戦争
先輩が怒っている。
「何で吸う前に来たんだよ」
僕が鳩の手紙のことを話すと、先輩は大いに笑い、涙目で助言してくれた。
「更生施設入れよ」
「あんたみたいなジャンキーに言われたくないですよ」
「俺はケミカルはやってない。言うならオーガニックだ」
違いが分からない。すると先輩は急に真面目な顔になった。
「大体、戦争がなくなるなんて発想が間違ってるんだよ。あんな大々的な経済復興事業、そう無いじゃないか。たくさんの需要が生まれ、それに伴う雇用も増える。そして為替も激しく変動するから、世界の富を握りしめている人々が潤う。もちろん富が偏在することになっても、実体経済の話じゃないから誰も自分が貧乏になったと気付かない訳だ。やめる必要がない」
僕は目を見開いた。
「ケミカルに手を出したんですね」
「俺は経済学部だ」
「じゃあラブ&ピースは」
「戯言だな。そもそも愛と平和は違う観念だ。分けて考えることから始めた方がいい」
難しい話だ。
「愛や平和の実態を知っているか?」
「考えたこともないです」
「平和っていうのはシンプルだ。何も危機がない状態だな。だが、愛っていう観念は曖昧なんだよ」
「どういうものか知ってるんですか?」
「吸ってる時だけな」
先輩は笑い始めた。確かに釈迦もクサで悟ったらしいし、あり得る話だ。しかし、僕は馬鹿にされているようだ。
「お前、探して来いよ」
「『愛』をですか?」
「ああ」
呆れた。なんだこの人は。
「見つけたらどうしますか?」
「今後の酒代は俺が全部出してやる」
乗らない手はない。しかし、うなずいたところで気が付いた。金がない。
「とりあえず5万やるよ。風俗でも行って探して来い」
確かに愛を買う場所だが、それでいいのだろうか。ただこんないい話はないので、僕は乗ることにした。
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