれた事で、ようやくケントは得心がいった。
「魔法ですね。身体を守る壁の事です。」
「!?お前魔法が使えるのか!?」
「…?はい。使えますよ。」
驚く少年に、ケントが伝える。
「そうか…なら、そこの女は許してやっても良い。」
「ほんとですか!?ありがとうござい…」
「ただし。」
思わぬ申し出に少女が笑みを零すが、リーダー格の少年はその少女の言葉を遮った。
「お前。俺達に魔法を教えろ。」
少年はケントを指差し、条件をつきつけてくる。
「俺達には生きる為の術が無い。3日分の食糧が無くなったのは痛いが、それが返ってきたところでその先どうなるかはわからない。
俺達がその先を生きる為の術を、お前が寄越せ。」
少年が真剣な眼差しでケントを見つめる。
(ふむ…そもそも私には何の関係も無い話なのですが…ここでこの食いしん坊さんを放っておくのも寝覚めが悪いですし…
それに彼はなかなか良い視点を持っている。少し面白そうですね…)
「わかりました。魔法の使い方をあなた達に教えましょう。それとは別に食糧も用意します。それでこの子を許して頂けますか?」
「良いだろう。俺はシルバだ。
お前の名は?」
「私はケントと申します。
よろしくお願いします、シルバ。」
こうしてケントはなぜか少年少女に魔法の指南をする事になったのだった。
————————————————
ひとまずシルバ達と別れたケントは、助けた少女と共に街を歩き始めた。
「ありがとうございました、ケントさん。あ、わたしはセレサと言います…」
「いえ。私はシルバが面白そうだったので約束をしただけですから。
ところでセレサはなぜあんなところに?」
3日分の食糧数人分を平らげたにも関わらずまだ空腹が満たされていないのかフラフラと歩くセレサに、ケントは問いかけた。
「わたしは学校に通うためにヤネンにきたんですが…道に迷ってしまいまして…」
「そうでしたか。この辺りという事は、第一学院ですか?」
「そうです!第一学院に行きたいんですぅ…」
「でしたら私と同級生ですね。
私もそろそろ帰りますし、ご案内しましょう。」
このケントの申し出に、セレサは有り難がる以上に驚いていた。
「ケントさん、同い年なんですか!?体も大きいですし落ち着いてるから、歳上だとばかり…」
「同級生ですね。私もこの街には昨日来たばかりです。」
「…」
セレサはケントの自分との違いにかつてない衝撃を受けていた。
上級生と変わらない体格、自然と魔法障壁を使用できる魔法の腕、なにより話し方や物腰が自分とは違い過ぎた。
「さて、見えてきましたね。
あれが第一学院です。」
「…」
衝撃冷めやらぬセレサを余所に歩き続けたケント達は、気づくと第一学院が見える所までやってきていた。
「セレサさん、着きますよ。」
「…ハッ!?」
ようやく正気に戻ったセレサは、第一学院を目にして大興奮だ。
「やっと着きました…!大きい!やった!お母さん!セレサは無事辿り着きましたよ…!!」
情緒不安定なセレサに、ケントは声を掛ける。
「セレサさん、そろそろ行かないと本当に手続きの期限が迫っていますよ。」
「そうでした…ケントさん、今日は本当にありがとうございました!
またお会いした時にはお礼させてください!」
「わかりました。楽しみにしていますよ。それでは。」
「ありがとうございましたぁー!!」
走り去るセレサを微笑みながら見送ったケントは踵を返すと、屋台に立ち寄り大量の食糧を買い込んで、先ほどの裏道へ戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます