画面の中の希望

風瑠璃

栄光は何処へ

画面の中で、HPがゼロになった魔物が砕け散る。二刀流の俺が武器を振り回して勝利の余韻に浸っていた。


ふぅと息を吐いて椅子に深々と体を預ける。

余裕そうな顔で武器を掲げる姿を見ているとハラハラとしていた自分がバカのように思えてくる。


世界を救う勇者の一人としてあちこちを旅する。ゲームの俺はNPCから賞賛される最高の勇者だ。困ったことがあればクエストとして張り出され、それの経験値やアイテム欲しさにそれを受けて形ばかりの賞賛を受ける。


ゲームの中に居るプログラムは素直だ。変に勘ぐったり顔色を伺ったりする必要がない。

オープンワールドだから、別のプレイヤーだっているけれど、俺はその人たちと関わることはしない。関わっても、いいことなんてありはしない。


「人生はクソだな」


引きこもり生活もすでに二年。一人暮らしに浮かれていた頃が今では懐かしい。

なんでもできると思っていた子供の頃とは違う。何もできない現実に嫌気が差して引きこもっても世界は何も変わらない。

金だけはあった。なんだかんだで稼いだお金は使う時間がないとどんどん貯まり、この無為な二年をもってしても使い切れない。


「後、何年こんなことをしてるんだろうな」


よくあるネット小説のように、ゲームの世界に入り込み、両手に武器を持って暴れ回る妄想は何度もしている。夢にまで見るくらいにはそれを求めていた。


賞賛を浴びたいわけではない。誰かに頼られたいわけでもない。ただ、自分の力で切り開ける世界に行きたいのだ。


「挫折した俺が言うのも馬鹿らしいよな」


マウスをクリックし、世界を進める。

他のクエストも受けていたからさっさと終わらせよう。いつも通りの作業をこなしたら飯でも食べてレベリングするか。

新しい武器を探してもいい。二刀流専用の武器をなかなか実装しない運営だけど、いつかは日が当たる時が来るだろう。


「お知らせには、何もないか。全体チャットは訳の分からん世界情勢ばっか」


現実で挫折しても世界は進む。今日も今日とて様々な情報が飛んでいる。

政治、芸能の話題。よくまぁそんなに話すことあるなと思えるチャット郡をさらーっと流していく。

楽しそうに踊る文字たち。

その中に混じる誹謗中傷たち。

気持ちが悪くなってゲームを落とした。


あの時の自分。光り輝いていた過去。

もはや思い出したくもないそれらを想起させてくる言葉を意識的に切り離す。


「なんで生きてるんだよ。俺は」


極めようとした過去。できないと挫折して壊れた体。二刀流なんて夢のまた夢。ゲームの中でしか味わえない現実。

握る拳。マメだらけだった手のひらも変わってしまった。痛む肘が浴びせられた言葉を脳裏にフラッシバックさせる。


ネットニュースを開けば、過去に戦った友やライバルたちがしのぎを削っている。

ポロリと涙が零れた。頑張った先にあった結末がこれなのか。努力の先には何も無いと知らされた。


「努力し続けられるのも才能、か」


何かで見た言葉に乾いた笑みを浮かべる。

才能の無い俺は、ズブズブと闇に落ちていく。

あの時の光は、今どこにーー

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画面の中の希望 風瑠璃 @kazaruri

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