第42話 都牟刈太刀(つむがりのたち)―――草那藝劍(くさなぎのつるぎ)

これは―――リルフィ殿が捕らわれた地点が割り出され、そこへ襲撃を掛ける…その直前の出来事である。


『トキサダうじ 、少しいいですか。』

「如何なされた燃燈道人殿にサンダルフォン殿。」

『実は、こちらの手違いもありこのまま事態が遂行してしまえば、魔界こちらの思惑と幻界そちらの思惑とに齟齬そごが生じ、収拾の余地がなくなるとの判断がなされたのだ。』

「(?)どう言う事ですかな…そもそも手違いも何も―――」

『私達は、以前の感覚により貴公達ラプラスには好い印象を持ち合わせてはいません。 それは以前の『侵略行為』然り―――そしてまた現在進行中の『襲撃騒ぎ』然り…』

「それがどうしたと?そんな事は言われなくても判っている―――しかも今回はリルフィ殿が囚われてしまったのだぞ。」

『“そこ”が問題なのだ―――時に貴殿は最近騒がれるようになった襲撃の件と、王太子殿下人質の件とを混濁こんだくさせているように見受けられる。』

「(?!)なんだ、それは……違うのか?」

『まあ我々でもそう思っていた…思わされていた節もあったのです。 してや貴公はラプラス―――ゆえに、魔王様達の御前で『不始末を起こした部下を斬る』とまで仰った。』

に別の意思が関与したとなれば?』

「なんっ、だ、と?」

『そう言う事です、今回の一件を貴公の家臣団である『近衛』に被せ、貴公や我等に始末などをさせて一層『皇帝』の勢力ちからを削ぐ―――そうした狙いがあるのではと。』

「そんな…それを魔王殿が?」

『いいえ、魔王軍総参謀長ベサリウス殿が……』


そんな謀略があったなどとは露ほども気付かないでいた―――気付けないでいた…しかし燃燈殿やサンダルフォン殿の言うように、事の真相を知らずに『部下の不始末』だけで『近衛』達を斬って伏せてしまえば、いずれ『皇帝』の勢力は衰退してしまう、それにしてもここまでの謀略に気付けた者がいたものとは…人材面でも魔界に劣っていると言う事か。


「それにしても、そのベサリウスとやらには感謝しないといけないな。 なにがしかは知らぬが謀略を張り巡らせた者がいたと言う事すら知らずにいたらボクはボク自身の首を絞めていた事に…」

『心配する事はありませんよトキサダうじ、まあもっとも他人の嫌がる事を率先して考えつくことが出来るのが軍師や参謀の役目―――』

『そうそう我等〖神人〗もあの者の策謀によってどれだけ苦杯を飲まされた事か。』

「(ん?)つかことをお伺いするが、そのベサリウスなる御仁は味方なのだよな?」

『(…)以前我々でも内紛はありました。 現在の魔王カルブンクリス様も、その内紛の結果現在の地位に収まった次第。』

『だが―――前の政権の時に魔王軍参謀に取り立てられたのがベサリウスでな。 そう言えば竜吉公主様のご寵愛であるとか。』

『フフ―――知らんのかけいも、何でも魔王様に進言なされたのが公主様であるとか。』

『―――ッはは、これはしたり。 とまあ、やっかみも入るがベサリウス自身『悪い野郎の考える事は、手に取るように判るんですよ』とな。』


改めて、知る―――魔界の人材の層の厚さに。 それに確かにここまでの悪辣あくらつな謀略をくわだてたのを看破できるのも、同等の考え方を持つ者ならでは―――か…これは少しばかり視野を広く、そして受け入れの間口を広く取らねば……そう言う事もあり、この混乱に乗じて帝国に取って代わろうとしていた者の謀略も見抜けた―――確かにその者は長年帝国に追従する意思を示してはいたが、反面どこか気の置けない…気を抜けばやがては自分が幻界を掌握せしめんと言った気概は諸侯達の間でも常々噂になっていたものだった。


不昧ふまい公”―――ヒサヒデ…それが隅に置けない者の名だった。


それに彼は先代『皇帝』の魔界侵略に真っ先に賛同し、以降率先して派兵に協力してきた―――それを帝国や教会は唯々諾々いいだくだくとして受け入れていたが…まさか本来の目的の為に敢えて??

しかし、彼の謀略は見知れてきた―――ならば今度はこちらがそれを利用してやるまで…


「それで?これから先はどう動いたらいいと?」

『『なんならとっときの“策”がありますよ』―――と、そうベサリウスより言付ことづかって参りました。』

『この手順通り進めればまず失敗はなかろう―――存分に暴れられよ。』


変な話しだが、ボクは今故郷の者の暴発を止める為に、以前までは敵方だった者達から声援を送られている。 しかしそれは、最早魔界と幻界とは争い合う時代は終焉おわりを迎え、また新たな関係性を模索する為の第一歩を踏み出すのだと、ボクにはそう思えてならなかったのだ。


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そして―――私が囚われている集落に、夜半やはんになって何者かが襲って来た…そしてこれは魔界からの救助だと思ったものだった。

そう―――確かにそれは間違いではなかった。 事実私が繋がれている廃屋に姿を見せたのも―――


「―――トキサダ!?」

「リルフィ殿…大事ないか。」

「うん、大丈夫だよ―――だって私を救い出しに来るのはトキサダだって判っていたものね。」

「そうか……それは良かった―――」


やはり、トキサダだった。 う~~~んそうだよねーーーやっぱり物語性のある話しの展開としてはこうでなくっちゃ! 『囚われの姫君の身を、白馬に乗った王子様が救い出し…』―――まあ…相手は敵国の『皇帝』なんだけどね。 そーーーんなの気にシナーイ、気にしてたら“誰かさん”(敢えて自分の姉とは言わず)みたいになっちゃうしぃーーーこうなったら第一印象で“好い”と思ってたひと捕まえキープしとかなきゃね。

それにしても……ん?なんか言葉尻が重たいなあーーーと、思ってましたら、耳を疑う様な事を言われちゃったのです。


「な、なあ…リルフィ殿、気を悪く、しないで聞いて頂きたい―――の、だが…よろしいか?」

「(ン??)ま、まあいいけど―――ナニ?」

「実は…そのぅぅ~~~」

「ナニ、どうしたの、はっきり言いなよ。 うじうじうじうじ…そんなのトキサダらしくなあーーーい。」

「う、うむ―――でははっきり申そう。 このまま囚われていてくれまいか。」


      …………は、   は?  はああ~~~?


「え、ナニ?私を救い出しにきてくれたんでないの?」

「当初はそのつもりだった!現にリルフィ殿を捕えた者共を、この手で斬り伏せる覚悟までしていたのだ!! だが…」


そこで私は、彼の言葉尻が重たい真相にあたってしまったのです。


「はあ~~~ん、なあるほどーーーつまりこう言いたいわけね? 今回の騒動より以前に魔界を騒がしていた連中が、どうやら今回の騒動に勘付き―――『皇帝』の部下である『近衛』の始末と人質の確保の為動いていると…」

「しかもその者達はどうやら以前から魔界へと入り込み、住人として長く居ついているとの話しだ。」

「ふうう~~~ん、そうなんだーーーわかった、わかった。」

「あ…あのーーーリルフィ殿?」


はああーーーあ、折角『白馬に乗った王子様に救われる美しき姫君』を妄想えがいてたのになあ~~~はいはい、そう言う事情を知らされたら従わない訳にもいかないじゃない。 てなわけで、妄想タイムしゅう~りょおーーー


さてここからは気分を盛り戻してと。


「何でもないよ、なあーーーんでもない。 それに事情を知っちゃったからね、協力はするよ。」

「そうか、かたじけない―――」

「それでどうすればいいの?」

「そこは抜かりはござらん。」


         * * * * * * * * * *


「それにしても眉唾な話しだな。」

「うん?どうした―――」

「いや、何でも『近衛』が魔界に来てるって話しさ。 あいつらは『皇帝』のめいなくしては絶対に動かないはず―――なのにどうして魔界に…」

「その、『皇帝』が今魔界に来てるとしたら?」

「なっ?!そりゃあまたどうして…」

「まあ事情がおありなんだろうさ。 さきの『皇帝』の野郎が刺客の手によって殺された―――こいつは絶対に秘密にしなきゃならん重要案件なんだそうだが…俺達の主君である“不昧ふまい公”ヒサヒデ様はその日の内に事実を知ってしまったらしいぜ。」

「うひょお~抜け目ねえ。 しかしそうか―――ワイ等を顎で使ってやがったヒデトラがおっ死んでくれたとはなあ~これでワイ等も羽を広げれるって訳か。」

「実際はそうも行かんらしい―――なんでも先代の後を継いだヤツが幼くてなあ…急遽即位したのが7つの時だそうだ。 現在ではあれから10年は経っている、その内分別がつくようになり、いい加減大人達の言い成りになりたくない―――と、年頃のお坊ちゃんは思ったんだとさ。」

「新しい『皇帝』が即位して10年?!そんな事魔界に置き去りにされたワイ等が知るワケないじゃんよ。 んで?そのお坊ちゃんがいい加減傀儡生活に嫌気がさしたと―――ケッ、いい気なもんだねえ、所詮やんごとなき方々にはワイ等の塗炭とたんの苦しみなんざ判りゃしないってか。」

「無駄口を叩くな―――そんな俺達の為にヒサヒデ様は立とうと言うのだ。 今までの様に帝国の言うなりにならないとな。」


彼らは―――度重なる魔界遠征の際に“不昧ふまい公”が後事こうじの為にとあらかじめ“置き去り”にしてきた者達だ。 これは傍目はためからみたらなんとも薄情には映るのだろうけれど、戦略的には的を射ていた―――おそらく“不昧ふまい公”なる者は『賢者』や『皇帝』が奨めている事が失敗に終わるだろうと踏んでいたのだ。 しかし―――その上で…後の自分の為に為るような布石を打って出る。 やり方としては少々“汚く”見えるものの、あとの事をよく考えた深慮遠謀の一手と言えただろう。

だけど、そんな“不昧ふまい公”の謀略を見抜いていた者が魔界側にもいた―――魔界軍総参謀長ベサリウス。 彼の過去を知らない私からしてみれば、日頃は公務を放っぽりだして遊興に勤しむ“不真面目な大人”として映っていた。 それに燃燈様達が総評していたように現在では竜吉公主様が彼の事を囲っているらしい。 “不真面目な大人”で甲斐性なしを囲っているだなんて―――公主様も苦労をしてるんだろうなあ…と思っていましたら、何でも今回トキサダが急遽方針を変えざるを得なくなったのも、竜吉公主様が魔王様に『“不昧ふまい公”の部下が動き出している』事を進言したからなのだそうだ。

しかし―――その進言も実は、自身が囲っている男の“ぼやき《一言》”だったとすれば……? しかもまた燃燈様達が総評するように『悪辣な知恵を見抜く者はそれと同等かそれ以上の悪辣な知恵を持っている者により駆逐される』……実際私も彼の“策”を聞いて彼が味方であってくれた事が何よりもの幸福だと感じたものだった。


その―――魔界軍総参謀長ベサリウスの“策”と言うのが…


「いやあ~それにしてもひどい目に遭ったもんですなあ。」

「ああ、まさかこちらの動きを察していたのか、哨戒の隊と鉢合わせになってしまうとはな。 本来なら会敵した時には応戦して殲滅させるのが筋―――なんだがな…」

「ですよなあ~まあその一隊は血祭りに上げられても、後続の隊にワイ等の拠点が割れてもうて“袋叩き”―――は、さすがに勘弁やわ。」

「ああ、だがこちらとしては“切り札”がある。 万が一の時には超大国の次期女王陛下を“盾”にすりゃあ―――…」


「―――…。」(ギロッ)


「ふっ―――そんな怖い顔をしなさんな。 こちらとしても生きてかなきゃならん事もあるんでな。」

「(…)そうね―――あんた達みたいな者でも“家族”ってものがあるんでしょうから…だけど、他人の土地を荒して、それが善い事だと思ってるの?この世界に息づく人達も、あなた達の家族と同じ様に一所懸命に生きているんだよ?生きようとしているんだよ??」

「さすがは、次期超大国の女王陛下になられる小娘だ、“説得”の弁も板についてるってところだな。」

「何で判らないの……判ろうとしないの?!異世界ちがうせかいでも意思は通じ合うって!」

「ご高説ありがとう―――大変耳障りだ…さすがに“あの男”とは仲のよろしい事で。 それより気付いておらんのか?お前が慕う“あの男”こそ―――俺達ラプラスの現役の『皇帝』だと言う事を!」


「(…)ふうーーーん、それがどうしたの?」


「(な?)痩せ我慢をするな、あの男こそお前達の憎き“敵”―――」

「それはどうかなあ……」

「ナニ??」

「“彼”は“彼”―――あなた達にとっては魔界侵略のための旗頭である『皇帝』シゲトキかもしれないけれど、私達にとっては大切な仲間―――トキサダでしかないんだよ。」

「ま…まさか―――正体を知って、尚?」

「彼の正体が判ったのはほんの最近…まあそれ以前に彼の方は私の正体に気付いちゃっていたからね。 寧ろトキサダの方が忍耐強かったかな。 だって考えてもみなよ―――あなた達ラプラスが長年妄想ユメに描いていた魔界の領有が目の前にぶら下がっているんだよ?こんな絶好の好餌―――彼が“その気”になればすぐにでもかなえられるって言うのに…なのにトキサダはその選択をしなかった。 私達と共に歩んでくれる事を選択してくれたんだよ。 何故だか判る?我利私欲に邁進するあなた達には判るはずもないよね。」


「おのれえ~~~このあまぁ!」


私が囚われている集落を“拠点”にして、“不昧ふまい公”の『置き去り部隊』が行動を活発させた―――しかし魔界側も本作戦の前哨となる布石は打っていたようで、警戒の為の哨戒部隊と鉢合わせになっていたみたいだった。 ここで本来なら、会敵したなら各個撃破―――なのだろうけれど、ここで交戦して折角の自分達の勢力が駆逐されるのは不味いと踏んだ司令官役の男は、まだ理性がある方だと見えた。 そして撤退して自分達の拠点に戻り、私の身柄を“盾”にしてスゥイルヴァンと交渉しようと言う肚なのだろうけれど―――その前に私自身が彼らの“説得”に当たってみたのだ。

けれど失敗―――まあ確立としては6:4…はちょっと盛り過ぎかなあ?だったら―――7:3? まあ私としても“ダメモト”でしてみたわけで、こんな私の“説得”に折れてくれるようじゃ今までの確執は何だったんだろうと思えるけれどね。

しかし“失敗”は“失敗”―――そしてベサリウスの“策”は……私の“挑発”に乗って、司令官役の男が持っている大刀が振り被られる―――


「そこまでにして貰おうか。」


「シゲトキ!!やはり“あの噂”は本当だったか!」

「(フッ…)“あの噂”とやらは“どの噂”の事なのだ?」

「抜かせ!俺達ラプラスの現役の『皇帝』であるお前のくび―――頂戴する!」


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ボクの身分は―――ラプラスの『皇帝』だ…この事実は曲げようもないし、曲げられようもない。 そしてボクの名前―――今は便宜上ボクの父上である『トキサダ』を名乗ってはいるが、ボク本来の名前は『シゲトキ』…


まだ―――あの邪神が権勢を奮っていた時には、抜かれていたであろうボク自身の“尊厳”と“誇り”、しかしもうくだんの邪神はもういない―――し、邪神に操られていた『賢者』の一派も、もういない。


たけどボクは魔界へと来る際にボク自身の名前は棄てた。 それはまた、魔界の住人達にとってみれば『皇帝』の存在など憎しみの対象でしかないのだろうから―――だけど“彼女”だけは違っていた…この魔界の、超大国であるスゥイルヴァンの、次期女王であるリルフィーヤ。 彼女が何時いつ、どのタイミングでボクの正体を知ったのかは詮索はしたくはない―――それは、ボクの正体が知られるのが怖くて…と言う意味ではない。 ボクがラプラスの『皇帝』で―――リルフィがスゥイルヴァンの次期女王なんて、そんなのは存在性を証明するだけのものでしかない。 何よりボク達は仲間だ―――共に苦楽を分かち合える、冒険をする“仲間”なのだ―――その仲間を救うため、ボクは“ある手段”を用いることにした。


実はボクには、実の父上であるトキサダ以外にも武芸・武術の“師”がいる。 しかしボクの師はボク達幻界の存在ではない、“同じ”と言う意味ではリルフィとそうは違わなくもないが、ボクの師もまた異世界ことなるせかいの存在だと言う事だ。 名を―――『覇王ウオー・ロード』…すこし名の雰囲気がボク達に似通ってはいるが、どうやら事情は違っているらしい。

その師から、修行の切り上げの際に授かった“すべ”がある―――ボクが、唯一にして無二の、扱える“すべ”………それこそが―――


<長さ二尺八寸、刃先は菖蒲、柄は筋立ち、白に染まりし“都牟刈太刀つむがりのたち”―――>


「な…なんだ それ は?我等が知っているラプラスの術式の形態と違う?」

「そうだろうな、この“すべ”はその昔、我が剣武の師より授かりしモノ……師、いはくこの“すべ”の事を〖草那藝劍くさなぎのつるぎ〗と言うそうだ。」


        * * * * * * * * * *


「良い機会だ、この際だからお主に授ける“すべ”と言うものを見せておいてつかわそう。 この“すべ”は、それがしが独自に編み出したそれがし独自の“すべ”―――このそれがしいずれは死して存在している世界より消え逝くであろう…しかしてそれが世の摂理ことわり―――生ある者は必ずや死に、栄えある者は必ずや衰えて逝く事だろう…。 それがしは―――それがしが滅びく前に、この“すべ”を遺しておきたくてな…が唯一、それがしがこの世界に存在していたという証しにも成るからだ。 そしてシゲトキよ―――よく見ておくがよい!この“すべ”をもっいずまみゆそなた自身の“大切な者”を護るがよい!」


「そして我が剣武の師は、名を『イザナギ』と言う―――」


「『イザナギ』って…―――」


「リルフィ殿は存じていたか、そう…そして師はこうも仰られた、『この“すべ”は私欲にて行使するにあらず、お前が大切にし、真に護るべくの存在の為に振るうがよい』と…そしてその時こそが、“今”だと言う事を確信した!」

「ぬ、くく…我々はそなたと同郷なのだぞ?そんな者に対し―――してやこれまでにも帝国に尽くしてきた忠臣を斬り捨てられるのか?!」

「フッ……“忠臣”か―――聞いて呆れるな、拙者…いや、このボクが幻界を棄て魔界へと来ているのは知っての事なのだろう。 それにお前は先程ボクのくびを狙いに来た―――そう言ったではないか。 それでも尚、お前達自身の事を“忠臣”と言うか、なんとも滑稽にして片腹の痛い事よなあ! それにこれは我等ラプラスの為でもある―――その為にも、お前達を斬らねばならんのだ。」


私はどこか、シゲトキの師の事に関し心当たりがあった。 シゲトキ自身の師―――『イザナギ』…そのまた異名を『覇王ウオー・ロード』と言ったそうだ。 そう―――私はその『覇王ウオー・ロード』の方に聞き覚えがあったのだ。


ほんの十数年前、私の“運命の友”であるベアトリクスを捕まえる為にと魔界へと来訪した者達がいた―――『加東団蔵』『破界王ジャグワーノート』『静御前』『覇王ウオー・ロード』『蒼嵐の魔王』そして『人中の魔王』…その彼らの悪辣な手立てにて、ラプラスの世界である幻界は壊滅的なダメージを負い、それを機にラプラス側からちょっかいを掛けられる事は無くなったが、今回シゲトキが幻界に嫌気がさして魔界へと来ているのはその事が動機ではなかったらしい。

それよりも―――私のお姉ちゃんが『人中の魔王』達と因縁を逆巻かせていた時、仲間達とは別行動でラプラスの『皇帝』であるシゲトキと師弟関係を築いていただなんて私にしてみれば初耳だった。

けれどその事以上に、イザナギが授けた“すべ”は私の予想を遥かに越えていたのだ。


イザナギがシゲトキに授けた“すべ”―――その概要は、“すべ”の詠唱をもって新たなる武器の創造……ではなく、術者自身の『身体能力の超向上』『所持する武器・武具の能力値パラメータの超向上』と言った具合に、術者自身を強化させる“術”だったのだ。


そして彼はこうも言った―――『これは我等ラプラスの為でもある』と……その言葉を、少なくとも私は違えてはならない。 その為にもシゲトキは自分の同郷人を斬ったのだから。





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