30ページ目.インザ・ロングポテト

 阿舞野あぶのさんが買ったビキニは3500円ぐらいした。


「アタシの水着だから、別にお金出さなくても良いよ!」と阿舞野さんは言ってくれたけど、オレも当事者なので半分お金を出した。


「マジ!? アタシもお金持ちじゃないから超嬉しい!」


 そう言って喜んでくれた。


「それじゃ、ランチにどっか食べに行こうか!」


 阿舞野さんが言う。


 オレは今日は初デートの緊張のせいで、朝から何も食べてない。


 かと言って何を食べよう?


 こういう状況に慣れてないので、何を選べば良いのかわからない。


 でもだいたい高校生のお金で行ける場所なんてたかが知れてる。


 結局『ウロボロスバーガー』というハンバーガーのチェーン店へ行くことに二人で決めた。


「ゆらっち何食べる? って期間限定のデススコーピオンバーガーやってるし! あれ超辛いやつじゃん!」


 阿舞野さんがメニューを指さす。


「えっ! あれ食べれるの?」


 オレは思わず驚いて聞く。


 何せただものではない辛さとの噂だ。


「うん。だってアタシ辛いもの超好きだし! ゆらっちも同じのにする?」


「いや、オレ、あの、あんまり辛いの食べれないから……。アボカドスネークバーガーにする」


 オレは無難なものを選んだ。


 別に悪くないのに、なんだか敵前逃亡したみたいな気分になった。


 カウンター前に並び、新人で慣れてないのか、あたふたしている和風な雰囲気の女の子の店員さんに、デススコーピオンバーガーセットとアボカドスネークバーガーセットを頼んだ。


 日曜日のファストフード店。店内は込んでいたけど、ちょうど二人分の席が並んで空いた。


「ラッキー! ここに座ろ?」


 女子と一緒に食事なんてオレにとって初めての経験だ。


「じゃ、いっただきまーす!」


 阿舞野さんは勢いよくハンバーガーにかぶりつく。


「……いただきます」


 一方のオレは食べ方にも気を使う。


 あまりにも食べ方が汚くて、阿舞野さんに引かれるなんてのは最悪だ。


「かっらー! けどマジ美味しい!」


 真っ赤に染められたパティが挟まれているハンバーガーを頬張った阿舞野さんが言う。


 暑いのに辛い物を食べる人の心理というのは、どういうものなのだろうか?


「見て見て、超長いポテト!」


 阿舞野さんが一本の長いポテトをつまんで、オレに見せてきた。


「ほんとだ。珍しい長さだね」


 ポテトにはたまに長いのが混ざってることはあるけど、それでも特に長い。


「ね、ポテト綱引きしない?」


 へ? ポテトの綱引き?


「お互い口で引き合って、切れた長さの分だけ食べれるってやつ」


 そう言って阿舞野さんは長いポテトの端をくわえる。


「ゆらっちもそっち側咥えて」


 彼女は目を閉じてポテトをオレに突き出してきた。


 え、なに、このゲーム??


 陰キャの知らない世界では、こういうのが流行ってるのか??


 オレは戸惑いながらも阿舞野さんの反対側を咥えた。


 僅か15〜20cmぐらいの距離に阿舞野さんの顔がある。


 この異様な光景、周りのお客さんからどう見えるだろう?


 この二人。まさか店内でキスするつもりの頭おかしいバカップル? って思われやしないか?? 

 大丈夫か!?


「じゃ、いくよー!」


 でもオレのそんな心配を、阿舞野さんは全然気にしていない感じ。


 ええい、どう思われようと構うもんか!


 オレも開き直ってポテトを咥えて引っ張った。


 ポテトは簡単に千切れた。


 オレの方が長かった。


「あー、アタシのポテトが短くなっちゃった。

 ゆらっち、その長いの食べていいよ」


 短くなったポテトを阿舞野さんは笑顔でリスのように齧る。


 ポテトを食べるってだけでも、人の目を気にせず楽しんでしまう阿舞野さんがなんだか羨ましかった。


 自分に自信があるんだろうな。


 オレにないものを持ってる彼女に対して、尊敬の気持ちも湧いた。


 ……そうだ。


 そんな彼女に対して、オレはちょっと頭に浮かんだことがあった。


「……阿舞野さんに相談があるんだけど」


「ん? アタシに相談? なになに!?」

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