危険しかない旅の二日目

第13話

 荒野の道のりで、使われていない小屋を見つけ一夜を過ごすことに。


「今日は、ここで休もう」

「分かったわ」

「保存食、食える分だけでいいから腹に入れとくといい」

「食欲はないのだけど……」


 リュックから保存食と水のペットボトルを取り出し、食べられる気がしない真冬に差し出す。まあ、屍人を狩る瞬間に出くわしたあとで食えと言われても気分が乗らないのは分かるが。


「それでも、食える時に腹に入れておかないといざって時に動けなくなるぞ?」

「……分かったわ」


 受け取った真冬は、水を飲みながら保存食を囓る。僕も、保存食を食べる。静かな夜になりそうだな。

 翌日、日が昇り簡単に食事を済ませ二つ目の街を目指す。

 道中、真冬から僕へ質問が投げかけれる。


「ねえ、ナイ」

「ん?」

「どうして、ナイは案内役? という仕事をしているのかしら?」


 歩きながら空を見上げる。真冬から見れば、案内役などせず別の仕事に就いた方がいいのでは、と思うんだろうな。僕は、真冬の質問に答える。


「それは、それしかないからだよ。それ以外の生きる道がなかったから」

「どういうこと? 屍人を倒して稼ぐ方法もあるんじゃないの?」

「それは禁止されている」


 僕以外の案内役もいるが、全員が地上に出ることを禁じられこの地下街に縛られている。


「僕らは、地下街から出ることはできない」

「何を言っているの? 普通に出ればいいはずじゃ?」


 困惑の真冬の口からこぼれた言葉。

 僕はその言葉に、自分の項を指し首を傾げる真冬へ言葉を続ける。


「項にチップが埋め込まれているんだよ。地下街から出ると、このチップが反応して脊髄を通じて電流を流す。その電流が脳を焼いて死ぬ。だから、僕ら案内役は地上に出ることは死を意味する」


 隣を歩いていた真冬が瞬き一つしてその場に固まってしまう。歩きを止めたことで、僕も立ち止まり説明を続けた。


「案内役ってのは、孤児や行き場を失った子供が政府によって与えられた役割だ。他にも情報屋、処刑人など役割を与えられた奴がこの地下街にはごまんといる。その役割を手放すこともできず、放棄すれば処刑される。屍人を狩る行為も、禁止されすれば死だ」


 と、自分のことながら素っ気なく。

 抜け出すことも、逃げ出すこともできやしない。項に埋め込まれたチップを取り出せばいい、なんて簡単なことではない。取り出した者がいたが、誰もが取り出す瞬間に電流が流れ結局、死んでいった。

 その光景を見て、やろうとは思わない。

 僕の話を聞いた真冬は、


「ごめんなさい」


 申し訳なさそうに謝る。


「いや、真冬のせいじゃないから気にするな」


 しまったな。少し、話し過ぎた。どうも、真冬相手だと話す必要もないことまで話してしまう。


「さっきの話しは忘れてくれ」


 そう言って、また歩き出す。

 会話はそこで止まってしまったが。


 腕時計を確認すればちょうど正午だ。


「真冬、そろそろ休憩にしよう」

「ええ。少し疲れたわ……」


 歩きだからな。足に負担がかかる。

 近くに地面から突き出した岩に座り休む真冬。僕は、背中を見せる形で地面に座り岩を背もたれに。


 保存食を食べながら脹脛を揉む。自転車を失ったのは痛い。これだと、三日で辿り着くのは不可能。今日中に二つ目の街を越えるのも無理だな。

 それどころか、街にすら辿り着けないだろう。

 どうしたものかと考える僕の背後から、真冬が声をかける。


「案内役って稼げるものなの?」

「どうだろうな。依頼が入れば稼げるが、日によってばらつきがあるから何とも言えないな」

「そうなのね。情報屋や処刑人、以外にもいるの? その役割を持った人たちって」

「ああ、いるぞ。死体回収班とかな」

「まるで、ファンタジーの世界ね」

「地下街がある時点でファンタジーだろうに」

「それもそうね」


 そんな会話をする僕ら。目を閉じ、そよ風を受け休む僕の耳が音を拾う。

 この音は……。

 目を開け、立ち上がり音がする方を見つめる。真冬も近づいてくる音に気づき、岩から降り横に立つ。


 車のエンジン音が大きくなり、軽トラックが見えてくる。そして、近くで停まり車から降りてきたのは、髪がボサボサのメガネに白衣姿の男だ。

 僕と目が合うやいな、駆け寄り僕の手を取り上下に振りまくる。


「いやー! まさか、こんなところでに会えるなんて思いもしなかったよ! 俺はなんて運がいいんだ!」


 泣きながらそんなことを口走る男。

 真冬の視線に気づき振り返れば、


「ナイの知り合いかしら?」

「い、いや、違うが……」


 首を横に振る。が、内心それどころではない。心臓が早鐘を打ち、暑くないはずなのに汗が流れていく。


 この男、今、と言ったか……⁉

 なぜ、僕を見て第二世代だと言う⁉ いや、それよりもどうして分かった⁉ この男は何者だ⁉


 警戒心が一気に跳ね上がる。男は、僕から手を放し名乗る。


「俺は、木藤と言う。研究者をやっている」

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