17ページ目.アブノに首ったけ
オレはいつも寝る前に漫画を描く。
今夜も可愛い女の子の描き方を練習していたオレが、そろそろ寝ようかと思った時、スマホにメッセージが届いた。
差出人は
《明日の朝イチ、なる早でエントランス集合!》
《今度はゆらっちがドキドキチャレンジする番だよ♪》
ドキドキチャレンジ?
《なにそれ?》
オレは尋ねる。
《ゆらっちは体操服交換してないでしょ!》
ああ、あの件か。自分の漫画なのにすっかり忘れていた。
《なにしたらいいの?》
《明日の朝、教えるよ♪》
阿舞野さんは体操服交換に変わる何かを思いついたようだ。
一体、オレに何をやらせる気だろう?
気になって、彼女が思いついたアイデアが何なのか、頭の中であれこれと考える。
その間、オレの胸はドキドキしていた。
なるほど、確かにこれは病みつきになる要素はあるな。
阿舞野さんがオレの漫画にハマった理由もこれなのかもしれない。
◇ ◇ ◇
翌朝、約束どおり、オレと阿舞野さんは学校のエントランスで合流した。
二人で人目のつかないところへと向かう。
何をされられるんだろう? そのことを思うと、起床から胸の鼓動が止まらない。
二人で中庭の目立たないところへ行くと、阿舞野さんはカバンの中に手を入れ、
「じゃーん!」
と何かを取り出した。
「……これは?」
「アタシのネックレス。ゆらっちには今日一日これをつけて過ごしてもらいまーす!」
そう言うと、阿舞野さんはニカッと笑った。
「えぇー、オレ、アクセサリーなんてつけたことないんだけど」
そう、アクセサリーなんて色気づいた物は、陰キャのオレには無縁の物だ。
「だからやるんだよ。これチェーンの長さ50cmのやつだから、ゆらっちがシャツの中につけてても目立たないよ」
そう言って阿舞野さんはオレの制服のネクタイに手をかける。
戸惑っているオレのネクタイを取ると、阿舞野さんは続けて「シャツの上のボタンはずすよ」と言った。
阿舞野さんの細い指が、オレのシャツに触れる。
まるで恋人に着替えさせられている感じだ。
彼女の顔が近い。
ボタンを外すと、阿舞野さんは今度は背後に回った。
前に手を回し、オレにネックレスをつける。
首の後ろで留め具を繋ぐと「できたよ……」とオレの耳元で囁いた。
彼女の吐息が耳にかかる。
「あ、ありがとう」
オレは反射的にお礼を言った。
「さっ、これ一日つけて、レディースのネックレスつけてること周りにバレないか、ゆらっちもドキドキしながら過ごして!」
阿舞野さんはオレをいたぶるように笑った。
彼女はSっ気もあるのかもしれない。
◇ ◇ ◇
授業中、ふだんは無い首についている異物が、やはり気になった。
隣の席の阿舞野さんへ目を向けると、ニヤニヤと笑みを浮かべ、オレに視線を送っていた。
学校一の美女とも名高い彼女の私物が、自分の首にひっそりとある。
そのことを周りの男子は誰も知らない。
だから周りの目も気になった。
バレたら、
そんなことが頭の中を巡り、矛盾した言い方かもしれないけど、オレは静かに興奮していた。
異性のものを身につけるって確かにドキドキするな。
阿舞野さんとオレが細い鎖で繋がっている、そんな感じがした一日だった。
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