51ページ目.君の弁当もたべたい
ふわりちゃんに弁当を作ってもらった翌日。
「あっ、ゆらっち、おはよー」
学校に行くといつもどおりの
でもどこか緊張気味のようにも見えるけど……、気のせいかな。
それにしてもふわりちゃんの弁当事件、オレの知らない間に変な噂になってないだろうな?
そのことがオレは気掛かりだった。
だけど教室にいる間、特にクラスメイトに冷やかされることもなく、普段どおり時間は過ぎていった。
そして今日も昼休みの時間。
今日はふわりちゃんは弁当を持ってこなかったようだ。
ホッとしたような、でもなんか寂しいような。
まぁ、注目を浴びるのが嫌いなオレだからこれでいいけど。
ということで、今日は母さんも弁当を作ってくれなかったことだし、購買へ行ってパンでも買うかと思った時、隣の席の阿舞野さんがオレのシャツをこっそり引っ張った。
そして、小さく手招きをする。
ん、何か用かな? 一緒に購買に行こうとか?
「どうした?」
オレが聞くと、無言で右手で手招きするだけ。
そして阿舞野さんのもう一つの手には中ぐらいの巾着袋。
まあ、別に取って食われることはないだろう、オレも話したいことがあったしと、ラノベ部部長の原稿を持って彼女について行った。
阿舞野さんがオレを連れてきたのは以前ビキニの撮影を行った屋上だった。
今日も清々しい青空だ。
「あっ、ベンチ空いてるし。ラッキー」
阿舞野さんが指さすベンチに二人で座ると、彼女はちょっと硬い動きで巾着袋から何かを取り出す。
「はい、これ」
そう言うと、オレとは視線を合わせずに中に入っていた物を渡してきた。
それは弁当箱だった。
阿舞野さんもオレに昼ご飯作ってきてくれたのか。
「あっ、ありがとう」
お礼は口から出たけど、他に気の利いた言葉が咄嗟に浮かばない。
まさか阿舞野さんまで弁当を作ってきてくれるなんて。
正直な気持ち、これを食べてみたい。
オレは微かに震える手で弁当を開ける。
「ふわりちゃんのよりは美味しくないかもしれないけど」
阿舞野さんが言う。
「あの、いただきます」
弁当箱とセットになっていたピンク色のプラスチック箸で炒り卵を挟み、舌に乗せた。
うん……、確かに味も見た目もふわりちゃんの弁当の方が上だと思う。
でもこの弁当は何かふわりちゃんのよりも情熱というか、一生懸命さが伝わってきた。
「美味しいよ」
オレは阿舞野さんに言った。
「マジ!? よかったぁー。ゆらっちの口に合うか心配だったんだよね。それ聞いてシンプルに嬉しいんだけど!」
ホッとした感じで笑顔になった阿舞野さんは、自分の弁当箱を開けた。
「料理、上手いと思うよ」
オレは褒める。
「マジ!? ゆらっちに言われると超嬉しいんだけど!」
「本当だよ。この炒り卵とウインナーの細切りの合わせたものなんてオレの好きな味だ」
「あぁ……、それ一応、スクランブルエッグと……、たこさんウインナーのつもりなんだけど、足を多くしたらちぎれちゃったんだよね……」
阿舞野さんは苦笑いを浮かべている。
しまった、余計なことを言ったか。
傷つけちゃったかな?
これは、美味しい以外の言葉は避けた方がよさそう。
「いや、それでも美味しいよ! これはこれで新しい料理になるんじゃない?」
「マジ!? じゃ『うずめスペシャル』とか名付けようかな」
なんとかフォローできただろうか。
下手なことを言わないようにと、オレは弁当から話題を変えることにした。
もう一つの目的、それは漫画のネタにする新しい秘密のプレイを阿舞野さんに見せること。
「そうそう、またラノベ部部長から新しいプレイを考えてもらったよ」
オレは彼女に原稿を渡す。
「おっ、どんなのどんなの??」
阿舞野さんは口をモグモグ動かしながら、興味津々で原稿に目を通す。
でも次のやつ、冷静に考えるとヤバいプレイのような。
体育祭で流したお互いの汗を嗅ぎ合うなんて、こんな変態チックなこと、阿舞野さんは断るどころか怒るんじゃないかだろうか。
「うん、やろう!」
ウインナーを口に入れた阿舞野さんが目を輝かせてオレに言う。
うーむ、やはりそうきたか。
「あ、阿舞野さんがいいならやるけど……」
オレには断る理由はない、いや、そもそも断るという選択肢はない。
「これやるなら、体育祭じゃ制汗剤使わないようにしないとね。ニオイ消えてたらプレイの面白さも消えるし。ゆらっちもなんかニオイ消すやつつけるの禁止だよっ」
阿舞野さんはそう提案してきた。
ラノベ部の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます