子宮の冒険☆こんなんじゃ足りない

@kanomao

第1話 しあわせな結婚

私と夫はお互い24歳で結婚しました。

授かり婚。

当時はできちゃった婚といわれましたが。

夫は大手食品メーカーで購買係をしています。

私はその取引先の問屋の娘だったのですが、当時私には交際相手がいて、瞬間的にですがその元彼と夫との二股状態になっていました。

結果的に元彼より今の夫を選んだのですが、夫はそのことについては何も知りません。

それが良かったのかどうか、なんとも言えませんが、今は先を続けましょう。


3年後には、2人目の子供ができました。

3歳違いで、2人の男の子です。


しあわせな結婚だったと思います。

夫もやさしくて、子供も元気に育っていくし、少なくとも不自由や大きな不幸とは無縁だったといっていい生活でした。


上の子が小学校に入る頃、夫に3ヶ月の海外転勤がありました。

私たち夫婦が29歳の時のことです。

賃貸のマンションに住んでいたのですが、広い分譲のマンションを買って、まだ引っ越す前のことです。

出発まで日にちがなく、バタバタと準備をしました。

「とりあえず、最低限必要なものだけ詰めよう」

 そう言って夫はキャリーバックに下着やアメニティを詰めました。

 上の子の卒園式だけは出て、小学校の入学式と下の子の入園式には出られない、というタイミングでした。

 出発の日には、夫の部下だという山下さんも手伝いに来ました。

 ひょろっとした、背は高いのですがガリガリの、気持ち悪さで笑いをとる芸人を思わせる風貌で、26歳なのに夫より老けて見えました。

「悪いな、裕子。留守の間、子供たちを頼む。引越しの時は、山下が手伝いに来てくれるから」

 来週にも入居可能になる新居のマンションへの引越しの時には、夫は不在ということになりました。出来上がってきた新居の鍵だけ夫に1本渡し、キャリーバックひとつで短期の海外勤務へ飛び立ちました。

 引越しの当日、約束どおり山下さんは手伝いに来てくれました。

 ほとんどの荷物は業者さんが運んでくれますが、細かいものを山下さんは持ってくれたのですが、長い手を生かしてびっくりするほど一度に全部抱えて運んだりしてくれました。

 山下さんの身長は180センチも後半くらいあるかと思います。男の人と向かい合ってかなり見上げる形になったのは久しぶりでした。

 私は166センチと女にしてはやや高いといった程度ですが、夫が170センチを少し下回るくらいなので、ふだんは見上げるということがないのです。

 山下さんのアゴにはヒゲが生えていました。そんなに長いヒゲではないものの剃り残しというには生えすぎで、これで会社では許されるのかなと、どうでもいいことですが思ってしまいました。

 引越しがひと段落して、山下さんにお茶を出しました。

「会社の同僚さんとはいっても、引越しなんて個人的なことに付き合ってもらうなんてなんだか申し訳ないわ」

 私は気になっていたことをいいました。部下だというだけで、会社の業務に無関係の労働に借り出されるなんて、私なら嫌々になってしまうと思ったのです。アルバイトと変わらないのだからいくらか渡そうかとも考えていたのです。それが受け取れないならせめて食事くらい出さないといけないかしら、と。

「いえ、会社にも言ってありますから」

山下さんはなんということもなく答えました。

私にはよくわかりませんが、急な転勤を命じた会社として総務上ちゃんとした休日出勤扱いになっているようだと私は理解しました。

「事務のサカイさん、お元気かしら」

私は唯一知っている社員のことをききました。知っているといっても、結婚前に実家に仕事の関係で来たことがあるというだけです。

「そ、そうですねサカイさん。元気…で」

山下さんは焦った様子で思い出したようにスマホを持って立ち上がりました。

「そうだ。電話しないと」

どこかに電話して、終わったら知らないうちに作業を再開していました。

そして作業が終わった山下さんは帰って行きました。



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