お見合い
「僕の愛を求めようとは思わないで欲しい」
なんでしょう。
お見合いの席で言うセリフでしょうか。
「少し、宜しいでしょうか」
「なんだろう」
私の問いかけに、彼は眉を寄せました。なんだか不機嫌そうです。
「この場は、お見合いの席だと思うのですが、何故、そのようなことを?私達は初対面のですよね。顔合わせしたばかりの見合い相手の失礼極まりないセリフを吐くのはどういう意図でしょう?もしかして伯爵家を侮辱していらっしゃいますか?」
見合い相手は同じ派閥、もしくは伯爵家と敵対していない家系から選ばれている筈です。なのにこの言い草。しかも態度も尊大ですし、喧嘩を売っているのでしょうか?
私の言葉が意外だったのか、彼は目を見開いて黙ってしまいました。
「もしかして見合いが嫌だったのですか?ならば断われば良かったのではありませんか?強制ではありませんし。私にとって貴男は見合い相手の一人に過ぎません」
「君は、僕が誰だか知らないのか?」
彼は少し怒ったように言いましたが、私は首を傾げました。
「初対面ですよね?どこかでお会いしましたか?」
「これでも社交界では有名だと思うが」
「そうですか。貴男の事は両親からも伺っていませんので知りません。釣書の中で侯爵家の方でしたので、侯爵家の子息として認識している程度です。それで充分かと」
目を丸くして、彼は私を凝視しました。
「どうやらお互いに性格が合わないようですね。私も伯爵家に婿りする方が礼儀知らずの無礼者は御免被りますので、今回の件はお互い無かった事に致しましょう」
「おい!待て!僕は君に無礼な態度など取っていないだろう!」
「どこがですか?初対面の女性に対して、愛を求めようとは思わないで欲しいなどと失礼にも程があるでしょう。だいたいですね、何故、私が貴男に愛を乞わなければならないんですか?初対面ですよ?一目惚れした訳でもないというのに。それとも自分に惚れない女性はこの世にはいないとでも?まったく。困ったものです。確かに顔は良いですけどね。ですか、顔だけ男は前の婚約者でお腹いっぱいなんです」
「なんだと!?僕は君の家より格上だ」
「だからなんですか?伯爵家の婿にするのに格上だろうが格下だろうが関係ありません。実質的なトップは私なんですから」
「女の癖に生意気だぞ!」
「それが何か?」
彼の発言に首を傾げました。
「伯爵家の直径は私ですよ?それとも侯爵家の子息は我が家の乗っ取りを企んでいらっしゃるのかしら?」
「何故そうなる!」
「先ほどからのセリフはそう捉えられても仕方ありませんが?」
「僕はそんなつもりは無い!」
「では、どのような意図で仰ったのですか?ああいうセリフは大体が外で女性を囲っている男性のセリフですよ?本命の女性がいるけれど、相手の身分が低い。だから貴族の女性と結婚しなければならない。継ぐ爵位がない、自身の能力で上に上がれるほどの才覚はない、だからそこそこの家に婿に納まって、権力を手に入れよう。妻はお飾りにしておけばいい。本命の女性の世継ぎを産んで貰おう。なに、格上の侯爵家に伯爵が逆らえる訳がない。乗っ取りバレなければ問題ない。と、こんな感じでしょうか。違いますか?」
「違う!」
顔を真っ赤にして否定しています。
「ですが、私にはそうとしか聞こえませんでしたけど?」
「飛躍し過ぎだ!」
「あら。ですがそう言った話の本は数多く出版されていますし、実際のお家の乗っ取りはありますからね。違うと言うのなら誤解を招くようなセリフは言わない方が賢明です」
「……」
ダンマリですか。
まあ、いいです。
「それでは、今回はご縁が無かったということで宜しいですね」
ナルシストの男性が多いのでしょうか?
それとも私の世代が問題なのでしょうか?
分かりません。
この後も見合いは悉く破談になりました。
婚活を開始して一年後、隣国から釣書が届くのですが、それはまた別のお話。
お見合いが国境を越えて開始することになるのですが、今はまだ誰も知らない。
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