第2話

リデルが12歳のとき両親が馬車の事故で亡くなった。その後すぐに伯父家族がドルモア男爵家に入ってきて、親兄弟のいないリデルに代わり、父の兄である伯父がドルモア男爵家を継いだ。


 それと同時にリデルの幸福だった子供時代は終わりを告げる。




 従兄クルトがいたころはまだよかった。しかし、彼は義理の妹イボンヌを甘やかす父マイケルや贅沢三昧の後妻ミネルバと合わず、留学という名目で3年前に家から出ていってしまった。




 それから、リデルの生活は大きく変わっていく。今まで使っていた部屋は、イボンヌに奪われ、社交デビューもしないまま領地に押し込められた。お伯父家族はときたま領地にやってくるだけで、ほぼ王都のタウンハウスで贅沢な暮らしを送っている。




 そのため伯父に代わり、リデルが領地でのこまごまとした仕事をするようになった。


 しかし、その一方で、金と人事権はすべて伯父夫妻が握っているので、リデルが自由になる金はないし、世話をしてくれるメイドもいない。




 領地の使用人はほとんど削られ、リデルは身の回りのことはすべて自分でやり、毎日掃除や洗濯に追われ、領地の雑務をこなし使用人と変わらない日々を送っていた。




 クルドが留学した直後、伯父の勧めで隣の領地の幼馴染であるギルバートと婚約することになった。リデルに異論はない。むしろギルバートで良かったとすら思う。




 彼とは幼馴染で兄弟のように育ったので恋心はないが、婚約者となってからはお互いに穏やかな愛情をもって接するようになっていった。リデルは彼との関係にずいぶん慰められた。




 そして結婚すれば、この家からも労働からも解放される。いつしかその日を夢見るようになった。






 ――ことの発端は、三か月前。




「久しいわね。リデル、私はしばらくこの辺鄙な領地にこもることになったの。身の回りの世話をよろしくね」




 突然王都からイボンヌがやって来た。まだ、社交シーズンは始まったばかりだというのに、派手好きのイボンヌにしては異例のことだ。




「イボンヌお姉さま、こちらにはいつまでいるんですか」


 この従姉はリデルの2歳上で叔母のように取り立ててリデルをいじめるわけではないが、わがままだし人をこき使うので憂鬱だった。




「今年の社交シーズンの間だけよ」


「社交シーズンは、まだ始まったばかりじゃないですか」


 イボンヌは毎度社交シーズンを楽しみにしている。




「うるさいわね。いろいろあって、ほとぼりが冷めるまでこっちにいることになっちゃったのよ。ちょっとお茶の準備くらいなさい! 気が利かないわね」




 イライラと当たり散らす。やはり、王都で何かやらかしたのだろう。今頃、娘に甘い伯父夫婦が彼女のやらかしをいろいろともみ消しているはずだ。






 イボンヌが帰って来た時、リデルはただ面倒なことになったと思っただけだった。




 だが、それから都会的で洗練されたイボンヌと、家の手伝いで王都にほとんど出ることのなかったギルバートが恋に落ちるのはあっという間だった。




 素朴で誠実な人だと思っていたギルバートが、三か月でイボンヌとの間に子供を作ってしまったのだ。


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