婚約者の最後
「おい、ふざけているのか?僕と結婚できなくなって後悔するのはお前なんだぞ?」
婚約者……、いえ、元婚約者様はスコット公爵に頭を下げさせられているにも拘わらず文句は一人前。流石です。そこに憧れも尊敬もありませんけれど。
「僕を誰だと思っているんだ!スコット公爵家の息子だぞ!?こんなことして許されると思っているのか!!僕と結婚しなかったらお前なんて誰も結婚できないぞ!完全に行き遅れだ!たかが伯爵家の娘の分際で公爵家に楯突くな!!」
「黙れ!チャールズ!!」
スコット公爵が怒鳴り、元婚約者様はビクッとして口を閉ざしました。
「お前はもうスコット公爵家の人間ではない!お前は勘当だ!」
「え?」
「そもそもお前の方こそ何様だ?公爵家の息子だという以外でさしたる取り柄などないではないか!成績は悪い、剣術も最低レベル、社交的でもなければ、芸術にも造詣が深い訳でもない。ああ、顔だけは良い。それは認めよう。百人いれば百人振り返る程のな。だが、それだけだ」
「父上?」
「顔が良いだけで何ができる?役者にでもなるのか?無理だろう。役者は顔が良いだけではなれない。顔が良いだけの大根役者などゴミ以下だ。おまけに性格も悪いときた。どうしようもないな」
「父上!何をおっしゃるのですか!?」
元婚約者様は真っ青になって叫んでいますけれど、スコット公爵は構わず続けます。
「その顔を生かした仕事でも探したらどうだ?男娼なら暫くは困らないかもしれんが、言っておくが、男娼も美貌だけの者は直ぐに飽きられる。ユーモアの混じった会話、知識の豊富さ、教養の高さ、そしてなによりも身体だけでなく心まで虜にする手腕。これがあって初めて一流の男娼と呼ばれるのだ。お前にそんなものがあるとは思えん」
「父上!僕は公爵家の息子です!男娼などになる訳がないでしょう!?」
「勘当だと言っただろう。公爵家の恥晒しを今まで同様の家に置いておくとどうして思える。そんな必要性はない」
元婚約者様は口をパクパクさせています。まさか自分が勘当されるなどと夢にも思っていなかったのでしょう。ですが、これは当然の結果です。
まぁ、彼の頭には王命での婚約だということは一切合切忘れ去っている事でしょう。もしくは王命で結婚が無効になるから関係ないとでも思っていそう。やれやれ。そんな筈ありませんでしょう。幾ら何でも王家を馬鹿にし過ぎです。
「チャールズ、お前に残された道は後は修道院で一生を過ごすくらいだ」
「そんな!?」
「修道院は神に仕える清らかな場所だ。そこでならお前の腐った性根も少しは浄化されるだろう。だが、そんな場所でもお前のような者を受け入れてくれるかは分からんがな。それとも男娼にでもなるか?公爵家の出だと知れば言い寄ってくる男は山のようにいる。選り取り見取りだ。まぁ、その性格と教養のなさですぐに飽きられるだろうがな。嗜虐趣味な連中から調教と言う名の人格矯正でもされてみるか?ああいう輩はお前のように性悪を調教するのが趣味だから存分に可愛がってもらえるぞ」
「……な……なっ……」
元婚約者様は今にも泣きそうです。あらあら、可哀想に。でも自業自得ですよね。それにしてもスコット公爵、完全に切れてます。
頭の血管が二、三本切れてるのではないでしょうか?
「さぁ、どうする?修道院か男娼か。好きな方を選べ。もっとも娼館に行くなら最高の支度をしてやろう。これも親としての務めだ。最後は悲惨な落ちぶれた男娼になると分かってはいるが、それでも最高値がつく商品にはしてやらんとな」
元婚約者様、完全に涙目です。でも同情の余地はございませんね。
あらあら、ついに泣き出してしまいましたわ。
「うっ……ぐすっ……」
「さっさと選べ!」
「うわぁあああん!!」
幼児の如く泣きわめいてます。
我が家の床が汚れますでしょう。後で消毒しておかなければ。
「嫌だぁ!修道院も男娼もどっちも嫌ぁあ!」
「ならば修道院だな。決定だ」
スコット公爵、完全に鬼です。目が据わってますもの。
元婚約者様はわぁわぁと泣き続けるばかりですが、スコット公爵は容赦無く引きずって行きます。
私達に、これまでのあれやこれやの謝罪をされながら。
「許される事ではないのは重々承知している。だが、それでも謝罪だけはさせてほしい」
そう言うと、後日、目が飛び出るような金額の慰謝料を渡されました。
ええ、当然受け取りましたよ。
けれど、それだけではありません。
スコット公爵は爵位を長男に譲り、隠居する決意をされました。
その後、二度と表舞台に立つことはなく、新たにスコット公爵になられた長男に全てを託したそうです。
新スコット公爵にも後日、謝罪されました。
元婚約者と兄弟とは思えない常識的な方です。
優し気で穏やか。
真摯に謝罪をされました。慰謝料も十分に頂いたのでこれ以上の謝罪は結構です、と申しましたが、再度頭を深々と下げられておりましたわ。
親や兄はマトモなのに……。
元婚約者様だけがアレだったのだと実感致しました。
そうそう、元婚約者様はあの後、本当に修道士になられたそうです。
修道院の清らかさと、男娼になるよりはマシという苦渋の選択だったとか。
そして、元婚約者様はその選択を後悔しているようです。
「男娼の方が良かった!なんであの時、修道院になんて行ってしまったんだ!僕は馬鹿だ!」
そう言って嘆いているとかいないとか……。
お可哀想に……。
きっとご存知なかったのでしょう。
修道院は男色が盛んだということを。
まぁ、どのみち元婚約者様の未来は決まったようなものでしょう。
私もこれから婚活に励まなければなりません。
大変なのはこれからですわ。ひとまず見合いから始めましょうか。
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