第29話
後ろ以外、壁に囲まれ行き場を失う。
くそっ、なんで行き止まりなんだよ!
壁の高さは三メートルくらいで飛び越えるのは可能なのに、侵入者防止の針金が邪魔で真冬を抱えて飛び越えるのは無理がある……。
「ナイ……」
「ちっ……」
後ろから屍人の声が響く。すぐにでもここへ押し寄せてくる……! どこか、逃げ道か隠れられるような場所させ見つけられたら……!
前の壁や右隣、左隣の壁に触れ逃げ道を探す。
「……っ! ここ……!」
左側の壁は住宅の隔てになっており、一箇所だけ脆い部分がある!
腰から護身用にと装備していた電流が流れる警棒を取り出し構える。
「ナイ?」
「真冬、下がってろ。この壁を壊す」
「え? 壊すってどうやって?」
「こうするんだよ!」
警棒を、脆い壁に突き出す。それを何度も繰り返し、壁にヒビが広がり小さな穴が生まれる。そこへ足で穴を広げていく。
「よしっ。真冬、先に行け」
「え、ええ!」
人一人、潜り抜けられる大きさまで壁を破壊して真冬を先に行かせる。そのあとを僕が潜り抜け、庭先にあった自転車二台を強引に穴へ突っ込み、植木鉢を自転車の前に積み重ね、道具入れの倉庫から盾にできそうな物で穴を塞ぐ。
とはいえ、数分しか保たないだろうな。
「ナイ! 次はどこへ行けばいいの⁉」
真冬の焦った呼び声。
それと同時に、穴と自転車の隙間から屍人の腕が伸びる。
『ウウウウウウウウウウウウウウウウウッ』
『ハハハァァァアアアァァガガガガガガァァアアアァァアアアアアア』
ガシャ、ガチャッ、ドンドン、と穴に群がる屍人共。
「真冬、裏手から出るぞ!」
「分かったわ!」
裏手に周るため、玄関の前を通り過ぎようとした瞬間、予期せぬことが起きた。
『ウウウウうアアアアアアアアアアアッ!』
――バンッ!
「「――っ⁉」」
玄関の扉が急に開き、勢いよくそこから屍人が一体、飛び出し先に進んでいた真冬に襲いかかる。
「真冬!」
「……っ⁉」
口を開け、腕を伸ばしその手は真冬の腕を掴もうとする。
やらせるものか!
真冬の右腕を左手で掴みこちらに引っ張る。屍人の手は空を切り、前のめりになるがすぐに体勢を整えしつこく真冬を狙う。抱きかかえ、右手に持った警棒で顔を横殴りにするがそれで怯むことはなく、汚い口と血まみれの歯が僕の腕に噛みつく。
「いっ! ああああっ!」
「ナイ!」
『フゥウウウウググググググウウウウウウウウウウッ!』
腕に噛みつき、目だけが僕を見る。ギョロっとした血走った目玉が気持ち悪いんだよ!
「……っ! い、いい加減、口を離せ!」
腕から、ミチミチと皮膚が破れ肉を千切られる音が耳に届く。それと同時に耐え難い痛みが腕から全身に走る。
いってぇ! こいつ、何があっても口を離すつもりはないってか!
『フゥゥウウウウウウウウウウウウウウウッ』
「ああっ、いぃぅぅううっ!」
「ナイから離れて!」
「ま、真冬⁉」
鞭の持ち手を逆手に持ち、噛みつく屍人の頭を何度も叩く。
「離れなさい!」
何度も叩いた結果、口が少し緩んだところに繋いでいた手は真冬から離して空いた左手で目玉に指を突き立て抉る。
『アアアギャァアァァアアアァァァッ』
痛みでも感じるのか右目から薄汚い色をした血を垂れ流し、声を張り上げ口を離した隙きに警棒でもう片目に突き立て電流を流してやった。
『アバアバアバババッ』
全身が壊れた玩具のように全方向へ揺れ、頭から黒い煙を立て焼けた臭いが鼻をつく。
「ナイ! 腕は⁉」
「いつっ……。す、少し肉を喰われただけだ……」
「酷い傷……」
腕に屍人の歯型、喰い千切られた皮膚と肉から血が流れていく。
右腕から熱をもちズキズキと痛みが走るっ……!
「こ、ここから早く逃げるぞ……」
「で、でも傷が……」
「ここから離れたら手当てを頼む……」
「え、ええ……」
真冬の手を掴み、裏手に周る。自転車や植木鉢なんかで塞いだ穴も、もう保たいないはず。こんな狭く囲まれた場所に流れ込まれると今度こそ喰われる……!
裏手から道に出て柵を閉める。真冬を連れてある程度、群れから距離が開くと真冬を抱き寄せお姫様抱っこの格好で民家の屋根に飛び乗り、また高さのある家の屋根へと飛び移る行為を繰り返し、家の次はビルへと変え屋上に飛び降り立つ。
真冬を下ろすと、僕は腕の痛みと秋斗との戦いで負った傷が開きその場に倒れ込む。
「ナイ!」
「はあ、はあ、はあ……」
「血が……!」
「だ、大丈夫だ……。少し休めばまた動ける……」
「そんな風には見えないわよ!」
「ぼ、僕のリュックから救急キットがある。それを出してくれ……」
「分かったわ!」
念のためにと、木藤から渡されリュックの中にはキットが入っている。リュックを肩から下ろしキットを取り出してもらう。
キットの中には消毒液、包帯、ガーゼも入っていた。まず、腕から消毒液を垂らしガーゼで押さえ包帯を真冬に巻いてもらう。その次に、脇腹だ。
服の裾を上げ口で噛む。巻いていた包帯とガーゼを取り新しい物に変える。
「これでいいの?」
「ああ……」
心配そうな真冬の頭を撫でる。
「ナイ?」
「大丈夫。僕が必ず、大樹の下まで護りながら案内するから」
「……っ! ええ……」
ぎこちない笑みを浮かべる真冬。
「とりあえず、ここからは隠れながらゆっくり進んでいくしかない」
「そうね……」
少し休憩を挟み、これからを話し合う僕と真冬だった。
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