勉強も運動も学年成績一位の幼馴染が、両方学年最下位の僕に異様に構ってくるのだが?

さばりん

いつも構ってくる幼馴染

 俺、西田卓也にしだたくやは、学年成績最下位で、補習組の常連だ。

 今日も放課後、赤点を取ってしまった数学の追試験が迫っている。

 昼休み、俺は必死に試験範囲である教科書を繰り返し読みながら、演習問題を繰り返していた。


「卓也ー!」


 すると、逼迫ひっぱくした俺を遮るようにして、明るい声で名前を呼ばれる。

 俺がぎろりと睨みつけると、そこには、後ろに結んだポニーテールを揺らし、こちらへ駆け寄ってくる一人の女子生徒がいた。


「ねぇねぇ、卓也聞いて聞いて! 私、今度県の選抜に選ばれたの!」

「あーはいはい。それは良かったね」

「むぅ……もっと褒めてくれてもいいじゃん!」


 そう言って頬をぷくりと膨らませている女子生徒は、俺の幼馴染である渡辺舞わたなべまい

 舞は俺と違って学年トップの成績を誇り、体力テストでも常に学年トップ。

 まさに文武両道、才色兼備を兼ね備えた美少女だ。

 一方の俺は、成績学年最下位で、体力測定に関しても何と最下位。

 見事な両極ともいえるこの差。

 もちろん、学校内での対応も真逆。

 俺はクラスの奴らから見下され、舞は女神のような扱いを受けている。

 今だって、『なんでいつもお前にばかり舞さんは話しかけてんだよ』という視線が凄い。

 俺は息をつき、しっしと手で舞を追いやる。


「悪いけど、今日は舞に構ってる暇はないんだ」

「えっ、なんで?」

「数学の追試なんだよ。今回のテストで赤点取ると、進級すらヤバイ」

「えぇ⁉ 大変じゃん!」

「だから言ったろ? ほら、分かったなら勉強に集中させてくれ」


 そう言って、俺は再び教科書へと目を通す。

 すると、横から手が伸びて来て、教科書をひょいッと取り上げられてしまう。


「なっ、おい! 何すんだよ!」


 俺がイラっとした声で追及すると、舞はにっこりとした笑顔でこちらを見据えてきた。


「なら、私が放課後まで卓也にみっちり叩き込んであげる」

「いや、いい……」

「ダメ」

「ははっ……俺の馬鹿具合は知ってるだろ? 勉強できない俺が、成績トップのお前なんかに教えてもらっても理解できるはずないからな……イデデデデッ⁉」


 俺が卑屈になっていると、舞がこめかみをぐりぐりと指で押してきた。


「痛ってぇな……何すんだよ⁉」


 俺が鋭い目つきで睨みつけると、目の前にいた彼女の頬にきらりと光るものがあった。

 それを見て、思わず固まってしまう。


「だって……もしこのテストで卓也が赤点取っちゃったら、私達一緒に卒業できないんだよね……? 同じ学校でこうやっておしゃべりできないんでしょ?」


 悲し気な表情を浮かべる舞。

 彼女に、そんな表情をさせたかったわけじゃないのに……。

 俺は本当に正真正銘の馬鹿だ。

 いつも舞は、周りの空気とか気にせず、毎日俺に話しかけて来てくれて、鬱陶しい時もあったけど、ずっと幼馴染からの同情からだと思っていた。

 しかし、舞の中ではずっと、小さい頃から俺との関係性は全く変わってなくて、ただ純粋に、学校生活を一緒に楽しみたいだけなのだ。

 そんなことにも気付けず、自分の陳腐なプライドで意地を張った自分がばかばかしく思えてくる。

 俺は頭を掻きむしってから、舞に向き直った。


「悪い……俺が悪かった」

「卓也……?」


 俺は姿勢を正して舞の方へ身体を向けて、深々と頭を下げた。


「俺も、舞とこれからも沢山思い出を作っていきたい。だから、このテスト、何としても絶対に通過したい。だから、舞の力を貸してくれ」


 俺がそう言うと、舞はふふっと微笑んだ。


「別に、そんなかしこまらなくても、私はいつでも卓也の味方だよ。だから、放課後までに卓也にも分かるように教えてあげるから、一緒にがんばろ?」

「おう……」


 舞は隣の机を俺の席にくっつけて来てから隣に座った。

 それから、昼休みが終わるまでと、放課後のテストが始まる前まで、舞が俺の分からないところを丁寧に教えてくれたおかげで、俺は無事に追試で赤点を取らずに済んだ。

 これからも、色々と幼馴染には迷惑をかけると思うけど、出来るだけ昔のように、俺も素直でいられるようにしよう。

 そう心の中で誓うのであった。

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勉強も運動も学年成績一位の幼馴染が、両方学年最下位の僕に異様に構ってくるのだが? さばりん @c_sabarin

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