67ページ目.夢をかなえるゾ

 阿舞野あぶのさんの告白に対してオレの答えは、デレデレしながら「はい、こちらこそ! 今すぐよろしくお願いします、ウヒョヒョ-!」というものではなかった。


 オレは答えを……、保留にした。


 もちろん、正直な気持ちを言えば、阿舞野さんに好きだと言われたことは嬉しかったし、オレも阿舞野さんのことは好きだ。


 今まで隠してはいたけど、阿舞野さんは可愛いし、彼女と二人で秘密の行為をするうちにオレの中には間違いなく恋心が芽生えていた。


 でも、オレは今まで女子と付き合ったことがない。


 なので、付き合どういうものなのか、彼氏彼女の関係っていうものがわからない。


 だから阿舞野さんに告白されたからってすぐ付き合うのが、果たして正しいことなのかなって思ってしまって……。


 しばらくお試し期間みたいなのがいるんじゃないかな、とも思ってみたり……。


 そして、もう一つ理由がある。


 それは自分が阿舞野さんにふさわしいのか疑わしいってこと。


 言うまでもなく、阿舞野さんはオレとは違い、スクールカーストトップクラスの女子だ。


 学校でもライブ配信でも、あれだけの人気がある人。


 そんな人が漫画を描くしか取り柄のないオレと付き合うなんて、それって釣り合うのかなって。


 この二つの理由がオレにブレーキをかけてしまった。


 これも心の奥底でオレが自分に自信のない表れだろう。


 この気持ちを払拭したい。


 そのためには、彼女と付き合う前に自分に自信をつけるため、どうしてもやりたいことがあった。


 自分の中でそうしないと、彼女にふさわしい相手だって自分でいつまでも思えないから。


 どうしても付き合う前に自分で自分を試す必要があった。


 そんなオレに対して、阿舞野さんの返事は「いいよ。ゆらっちの返事、待つよ」というものものだった。


「急に告白されたら戸惑うもんね。アタシも男子に告白されたとき、返事待ってって答えたことあるし」


 続けてそう言った。


 やっぱり阿舞野さんは告白された経験はあるようだ。


 当然といえば当然だけど。


 ただ「卒業までにはゆらっちの答えが欲しい」とも言われた。


 それはそうだ。


 いつまでも返事が保留なんてみっともないし、格好悪い。


 オレもそれまでには自信を持って阿舞野さんを受け入れられるようになりたいし。


 そのためにオレがやらなきゃいけないこと。


 それは……、スマホにバイトアプリを入れること。


 オレは『パッとバイト』というバイトマッチングアプリに登録した。


 これを使えば、ちょっと空いた時間に働ける日払いのバイトを探せるそうだ。


 ここで高校生でもできる単発のバイトや短時間のバイトを探そうと思う。


 社会に出て働くのって初めての経験だから、ちょっと怖気付くけど……。


 そう、オレのやるべきこととは明日から始まるライブ配信イベントで、今度こそ阿舞野さんを優勝させること。


 オレがお金を稼いで、そのお金を夏のイベントよりも多く阿舞野さんへの投げ銭に回す。


 オレを好きになってくれた人の夢を叶えてあげる。


 それがいまオレがやるべきことだし、自分に自信をつける方法だと思う。


 また阿舞野さんの夢を叶えることは、オレの夢をひとつ叶えることにもなる。


 それともう一つ叶えなきゃいけないこと。


 それは、明導めいどう大学合格。


 阿舞野さんは、どちらかが合格しなかったとしても離れないでいられるように付き合おうって言ってくれたけど、やっぱり自分の中では大学を落ちるようじゃオレは彼女にふさわしい彼氏だって胸を張って思えない。


 好きな人がライブ配信と受験勉強を両立させると言ってるんだ。


 オレだって両立させてやる!


 他人が聞いたら、受験前のこの時期に受験勉強の時間を削ってバイトするなんて、馬鹿げてるって思うだろうな。


 自分でもクラスメイトでそんなヤツいたら、客観的に見て馬鹿げてるって思うだろうし。


 いくら好きな人の為とはいえ……。


 でもやらなきゃ一生後悔しそうな、そんな気がするのだ。


 阿舞野さんの言葉じゃないけど、今のこの高校の時期は二度と来ないんだぜ?


 なんだか心が疼いて、やらないではいられない心理状態。


 先生やクラスメイトに笑われたって呆れられたって良い。


 他人にとやかく言わせない。


 無茶だって言われても、オレの好きなようにやってやる!


 でも親だけにはバイトをすること、絶対にバレないようにはしとこう。

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