第11話 自動車学校 その6

仮免をいくら取ったからとはいえ、路面は路面。胸の鼓動が止まらない。元々緊張することが大っ嫌いで、逃げようかと思った。しかし、これは親父が払ってくれた金だ。ふざけた事はできない。一人思い悩んでいると天使の声が


「あ~森く~ん!受かったんだね!おめでとう!」


「いえいえ、稲田さんの素晴らしいご指導の賜物ですよ!」


「またまた~。じゃあいつも通り確認して出発しようか」


(まあ、今日だけは神を信じてやってもいいかな)



自動車学校は複合施設の屋上にあるため、道路に出るには坂を下らなきゃならない。しかし僕は坂道がなんでだか好き。


軽く坂道を下ると、稲田さんは


「ここは小学生がよく飛び出してくるところ。そしてここでは追い抜き、ここでは追い越し。」


と全てを教えてもらった。運転してる最中に稲田さんが


「私福岡から来たばっかりなのね。で今美味しいラーメン屋さんを開拓中なんですけどどこかある?」


と尋ねてきた。


(普段お世話になっている稲田さんに不義理はさせねぇ) 


「あそこはコッテリ系で値段も安いですよ!あとはやはり九州の地元のとんこつラーメンには敵わんですたい。」 


「味千ラーメンよく行くの!」


「ええ、家庭の都合上、親父と必ず食べて帰ってますね」


「そうなんだぁ」


「こっちに住んで20年くらいですからね。それでも味千ラーメンとか黒マー油とかには勝てんです」


「分かる。熊本県人じゃなくてもそこはなんとなく分かる」


「熊本は生まれた場所なんですけどね笑」


走行しているうちに教習が終わってしまった。


「ね?安全に運転してれば楽しいでしょ?」


「でも…….高速が……」


「大丈夫大丈夫!高速は乗ってから楽しいから」


(本当かなぁ……でも稲田さんが言うんだから間違いないだろうなぁ)



こうして人生初の路上実習が終わった、



まだ、この時はあの出来事が起きようとは知る由もなかった。

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