第3話 只者じゃあないよね①

 自分が諸葛亮の生まれ変わりであると知った亮は、日に日に潜在能力そのものが目覚めていく。


IQの上昇によって、ダメダメだった学校の成績はトップとなり、あらゆる物事への理解力、対応力は上昇し、特に先読みの能力はズバ抜け、それまでの生活や周囲の環境は一変した。


 少し前までは大学に進学ができるかどうかさえ怪しい少年であったが、突然ハイレベルの大学を受験するだけの能力に目覚め学校の先生からの評価は上がり、当然クラスメイトをはじめ全校生徒から一目も二目も置かれる存在となっていた。

 

もともと容姿は見栄えのするタイプだから、女子生徒からの人気も急上昇し、この先の人生はバラ色に輝けるはず.........と思っていた。



▽ ▽ ▽



―――半年後


 難関大学である『梁山院大学』に合格した亮は、夢だったバラ色のキャンパスライフに胸を躍らせていた。


「ついに大学生かぁ。せっかくこんなに平和な世界にいるんだから、青春ってやつを謳歌したいよなー。昔、襄陽で学んでいた頃は、青春と呼べるような爽やかで楽しい体験が出来るわけもなかったからなあ。この世界での様々な交わりをしっかり体感しておきたいものだなあ」

 

そう考えて、新しいフィールドで出会う人達、日々の出来事に深い思いを巡らせていた。


 

 入学して約1ヶ月程経ったある日の朝。


 大学へ向かう途中、青春って一体なんなのか?などと思考していた亮は、目の前を歩くスキンヘッドの大男に出会う。

その大男からは、力強い“闘気”と筋肉質の身体に似合わない優しい気とが混合した特殊なオーラを感じた。


(この平和な世界にも、こんな闘気をまとった男がいるんだな)


この男がどんな人物なのか興味を魅かれ、その大男のオーラに吸い寄せられるように後を追って行く。


 

 しばらくして、前を歩く大男のさらに前方、商店街入口で男たちの集団がザワついているのが見えた。

もう少し近づいて行くと、見るからに頭の悪そうなガラの悪い野郎どもが揉めているのがわかった。


 自分に関係のないトラブルには巻き込まれたくないが、自分に火の粉が降り掛かることが無さそうないざこざであれば問題はない。大男がこの先の道を行くなら出来るだけ目立たぬようについて行こう。

亮はそう考えて、とりあえずその騒ぎを観察することにした。


近づいてよく見ると4対1の喧嘩のようだった。


すでに口喧嘩から殴り合いになりそうな状況で、やからたちの周りには遠巻きに人だかりが出来ていた。


そこへ新たに5人ほどの男たちが加わる。どうやら4人組側の仲間らしい。


(たった1人に9人がかりか。あいつ可哀想だなぁ……)


と、そこへ更に1人の男が仲裁に入って行く。それは亮の目の前を歩いていた大男だった。


(あら〜、あの大きいのが入って行っちゃったのかあ。火に油な〜んてことにならないといいんだけど......なりそうな予感がするなあ)


亮は立ち止まって更に観察を続ける。


「貴様ら、こんな大勢で寄ってたかって卑怯だろ!!」仲裁に入った大男が突然大声をあげた。


「なんだーー! てめえ、誰だよ。」

「バーカ! しゃしゃり出てくるんじゃねーーよ! てめえもやっちまうぞ!」

「死にてえのか! この野郎ーー!!」

多勢の側のやからたちはお約束の反応を見せる。


するとやからたちの罵声を浴びた大男の闘気がまるで阿修羅のように強くなりだした。

大男はかなり短気なのか、無いはずの髪の毛が逆立っているかのような闘気が身体から溢れ出している。


「貴様らぁぁーーーー!!」


(やっぱり!! ミイラ取りがミイラになっちゃうよ......しっかし、あの男、凄い闘気だな)


「口で言ってもわからん奴は我が鉄拳で理解させてやる!」


「ちょっと待ってくれ!!」

今にも飛びかかりそうな大男を制止したのは、絡まれている男だった。


(あれ〜、あの可哀想な彼ってすごいな、大きい奴の闘気をしっかり抑え込んでいるみたいだ)


「君には関係ない。絡まれているのは俺だから」

「いや、あんた、この状況をわかってるのか?」

「俺はバカではないのでわかってるよ。こいつらの相手は俺なんだから」


その台詞を聞いた輩たちが反応する。


「うひゃひゃひゃーーー!! ウケるぜー! あの僕ちゃんが1人で全部やっつけるってよ!」

「おいおいおい、お前ら、なーに言ってんだよ!! モノホンのバカかーー?」

「おい、そこのデカいハゲー!!  お前はすっこんでろよ!そっちのスカした・・・・野郎に用があんだからよー!」


「こらあぁぁー!誰がハゲだってぇ!?」大男の額に青筋が浮きあがる。


「はぁ? お前に決まってんだろ! 見りゃあわかんだろ、禿げてんのはお前しかいねえだろうがよ!!」


「いまハゲって言ったのは、てめえええかあーー!」


大男(ハゲの奴)の闘気が一気に爆発する。

ハゲあ...じゃなく、スキンヘッドにも青筋が浮かび上がり、その頭からは湯気のような闘気が立ちのぼる。


大男の左足が地面を強く踏み込む。


――― BOoooooooOMB!! ―――


次の瞬間、

岩のような右拳がハゲ発言をしたやから1号を殴り飛ばす。輩1号はもんどり打って道路脇の植栽に倒れ込んだ。


(玉屋ぁぁ~!!)

亮は思わず心の中で叫んでみたものの、その一部始終を目の当たりにしてハゲ頭の凄まじい闘気が全身にビリビリと伝わってくるように感じた。


ハゲ頭の大男が放つ闘気の圧力が巨大すぎるのか、

そのハゲ頭の拳のスピードと破壊力の凄さなのか、

それともハゲに目が眩んだせいなのか??


とにかく輩チームの方は圧倒されて、しばらくの間、時が止まったかのような沈黙に包まれる。


(あいつら......いかにもチンピラなくせにダサダサだな〜)


呆れ顔の亮が心の中でそう思っていると、


「てめえ、この野郎——! 何しやがったぁーーー!!」

沈黙を破り、輩2号が吠えた。


 その時、輩チームの一番後ろにいた赤毛のツンツン頭の男(輩9号)が、その他の輩たちを押しのけてハゲ頭の前に立ちふさがった。


「おい! てめえ、なかなかすげえじゃねえか! 俺と勝負しろよ!」


「なんだ!? 貴様は!? 貴様もそこのバカのようになりたいのか!」


「おいおい! 俺をこいつらみたいな、くっせえゴミクズどもと一緒にするんじゃねえぞ」

輩9号がその他の輩どもをアゴで指し示す。


「なんだと!おい新入り、てめえ今、何つったんだよ!! 死にてえのか、コラッ!!」

リーダー格らしき、輩2号が息巻く。


「誰が新入りだって?俺はおめえらの仲間になった覚えなんかねえぞ!ふざけんなよ、カスども」


「てめえ、兄貴に向かって何言ってやがる!」輩3号らしいのが口をはさむ。

「俺たちに歯向かうとこの街で生きていけねえぞ、わかってんのかー!」多分4号が叫ぶ。

「そうだ、てめえ! クソ新入りが! 威張ってんじゃあねえぞーー!」5号っぽいのも叫ぶ。


その他の輩6〜8号も次々に輩9号に罵声を浴びせる中、ぶっ飛ばされた輩1号だけはしっかりと気絶していた。


「うるせえぞ!! 黙ってろカスどもが!俺は強え奴にしか興味ねえんだよ!!」


「なんだい、仲間割れかい?だったら、俺はもう行くよ」絡まれていた男が呆れ顔で口をはさむ。


(あのスカした彼、すごいな〜、自分が喧嘩の張本人のくせに、あの捨て台詞とは....しかも、9人相手にビビるどころか物凄くスカしちゃってるな~)


亮は可哀想だと思っていた男のふてぶてしいスカした台詞に妙に感心してしまう。


「ちっ、どいつもこいつも、俺たちをナメやがって!よっぱど死にてえらしいな。お前らー、この新入りも一緒に半殺しにしてやれーー!!」


とうとうキレた輩2号の号令一下、多勢の輩たちが赤毛のツンツン頭=9号に襲いかかる!


しかし、まったく動じる気配のない輩9号は、眉一つ動かすことなく背中から木刀を引き抜いて余裕の迎撃体制。


襲いかかる輩たちの間隙を縫って、一瞬で一番後方に立つリーダー格の輩2号の間合いに入る。

 

そこから閃光のような一振り、


――― SMAaaaaaaaASH!! ―――


 瞬く間に2号を撃沈。


 次の二振り目に入ろうとしたそのとき、輩9号の木刀がピタリと止まった。


「あ~、なんだ、てめえ」


いつの間にか赤毛の輩9号の背後に立って木刀を掴み止めたのは、あの可哀想だと思っていたスカした男だった。

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