第3話 ゴブリンとエルフ
「よく来るのはゴブリンだ。多くの異世界に登場するけど、ワンパンでやられるのが大体の設定だからどんどんやって来る。そんな彼らには治癒力の高い大豆製品をメインにした食事を提供し、直ぐに個々の異世界へ戻ってもらいたい」
サラは講義でも聞くように初めての情報を頭に叩き込んだ。更にアッシュの講義は続く。
「尖った耳が特徴のエルフもよく来るよ。彼らは魔法を得意とするけど、大抵は森に隠れて暮らしているから実戦に弱いんだ。いざ戦いに参加すると精神的に参ってしまう。精神の乱れは魔力の乱れにつながるからね。そんな彼らには、心の安定を図るナッツや乳製品を多く取らせたい」
「エルフ?妖精の?」
サラは小さい頃に読んだ本、「森の妖精エルフ」思い出していた。
「そう妖精のエルフさ。本当にデリケートなエルフもいるからね。エルフには手厚いケアが必要で、背中に生えた羽や髪の状態が万全でなくては生活もままならないんだ。どう?やれそう?」
「うん、ちょっとメモを取りたいなぁ」
サラはゴブリンやエルフたちに食事から何ができるのか、あれこれ考え始めた。
実は学食のアルバイト先でも、部活別応援メニューを考案していた。
例えば合唱部には、喉に刺激の少ないあらゆるねばねばをトッピングした蕎麦、その名も『ねばねばハーモニー』
体力勝負のサッカー部には、ささみをスティック状に揚げた天ぷらをハニーマスタードやおろしポン酢など、たくさんのディップを用意して提供した『ディップパラダイス』などがある。
アッシュはサラが色々考えている様子を誇らしげに見た。
そして、説明を続けた。
「一番厄介なのは召喚獣の類なんだ。彼らは神に近いため、庶民の食べ物は口にしない。神聖な食べ物であることを理解させない事には、死にゆく方を選択するほどプライドが高い生き物なんだ」
アッシュの説明を聞いたサラは、戸惑いはあるものの、既に食材の組み合わせを考え始めていた。
「やっぱり君を選んで正解だったよ。安心した。ほら、下をみてごらん。小さな島が見えて来ただろ。もうすぐ大きな火山島があるんだ。そこがビートアイランドさ」
2人は左に大きく旋回し火山島のすそ野に広がる森の上空を飛んでいた。
高度をかなり下げ、目印の光溢れる大樹を探す。日本から日付変更線を超えハワイの近くまで来たこの島は、日本と19時間の時差がある。
まだ、夜明けを迎えないビートアイランドの全容は分からなかったが、あちこちから白い
「あそこね!」
サラはかがり火に誘導されるように大樹を見つけた。
よく見ると地面や上空には色鮮やかな無数の魔方陣が出現している。大きさもまばらで、花火があちこちで上がったかのような空間は、満点の星空を独り占めしているようだった。
「サラ降りるよ」
アッシュの声に合わせ体を前に傾けるとみるみる地面が近づいた。衝撃もなく緩やかに地に足が着いた。
「ここがビートアイランド?」
「そうだよ、あのたくさんの魔方陣から今日も戦いに疲れた戦士や、異世界魔獣・エルフ達がやって来るんだ。どう?わくわくするだろ」
アッシュは大樹を目指しかがり火に沿って歩き始めた。襟の高い長めのコートがアッシュのスタイルの良さを強調している。
よく見ると腰の辺りには勇者の剣のようなものも見える。暗闇の中、炎のゆらぎに見え隠れするアッシュの横顔を見る度、あまりのイケメンっぷりにサラは何度も気絶しそうになった。
「どこへ行くの」
「まずは、料理長へあいさつに行くよ。料理長はあの大樹の中で昼夜問わずにやって来る客のためにスープを作っている。その名も『マジックスープ』さ」
「マジックスープ?」
「そうさ、一子相伝のマジックスープはあらゆる生命に有効なスープなんだ。30種類の食材を24時間じっくりと煮込んだスープ。その昔中国の料理人から受け継いだものらしい。スープは澄み切り黄金に輝く。体の毒素を排出してくれるんだ。まずは1杯飲みに行こう」
サラは異世界に足を踏み入れ、更にこの世界のウエルカムドリンクこと、『マジックスープ』をこれから口にできることに血が沸く想いだった。
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