恋愛その一~悲恋物語に物申す~

 

「ほぅ。恋愛小説とは珍妙なものですね」


「お嬢様?」


「死んだと見せかけて駆け落ちする算段をつける意味が分かりません」


「…何をお読みになったんですか?」


「これです」


 


 ――ロミオとジュリエット――


「今、人気の悲恋物語ではありませんか!一目で恋に落ちた男女が実は政敵同士の家柄。それでも愛を貫こうと秘密結婚までしたけれど、ロミオが罪を犯して街を追放処分になってしまい二人は離れ離れに。そんな時に、ジュリエットに縁談話が持ち込まれてしまうんですよね。追い込まれたロミオとジュリエットは駆け落ちを計画して実行に移そうとするのですが、ジュリエットが仮死状態である事を知らずに亡くなったと思ったロミオが絶望して自ら毒を飲んで死んでしまうというすれ違いが起こってしまうんですよね。仮死状態から目覚めたジュリエットも死んだロミオを見て後追いしてしまう話です。泣けます」


「ええ、若気の至りというにはお粗末な頭の足りない子供を持ったですわ!」


「全然違いますよ、お嬢様!」


「いいえ、違いませんとも!秘密結婚は重罪です!この事が世間にバレたらお互いの家がどうなるかなんて分かり切った事ではありませんか!連帯責任で牢屋入りですよ?」


「物語では最後までバレてませんから」


「しかも、ロミオはジュリエットの従兄を殺した犯罪者です。よくジュリエットはそこで目を覚まさなかったもの。従兄を殺した犯罪者を好きなままでいるってなんですか?」


「お嬢様、ロミオは罪を認めて刑罰を受けた身なんですから」


「刑?街を追い出される事がですか?ぬるすぎます!恐らく家の力が働いたんでしょうね。ロミオは貴族の出ですから。これが平民出身なら斬首だって有りえた事でしょう。けしからんことです!きっと、ロミオの罪を軽くするために実家が裏で手をまわしたか、金を積んだかしたんでしょう!」


「ロミオは追放という厳罰を受けているのですから。故郷に帰れないのは辛い事です」


「そこで大人しくしていればいい物を、駆け落ちしようとするのですから呆れ果てます」


「計画が上手くいきませんでしたけど……」


「あんな杜撰な計画が上手くいくはずありません。たとえ上手く駆け落ち出来たとしても、この二人では破局していたでしょうね」


「何故ですか?」


「彼らは貴族です。平民の生活など出来ませんし、働き口もありません。どうやって暮らしていくのです?破綻は目に見えています」


「親戚や友人を頼るのでは?」


「敵対する家同士なんですよ?親族を頼ればすぐに連れ戻されます。友人だってそうです。街を出てしまっているんですよ?頼れるほど親しい友人が外にいるとは思えません」


「た、たしかに」


「まあ、二人は良いでしょう。身勝手に死んでしまったんですから。ですが、残された方はどうなります?」


「物語では、互いの家が反省して二度とこのような悲劇が起こらないように仲直りしますが……」


「そうするしかなかった両家の悲哀!子供同士が起こした醜聞!火消しをする事も出来ずに醜聞まみれの家です。これ以上の被害が出ないようにするには仇敵とでも手を組みますとも!まったく!人の迷惑を顧みない頭スカスカのカスカスはこれだから困ります!この二人のせいで一族中が迷惑を被った事でしょう。せめてもの救いが、お互いがであった事くらいです!」


 本当に腹が立つ小説です!

 無責任この上ない男女の恋人たち。

 彼らは本当に貴族なんでしょうか?

 それとも作者が貴族社会をよく知らないせいでしょうか?

 こんな事がまかり通ったらとんでもない事になります。


「もっとも、十六歳の少年と十四歳の少女が恋に恋した結果の心中ですからね。ダメだと言われたらよけいに燃え上がったんでしょう。

 これが後十年歳を経ていたなら、もう少し頭を動かすことが出来た事でしょう。彼らの悲劇は『頭が足りない上に経験不足の若者』だった事です!」


 それでもロミオに出会う前までは、ジュリエットは良い子の優等生だったのです。

 概ね、優等生の令嬢がちょっと悪ぶった少年に未知なる魅力を感じたんでしょう。周りが紳士的な男性ばかりなら心理学的にあり得る事です。


 あら? 

 十年経ったならジュリエットは現実を見てロミオを選ばない可能性が高いですね。


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