2ページ目.オレの名は。
学校生活の始まりにおいて、最初の重大イベントと言えば……、席決めだ。
その後の人間関係にも影響を及ぼす大事な儀式。
去年も同じクラスだった人間はともかく、新しいメンバーとは、まず近くの席のヤツと話してクラスに馴染んでいくことが多い。
ただ、変な奴、ウザい奴が隣にいると、勉強できないだけならまだしも、精神が休まらなくて登校が憂鬱になって、学校に神経を衰弱させに来るようなもの。
最悪、不登校もあるかも。
始業式が終わり、とりあえず先生が来るまで、教室ではみんな出席番号順に座っていた。
やってきた高校生活のラストの担任は、若い女性の先生。
黒板に自分の名前を書く。
『春日咲耶』
「読み方はかすがさくや。卒業までよろしくね!」
春日咲耶先生か。
名前の和風な
その先生が就任早々、言った。
「席替えしよっか!?」
オレの名前は
一つ前の席に座ってる出席番号後方名字の代表格「山本」って子よりも後ろだ。
もう一つの代表格「渡辺」なら、オレの後ろになってくれるけど。
でも残念ながら「渡辺」はうちのクラスにはいない。
だから自分より後ろの人は無し。
ということで、オレの現在の席は廊下側の列の一番後ろ。
目立たなくていいし、帰る時は教室からすぐに出られるので、別にここでもいいか……、という気持ちもある。
因みに新学期早々叫んでいた阿舞野さんは名前が「あ」から始まり、しかも他に名字が「あ」で始まる人がいないので……、窓側の列の一番前だ。
丁度、オレの対角線上の反対側。
漫画を描くのが好きなおとなしい性格のオレと明るい人気者のギャル、名前がそれぞれの立ち位置どころか座る位置まで表すものなのだろうか?
「このまま名前で席が決まっちゃうなんてつまんないでしょ!?」
と、咲耶先生は言った。
新しいクラスなんだから、名前順の方がクラスメイトを覚えられていいんじゃないかと……。
ま、いいか。
「じゃ〜ん!」
咲耶先生はそう言うとタブレットを取り出した。
「くじ引きで決めようぜっ!」
先生はご丁寧に抽選アプリを用意してきたようだ。
「じゃあ窓側の列から」
「はーい!」
阿舞野さんが右手を高く上げて元気よく返事する。
トップバッターは阿舞野さんのようだ。
「アタシ10番!」
彼女が自分の引いた番号の数字を大声で言う。
黒板に書かれた先生の座席表によると、窓側から2列目の一番後ろ。
そこが阿舞野さんの新しい席。
まてよ。このまま順番に引けば、オレはくじを引こうにも、ラストに余った残り物ってことじゃないか!
うーん、目立つのは好きじゃないけど。くじを引く楽しみがないってのもなんだかなぁ。
そんな感じで、くじ引きは順調に進んで行った。
「ラスト! 由良命君!」
先生がオレの名を呼んだ。
えっと、残ってる番号は……。
「最後に残ったのは5番だね」
窓際の一番後ろか。
廊下側から窓側に移っただけかよ。
あれ、もしかして5番の隣って……。
「それじゃ、みんな大移動!」
先生の掛け声を合図に、クラスメイトみんなが荷物を持って自分引いた番号の席へと移る。
オレも窓際へ移動する。
その席の隣は……、そうあの人気者。
阿舞野さんだ!
隣が気になってしまうオレの視線と彼女の視線が、スカートの中を見た時以来、再び出会う。
「やっほー、よろ!」
目が合った瞬間、なんと阿舞野さんは人見知りすることなく微笑んでオレに挨拶してくれた。
「はっ、は、初めまして……」
不意打ちの挨拶を食らったオレは思わず上ずった声で挨拶を返す。
「これからよっろしくぅ! ゆらっち!」
阿舞野さんが続けて言った。
えっ、もしかしてオレの名前、覚えてくれてたの?
しかも、ゆらっち……ってなんだ?
まあ、あだ名だろう。
っていうか、初めての会話で、いきなり阿舞野さんにあだ名をつけられてしまった。
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