26ページ目.風に舞いあがる髪にスカート

 ある日の昼休み。


 オレは阿舞野あぶのさんのビキニ撮影をする予定の屋上へ下見に行った。


 オレは滅多に屋上には上がらないので、来るのは久しぶりだ。


 別に撮影場所は屋上じゃなくてもいいんだけど。


 一応、ラノベ部部長、雨宮瑞葉あめのみやみずは様のストーリーに則れば屋上で撮影、ということだ。


 でも、どんな感じでどんなふうに撮影したらいいのだろう?


 女子を撮影する経験なんて、当然オレの過去には一度も無い。


 それどころか、よく考えたらスマホのカメラ自体、あんまり使わない。


 ちなみに、オレの通う群光学園は進んでいるので、屋上一つ取っても無駄なスペースにはしない。


 ふつうの学校は、屋上に上がるには鍵がかかっていたりして、生徒が簡単には入れない場所にしてるだろうが、我が群光ぐんこう学園は屋上が高いフェンスに囲まれたちょっとしたガーデンのようになっており、花壇やベンチがあってオープンな空間なのだ。


 だから晴れの日は生徒が寛げるようになっている。


 久々に屋上に足を踏み入れると、そこには数人の女子がいた。


 はしゃいでダンスをしている三人組のグループに、ベンチに座り一人で何やら絵を描いてる子。


 ん……? 


 あれは期待の漫画部部員、稲羽いなばふわりちゃんではないか。


 あの目が隠れるほどの前髪、間違いない。


 一応、部長として声をかけておくか。


「よっ、ふわりちゃん!」


「あっ、部長」


 隠れる目でオレを見上げてくる。


「何してるの? 絵の練習? 熱心だねぇ」


「女子のスカートが風になびく様子を写生しにきました。わたしの考えた漫画でそーいうシーンがあるんです」


 なるほど、たしかに屋上には時折強い風が吹いて、踊っている女の子達のスカートが風にはためいている。


「ところで部長は何しに屋上へ?」


 ふわりちゃんに聞かれた。


 しまった、水着撮影の下見なんて正直に言うわけにはいかない。


「いや、お昼ご飯を食べたのでちょっと腹ごなしに校内の散歩を……」


 我ながらよくわからない言い訳だ。


「それにしても風でスカートが捲れそうなのに、ダンスしてる子達は恥ずかしくないのかな?」


 オレは無理やり変な方向へ話題をそらそうとする。


「恥ずかしくないですよ」


 そう言ってふわりちゃんはベンチから腰を上げた。


 すると自分のスカートの裾を掴み、バッとオレの目の前で捲り上げた。


「うわっ!」


 突然のふわりちゃんの大胆な行動に、オレの目がコンタクトの代わりにDVDを入れたように大きく丸くなる。


 ふわりちゃんのスカートの中はグレーの短パンだった。


 左下に小さなクマさんの顔が刺繍されている。


「見えてもいいものをはいてるから平気ですよ」


 ふわりちゃんはあっけらかんと言う。


 そりゃ女の子の感覚からしたらそうなのかもしれないが……、オレはなんと返事をしたらいいか、言葉に窮する。


 そのとき、屋上に一際強い風が吹きつけた。


 今度はふわりちゃんの前髪が捲れ上がる。


「きゃっ!」


 ふわりちゃんが小さな悲鳴を上げた。


「うおっ!」


 オレは逆に感嘆をあげた。


 なんせ、はっきり見えたふわりちゃんの目は、ぱっちり大きくバランスの取れた二重の目。


 髪を上げ、おでこを見せたふわりちゃんは、顔全体で見るととんでもなく可愛い女の子だった。


「はわわ!」


 ふわりちゃんは慌てて前髪を押さえる。


 風は吹き続け、ふわりちゃんのスカートは自分の名前のようにふわりと捲れ上がっていた。


 だけどふわりちゃんは、舞いあがるスカートはそのままに、彼女は必死に自分の前髪を抑えてあたふたしていた。


 うーん、やっぱりどこか不思議な子だ。




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