淑女教育その四
挨拶というのは、人と人とが繋がり合う基本だと心得ております。
人間関係を円滑に行うための手段の一つでもあると、お母様からも耳にタコが出来るほど聞き及んでおりますから間違いありません。人とは複雑に見えて単純な生き物なのです。
第一印象に見た目が重視されるのがいい例です。
それは仕方のない事でもありますなかには「見た目だけで人を判断する事を卑しい」と非難する方がおりますが、初対面でどうやって中身を見抜く目を持てというのでしょうか?
そんな中で、見た目の第一印象を覆せるのが挨拶なのです。
『挨拶が出来る人間』と『挨拶が出来ない人間』とでは全く印象が異なるともいえます。幾ら美しい女性でも挨拶一つ出来ないようでは“非常識な人間”、“冷たい印象が目立つ”と判断されてしまうのです。
挨拶にも幾つか種類があります。
お辞儀や握手といった一般的なものから、貴族社会で行われる「カーテシー」。片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げた上で、背筋を伸ばしたまま挨拶を致します。
「カーテシー」は貴族女性が行う挨拶です。
マナーの基本ともなるもので、立礼の一つ。
たかが立礼、と思うかもしれませんがこれは伝統的な挨拶でもありるのです。当然、美しい所作が求められます。特に、王族や高位貴族の女性はより正確で完璧な「カーテシー」を求められます。
伯爵令嬢である私も当然、
「バーバラ嬢、もっと背筋を伸ばして!ああ、いけません。伸ばし過ぎですよ。曲芸師ではないのですから」
と、このように厳しく指導を受けております。
何故ここまで指導に熱が入るのかといいますと「カーテシー」には大きく分けると二種類あるからです。
“王族の方々に敬意を表すカーテシー”と“目上の相手に対するカーテシー”。
もっと細かく分けることも出来るのですが、基本、この二種類に大別されます。
しかも、「カーテシー」は女性だけの挨拶ですから、優雅さを求められているのです。
まったく、何故、女性だけなのでしょう。
男性も同じようにすれば宜しいのに。
あら?
男性はしないのかって?
そうです。
致しません。
ならば添え物のように立ち尽くしているのか思われがちですが、そういう訳でもありません。男性は紳士として相応しい振る舞いを求められております。それでも女性のパートナーとして常識ある態度を取っていれば特に問題はありません。もっとも、「ボウ・アンド・スクレープ」と呼ばれる作法はあります。貴族社会における伝統的な男性の作法ですが、女性と違って粗があったところで問題視する者はおりません。
男性ももう少し作法を磨いても良いのではないかしら?
女性ばかりにマナーを求めるのは間違っていますわ!
私がマナーに対しての男女の不平等さについて文句を言いますと、お母様は決まって「その分、男性は外で大変な苦労をされていらっしゃるのよ? バーバラ、未来の旦那様には気持ちよく外で元気に働きに行って貰った方が私たち女性も気持ちがいいでしょう?」と仰います。
他にも、
「女性は男性以上に言葉に気を遣わなければなりません。
ハッキリとした物言いは“無作法”と捉えられる恐れがありますからね。言いたいことは旦那様に言って貰えればよいのです
(略:男性に意見を言わせて手柄を立てさせることも、夫の面子を守ることになりますし、引いては、か弱い女性である私たちが非難されないようにするためでもあるのです)」
などと仰います。
言いたいことは分かるのですが、女性にも自由が欲しいの思うのはいけない事なのでしょうか?
お母様曰く、「殿方に自由にいさせる事も淑女の心得ですよ(略:リードを握って主導権を分からなくさせる極意が必要なのです)」という事ですが、私には難しい気がしてなりません。
ミレニウス先生は涼しい顔でお母様との会話を聞いておられますが、先生もお母様と同意見なのでしょうか?
謎です。
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