第2話 ケントの始まり

佐藤が目を覚ますと、そこは自宅では無かった。


というよりも、その存在は佐藤ですら無かった。


小さな赤ん坊、ケント。


産まれたばかりの赤ん坊に、佐藤の意識が存在していた。


(ふむ、これは…身体が自分のものでは無いようですね。それに声も発せない。

これは夢だと決めつけられれば楽なのですが、これだけ荒唐無稽、かつ詳細な夢など存在しないでしょう。

故に、私は意識を持ったままこの身体に移り住んだ、もしくは前世の記憶を持ったまま生まれ変わった、というのが結論ですね。)


佐藤、改めケントが冷静に自分の状況を分析している最中も、周囲は騒がしい。


(これは、地球上に存在するどの言語とも異なる体系の言語ですね…

という事は、ここは地球以外の天体と推定するのが妥当でしょうか。

いやはや、ここは太陽系では無いという事ですか。太陽系の天体には人間のような生命体は確認されていませんでしたから。これは地球への帰還は難しそうですね。)


そんな事を考えていたケントに、ケントを抱いた女性が優しく語りかけてくるが、もちろん意味など分からない。


地球にいたらハリウッド女優にでもなっていたであろう美貌の女性だが、今は憔悴し切っている様子だ。


(これが私の母親でしょうね。造形の整った顔です。私も遺伝しているのでしょうか。)



ドガッ!!



突然大きな音がしたかと思うと、ケントの視界が塞がれケントの顔に水滴がポタポタっと落ちた。


(相変わらず言葉は分かりませんが、この泣きっぷりと母と思しき女性との距離感からして父親なんでしょうか。これは母とは違い、なんというか…かわいらしい人ですね。)


子供のような顔をした小男だ。


(これが私の両親ですか。さて、これから…どう、しましょうか…)


思考は大人だが、身体は赤ん坊である。


ケントは強烈な眠気に抗いきれず、眠りにつくのであった。

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