70ページ目.君が僕の名前を呼ぶから
毎日、寝不足でフラフラだ。
でも今日で卒業漫画を完成させれば、しばらくは朝起きて制服に着替えて学校へ行く、というあまり好ましくないルーティンをしなくてもよくなる。
一方の
彼女はさすがの強さで、予選は余裕で通過しそうだ。
現在、二位とは10万ポイント以上差をつけて引き離している。
予選を無事通過すれば、クリスマスの日から決勝戦が始まる。
そして、大晦日が決勝戦最終日。
その決勝の期間がオレにとっても勝負の期間だ。
「できたー!」
「これで俺も心残りなく引退できるぜ!」
「皆さん、お疲れさまでした」
ふわりちゃんも嬉しそうだ。
「ところでさ、この漫画、完成したけどどうするよ? このまま誰にも見せずにしまっとくつもり?」
嵯峨に聞かれた。
「うん、それなんだけど『ステギャザ』で売ってみようと思うんだ。他の人が読んでこの漫画を面白いと思うのか気になるし、売上で自分達のいまの実力もわかるし」
オレはみんなに提案する。
「いいですねー。売れたお金を四人で山分け!
そうすれば、わたし、いま欲しいいっぱいあるから、同人誌とかキャラクターグッズとかコスプレ衣装とか……、これらが全部買える!」
美南美は手を組んでお目目をキラキラさせる。
「いや、そこまでは儲からないと思うぞ……」
彼女の希望を壊すようで申し訳ないが、オレはそっと伝えた。
「でも、やるなら何らかの宣伝をしないと、ただ『ステギャザ』に置いとくだけじゃ、たぶんたいして買ってもらえないぜ?」
嵯峨が言った。
「オレもそう思う。なので『ステギャザ』でこの漫画の宣伝用のPVを作ってくれる人を探そうと思うんだけど……」
「でもお金がかかるんじゃないですか?」
美南美が心配そうに聞いてきた。
「そりゃ、タダというわけにはいかないよ」
そう言って、オレは自分のタブレットを触り『ステギャザ』を開いた。
四人で覗き込むようにしてタブレットの画面を見る。
「どひぇー!」
嵯峨が声を上げた。
「やっぱり絵を描いてもらうのと違って高いですね……」
美南美もため息をついた。
やっぱりそれなりのものを作ってもらおうとなると数万円はするようだ。
本格的なものだと20万円超えクラスのものも。
これにバイト代を使ってしまえば、阿舞野さんのイベントへの投げ銭ができなくなる。
他のメンバーもお金がないようなので、オレ達はアニメでのプロモーションビデオの制作を諦め、ほかの宣伝方法を考えることにした。
冬休みの間、何かアイデアが浮かんだ人はSNSでみんなに連絡すること。
そういう約束を取り付け、漫画部のメンバーは解散した。
さてと、オレはバイトへと向かわなければいけない。
今日は駅前でティッシュ配りの仕事だ。
オレは急いでエントランスで上履きから靴へと履き替える。
すると、背後から「
振り返ると、オレを呼んだのはふわりちゃんだった。
「あっ、ふわりちゃん、今日はお疲れさま。オレ、バイトへ急がなくちゃいけないから駅まで一緒に帰れなくてごめん。先行くね」
そう言って学校を出ようとするオレに対して「あっ、あの、待ってください!」と、ふわりちゃんは呼び止めた。
「どうした?」
一瞬足を止めるオレ。
すると、彼女が緊張した面持ちで口を開いた。
「先輩、クリスマスの日は…….、予定ありますか?」
クリスマス?
「一応、バイトは入れてるけど……」
オレは答える。
すると、ふわりちゃんは焦ったようにオレに言った。
「えっと、あの、その日、少しだけでもいいから会ってもらえませんか!?」
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