73ページ目.穴のない夢を見る

 阿舞野あぶのさんが参加している雑誌のモデル権をかけたライバーイベントは、序盤は上位三人のデッドヒートとなった。


 元アイドルに人気読者モデルの人、そして阿舞野さん。


 順位は目まぐるしく変わっていたが、日が経つにつれ、読モの人が徐々に抜け出してきた感じ。


 それを阿舞野さんと元アイドルが追いかけるという構図だ。


 一方のオレはというと、大晦日までバイトを入れて少しでも多く投げ銭代を稼ぐことにした。


 母さんには、


「みこと、受験前なのに毎日どこに行ってるのよ?」


 と聞かれたけど、


「あの、その……、一緒に明導大学を受ける友達と勉強してお互いにやる気を出そうと思ってさ。目標が同じなら頑張れるから」


 と答えてごまかしておいた。


 まあ、目標が同じで頑張ってるという点は事実なので許してもらおう。


 でも同じく頑張っている阿舞野さんも、途中でちょっと弱気な発言をすることもあった。


『応援してくれる人がほとんどだけどさ、アタシもライバーやってると、どうしてもアンチの人からSNSで誹謗中傷されるんことがあるんだよね。アタシもやっぱりそんなコメみたら凹むし』


 スマホに映っている阿舞野さんの表情に影がさす。


 阿舞野さんのことを嫌いな人もいるのか。


 ギャル嫌いの人か、それとも阿舞野さんの人気に嫉妬するライバルだろうか?


 彼女をよく知れば、あんなに性格のいい女子はそうそういないってことがわかるのに。


『でもアタシの鉄壁の夢に穴を開けることはできない。誰から何を言われようとアタシはアタシの夢を実現する。だから、そんなアタシでよければみんなも支えて欲しい』


 一転、阿舞野さんは真顔で力強くファンに向けてメッセージを伝えた。


 途端に、コメント欄は賛同の嵐となった。


 なかには、うーめろの言葉を聞いて感動して泣いた、という人も。


 何で感動するかは個人の自由とはいえ、泣くのはちょっとオーバーのような。


 と、そんなことはどうでもいい。


 この阿舞野さんの期待に好きだと言われたオレは、なんとしてもこの夢に応えたい。


 阿舞野さんの言葉を聞いてより一層、無理のあるスケジュールにも立ち向かう勇気が湧いてきた。


 とまあ、こんな感じで配信は続き、阿舞野さんは2位と3位が入れ替わったり、1位に迫ったりしながら年末の時間が過ぎてゆき、そして、いよいよ決勝戦最終日である運命の大晦日が明日へと迫った。

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