奪われどちらでもない案内役

第19話

 秋斗を殺せない木藤。

 秋斗の視線は、木藤から僕へ注がれる。


『ぼくを、殺してほしい。君なら、同じ被験体できっと殺せるよね……?』


 目が合うと秋斗は僕へ懇願。同じ被験体、その言葉に生唾を飲み込む。秋斗の言うように、クロとアカなら殺せるだろう。


『もう、自我を保っていられないんだ……。だから、早く……!』

「――ダメだ!」


 そう言う秋斗の言葉を遮るように声を荒げ拒否する木藤。僕を見て必死な叫びで訴える。


「救う方法なら、俺がすぐ見つけるから殺さないでくれ! お願いだ!」

「…………」


 見つけるって、それは今すぐなのか? 一分後には化け物に成り果てるかもしれないのにか? そんな悠長なこと言っていられる場合か?

 秋斗は、もう保たない……。なら、彼の最期の望みを叶えてあげる方がいいだろう?


 木藤と秋斗に挟まれた僕の答えは簡単だった。

 秋斗の苦しみを僕は知っている。自我を失い化け物と成り果てた同胞を何度も見てきた。誰の声も届かず、ただ殺戮を繰り返し血の涙を流す。


 化け物になれば、この地下街に特別クエストなどというくそみたいなゲームが始まる。特別クエストは、僕ら第二世代が手に負えない化け物となった同胞を、政府によって発令されここへ来る人間に討伐クエストという建前の抹殺だ。


 話に聞いた第一世代がいなくなり、それを補うために用意されたのが第二世代。いつかは自分もそうなってしまうのでは……。という不安と恐怖を抱えながら日々を生きる。

 所詮、捨てられ行き場もない僕らはこの神々が創り上げた遊戯の駒にしか過ぎない。化け物になれば、より楽しむための材料にされ政府共の手を汚さず抹殺ができるゲームの一部へと変えられるだけ。

 一生、この地下街に縛られ生きる以外の道はない。

 だから、今この場で楽にしてやりたい。それが僕の答えだ。


 ――クロ、アカ。殺れるか?

 ――グルルッ。

 ――ガウッ。


 そうか……。殺れるのなら、お前たちに任せる。好きなだけ暴れろ。


「秋斗」

『答えは出た?』


 掠れた声。話すことも辛いのだろう、息も絶え絶えの状態でも僕と会話をする。


「ああ。望み通り、僕がお前を殺してやる」

『ああ……。辛い役目を押しつけてごめんね。ありがとう……』


 笑って謝って礼を言うなよ……。こんなこと謝る必要も、礼を言う必要もない。もっと、恨み言を吐いたっていいだろうに……。

 クロとアカが口を大きく開けた。左右から首に噛みついて殺すため。それを見た木藤が僕と秋斗の間に入り立ち塞がる。


「ま、待ってくれ! ナイくん!」

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