32ページ目.生ライバーに聞いてみろ

 阿舞野あぶのさんとデートした日は、ふわりちゃんのことを話題にした後、買った水着の撮影はいつにするかを話し合って解散した。


 撮影は期末試験中に行うことにした。


 部活もなく、校内に残っている生徒も少ないので、撮影のチャンスがあるんじゃないかということで。


 初デートは時間が経つのが早く、阿舞野さんと別れた後も頭の中がふわふわしていた。


 そんな甘い時間を初体験した翌日。


 阿舞野さんと教室で顔を合わせると、なんだか気恥ずかしくなった。


 彼女の方はと言うと「ゆらっち、昨日はマジ楽しかったね」とオレの耳もとで囁くように言って、ケラケラ笑っていた。


 その日の放課後、オレはいつもどおり漫画部へと出向く。


 既にふわりちゃんは既に部室に来ていた。


「あっ、おつかれさまです、部長」


 相変わらず前髪で目を隠したまま、彼女が挨拶する。


「おつかれさま」


 ふわりちゃんは挨拶を終えると、すぐに自分の原稿に視線を戻し、取り掛かり始めた。


「あの、ふわりちゃん」


 オレはまだ嵯峨と美南美が来ていないので、先に阿舞野さんが会いたがってることを話しておこうと思った。


「ライバー部で活動してる人気ライバーの阿舞野さんに会ってみない?」


 オレが聞く。


「なんでわたしが会うんですか?」


 顔を上げたふわりちゃんは半開きの口でぽかんとしていた。


 なんで……?


 そう言えば、なんでだっけ?


 本人に頼まれたわけではないのに、勝手に自信をつけてコンプレックスを解消してあげる、なんて言うのもおかしいな。


「えっと、オレ、彼女と同じクラスなんだけど、ふわりちゃんのこと話したら、阿舞野さんがふわりちゃんに会ってみたいって興味を持って……」


「はあ……、そうですか。でもわたし、会っても何話していいかわからないし……」


 ふわりちゃんは困った表情を見せる。


「あっ、そうだね。いや、ごめん。無理なら断っておくから……」


 オレは慌ててフォローした。


 考えてみればふわりちゃんには、阿舞野さんに会う動機がない。


「ただ、わたしがいまオリジナルで描いてる漫画、Vtuberが主人公なんですよ。もしかしたらライバーさんに会えば、それの参考になるかも。聞いてみたいこともあるし……」


「そうだ、それだ! 取材しちゃおうよ。気になってること、直接ライバーに聞いてみればいい」


 我ながらいいアイデアかもしれない。


 取材という体裁で阿舞野さんと会えば、理由付けはできそうだ。


「show timeってライブアプリで配信してるから、一度観てみては? 群光学園ライバー部のうーめろが阿舞野さんだから」


「はぁ」


 ふわりちゃんは半開きの口から空気が抜けたような返事をした。

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