第40話 それぞれの“思い”
それにトキサダは、お母様やギルガメシュのおじさま…それにササラ様が言う様な“悪い”ラプラスではないと思う。
私がそう思えてしまうのも、トキサダやクローディアさんみたいに私達に害をなさないラプラスもいれば、私達が産まれてくる以前にお母様たちと激しく闘ったラプラス…幻界と言う異世界から
確かに歴史に遺された文献ではそうなっており、否定し難い部分ではあるのだと思う、けれどそれは私達にも言えるのだと思う―――ならば魔界の住人達が総て“善性”なのかと問われれば、それは“間違い”だとも言えるからだ。 それにこれは、私がトキサダと一緒に冒険をしてきた事で、彼に背中を預ける機会が増えてきたから……こう言う事を言ってしまうと仲の好さばかりが目立ってくるけど、時たまには意見の違いなどで激しくやり合ったりはするのだ。
「何で判らないかなあ?ここは私に任せなさいって言ってるの!」
「判らない事を言っているのはリルフィ殿であろう!ここは拙者が先陣を切るのが筋と言うものではないか!」
「あ…あのぉ~~と、止めなくていいんですか?」(オロオロ)
「ん~~?別に…やらせておけばいいだろう。 それに、“狗も喰わん”と言うからな。」
「そうだぞバルバリシア、下手に
「しかしの~~~う、あれは最早夫婦喧嘩ではないかと思うのだぞよお?大体今言い合っておるのも…」(ニヤニヤ)
「ほえ?リルフィ様とトキサダさんて、いつの間に結婚してたんですかあ??!」(ビックリぽん)
「ちょっとあんた達!好き勝手な事を言ってんじゃないわよ! こ…これは、そ、そんなんじゃ―――ないんだからねッ!!?」(←恥ずかしすぎて顔から火を吹きそう…とは言え満更でもない)
「ん、んん~~~?お前ら結婚したんじゃなかったのか?」(しれぇ)
「リルフィまでも私を残して
「もおぉぉっ…お姉ちゃんまでえっ!トキサダも何か言ってよお!」
「そうだぞ
「な、なんだ、と?まだ“
「以外に奥手よの~~~う、ならばあの男の、ラゼッタが奪ってしんぜようかの。」(キシシシ)
「ラゼッタあ……それ、冗談でも次言ったらシバキ倒すからね。」(ムハァ~~)
これは、“ある日”の
* * * * * * * * * *
ボクも魔界へ来て随分と経つ、そこでクローディアにこれまでボク達ラプラスが魔界にしてきた経緯を教えてもらった事があるが、ここまでひどいものとは思わなかった。 魔界で起こっている状況などは『賢者』を通して知ることは出来たものの、真実は伝えられていないものだと言う事に気付いてすらいなかった。
ラプラスの『皇帝』であるボクを
「トキサダ様、どうかなされましたか。」
「クローディアか…少し考え事をしていた。」
「“考え事”―――とは?」
「いつまで騙し
「そんな事でしたか……私は大丈夫だと思いますよ。」
「何故そんな事が?一体どんな根拠が……」
「“根拠”―――ですか…」
彼女―――クローディアは、本来はラプラスの教会に勤めていた『司祭』の一人だった。 そう…いわば“ある一件”がなければ、邪神の手先に成り下がって魔界侵攻を
思えば―――現在のボク達があるのは、『賢者』が発してしまった
だからボクは『賢者』を怨むつもりはない。 ボクも元服をして
だからこそ―――
少しばかりの沈黙の後、クローディアの口からは……
「では、あなた様は、あなた様が私達の『皇帝』であると言う事実以外で、リルフィーヤ様やあの方の仲間達を欺けていたと?」
「(!)そんな事はない―――そんな事をしてしまえばボクはボク達を
「それが答えになります。 もしあなた様が私達ラプラスの『皇帝』だと知られたとしても―――まあ確かに知られてしまった当初としては動揺はしますでしょうが…あなた様がこれまでに真摯に築き上げてきた
それはボクにとっての救いの言葉となったが―――反面リルフィ殿の哀しげな表情を見たくないと思ったのも事実だったのだ。
* * * * * * * * * *
ただ―――現実としては思う様にはならない…それというのもある日の出来事で、ある冒険者のPTが何者かの襲撃にあったと言うのだ。
「ねえ―――どうしたのアグリアス。」
「ああ…なんでもアルペジオ達が、な―――」
「(アルペジオ…って)―――SランクやAランクで固めたPTが?一体何者の仕業なの…」
「(…)あまり大きな声では言えないのだがな―――その特徴からしてラプラスだとも…」
「(!!)そんな?でも……だって―――」
「リルフィ、お前の言いたい事は判るがまだこれは確定された事実ではない。」
「いや―――そうも言っていられなくなった。」
「アルティシア―――」
「そう言う噂が流れてすぐ“上”の方達も動いたと言う事だ。 そう…“噂”で―――ここまでの対応をすると言う事は何かを察していたからだと思わなければならないだろうな。」
その噂は、誰かが流した性質の悪い“
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「クローディア―――これは…」
『
「最初にこれだけは言わせてもらおう。 本来はこんな
「ボクの“
「さある冒険者のPTが、何者かに襲われた―――これは君も耳にしている事と思う。 だから私の方でも人を派遣して事の真偽を確かめたのだ、そうしたら…」
「この紋章を着けた者達だった―――と…」
この時のボクの証言で
しかし“沈黙”がこれほど不気味なモノとは思わなかった、正直な話し何事かを発してくれていればこちらの心境も穏やかになれたのだろうに…ボクにはその“沈黙”は、今代の魔王の『
そしてこの後、ボクはどうすればいいかをクローディアに求めたのだった。 すると彼女は―――
「バカな…一体どう言うつもりなんだ!ボクは……ボクがここにいると言うのだぞ?なのになぜ『近衛』が動いているなどと……!!」
「(…)確か『近衛』は『
「ああ…そう言う事だクローディア、『近衛』が『
「ですれば…このまま姿を晦ましなさいませ。」
「現実から
「いいえ、私が言っているのは『一時的に身を潜ませなさいませ』と言っているのです。 今あなた様が仰いましたように、このタイミングで皆さんの前に姿を晒すなどは愚考の極みと言えるでしょう。 まあ確かに『
毎度のことながらクローディアには世話を掛ける…だがこう言った時に彼女以外に頼れる者はいないものだと感じているのもまた事実。 ボクも行く行くは元の鞘に収まることが出来れば、クローディアに何か報いてやらねば…と思った。
* * * * * * * * * *
トキサダが姿を見せなくなって半年以上が過ぎてしまった。 同じラプラスだから―――と、クローディアさんに彼の行方を尋ねてみたものの、『知らない』『判らない』の一点張りだった。
ただ―――それにしては最近よくギルガメシュのおじ様や竜吉公主様達と接触をしているらしい……
「しかし―――また何でこんな時期に…って事だよなあ?」
「ギルガメシュ、そうは言ってもああ言った連中だったじゃないの。 私からしてみれば不思議でもなんでもないんだけどなあ?」
「アンジェさんたら、また身も蓋もない―――とは言えも不可解ではあるのですよねえ~。」(ムヒ)
「今までこの世界を騒がしてくれた者共の勢力が滅されたとはいえ、未だにこの世界に顔を出す不埒者もいたものよ。」
「はい―――邪神やそれに操られていた『賢者』が居なくなったのですから、侵略行為が止んだのは判ります。 ですが…また別の危惧が。」
「つまり、“まとめ役”が居なくなっちゃったから歯止めが利かないって?そんなの暴徒じゃないの。」
「いえ、それがですね―――いるみたいなのですよ…“まとめ役”。 以前にも報告しましたようにラプラスには『皇帝』というのがいるらしくて……」
「では―――その『皇帝』が?!」
「さあ―――…そこまで私は知っているわけではありませんが、その可能性は著しく低いと思われるのです。」
「それじゃあ何か?今オレ達の世界にお邪魔をしている連中は『皇帝』とやらからの命令を受けず、独自の判断と見解で動いているって言うのか。」
「(…)これはある―――信用できる筋からの情報なのですが…今現在各地で確認されている者達は“ある者”を探しているのではないか―――とも…」
「声を落としなさい―――聴かれているわよ…」
いきつけの食事をする処で、個室に入って行く4人の冒険者の
それは―――そうか…自分達の君主が居なくなったと知られれば、その側近達は探しに来るはず、特に私の時なんて冒険者になる前に“真似事”をするなどをしてその度にお父様が捜索隊を組織させて
それに、トキサダは―――…
けれど“ここから”が重要処だと言う処でアンジェリカさんに
それから更に数ヶ月―――随分とまたリルフィ殿達と会っていない。 それもまた『皇帝』の部下の不始末の所為で。 しかもクローディアの指示に従い身を隠していたものだったが、状況は日々悪化していた―――…
「なんだと?今では近隣の集落や村を襲い略奪行為が行われているだと……それでは暴徒と変わらぬではないか!」
「それも致し方のない事かと。 なにしろ
「これが『賢者』達の行っていた“遠征”の実態だったと言うのか……!よくもこんな無計画で事を起こそうなどと―――」
「その『無計画さ』こそが
違う…それは感心などではない、稚拙過ぎて呆れられている感じだ。 まあ
「それで―――トキサダ様はどうなされますか。」
「うん?ううむ―――…」
「もし―――トキサダ様さえよろしければ話し合いが出来る場を模索いたしますが。」
「それはありがたい、協力感謝する。」
やはりここは魔界の頂点に立つ御仁と直接話し合わなければならないか……しかし、とは言ってもこれは対等な立場ではない。 今代の魔王殿は聞き分けの好い御仁だと見受けられたが、それはボク個人の主観が入っているからだ。
* * * * * * * * * *
「こうして“公式”に話し合うのは初めてになるね。」
「この若輩者に対し過分な配慮―――
「それはまあさておき……今回私は魔王として会っているけれど、“記録”には残さない―――いいね。」
「はっ―――つくづくの配慮、感謝いたします。」
「それで君は、身内の不始末をどうしたい。」
「此度の件は身内の不始末―――なれどそれを引き起こしたのはボクの不始末。 故に処分はこの身に一任して頂きたい。」
「ほう―――君は大事な臣下を“斬る”と言うのか。 しかしそれでは……」
「これ以上の過分は配慮はご遠慮いただきたい! ボクは
「(…)そこまでの思いだったとは―――私も君の事を少しばかり見誤っていた様だよ。」
「
この話し合いの場は、公式であったとしても“記録”には残されてはいない。 なぜなら本来ならばこんな処にいないはずのラプラスの『皇帝』が魔王と対面をしているのだから。 それはまた魔王カルブンクリス様なりの配慮があったものだろう、曲がりなりにもラプラスの『皇帝』であるトキサダが自らの権限を以て暴徒と化している自分の部下達を“斬る”……こうした事が明文化されて後世に遺されてしまえば一転してトキサダの立場も危うくなってしまうからだ。
そんな事…しなくたって良かったのに―――今不始末を起こしているトキサダの部下は、私の手で成敗してあげたのに……
そう―――私は気付いていた、“彼”の本来の身分など、だけどそれを態度に顕わしてなんになるのだろう。 ラプラスの『皇帝』を―――公開処刑して終わり…? そんな事で
ううん―――お為ごかしは止めよう。 今の私達はただのトキサダであり、ただのリルフィなのだ。 はっきり明言てしまおう―――私はトキサダの事が好きだ、愛している。 本来は
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