最高峰の教師


「初めまして、バーバラ・ロジェス伯爵令嬢。私は、ジャンヌ・ミレニウスです」


 本物のミレニウス女史が目の前にいますわ!感激です!


 歳の頃なら五十代半ば。灰色の髪にオレンジの目、涼やかな顔立ち、若い頃はさぞや美しかったことでしょう。いいえ、今でも十分、美しいですわ。容貌の美しさではなく雰囲気が優雅で美しいのです。まさに「美」のオーラが放たれているのですから只者ではありません。


「こちらこそ、お会いできて光栄ですわ」


 私の顔は緩みっぱなしです。嬉し過ぎて自然と笑みがでてしまうのが止められません。そんな私に対して、にこりともしないミレニウス女史。キリッとした表情ですのに厳しさよりも気品高さが勝っているなど『最高峰の教師』は違いますわ。



「バーバラ・ロジェス伯爵令嬢、貴女の熱意には感服いたしました」


 ミレニウス女史がお褒めになってくださいました。


「ありがとうございます」


 私の想いが届いたのです。


「これほどまでの長い期間、毎日欠かさず私宛の熱意溢れる手紙を出し続けた事は敬服します。ただし、御自身の自己アピールが過ぎるのは淑女として如何なものかと愚考致しますが」

 

「まあ!ジャンヌ様、私はまだ『淑女』ではございませんから大丈夫ですわ!」

 

「御自身が『淑女』でない自覚があるのもまた珍しいことです」

 

「そうなのですね!」

 

「バーバラ嬢の場合は少々違っているようですが、貴族令嬢は自分の気持ちを素直に表すとことはとされ誤った行為と認識されるのです」

 

「難しいことですね。ですが、今回に限ってはそれが功を奏したのですから間違っておりません」

 

「どういうことでしょう?」

 

「私が自分の情報とジャンヌ様に教育をお願いしたい理由をアピールしなければ、ジャンヌ様は私に関心など寄せなかったはずですわ。一介の伯爵令嬢如きが、高名なジャンヌ・ミレニウス女史に個人的指導を依頼したところで歯牙にもかけてもらえなかったことでしょう。それが、非難されるをしたお陰でジャンヌ様は今こうして私の前におります。つまり、目的は達成されたということですわ!」

 

「……確かに、その通りですね」

 

「はい!」

 


 そうなのです!

 今回ばかりはいい方向に作用したのですから良しなのです。

 結果がでれば過程など些細なことです。



「バーバラ嬢、教師となる私の事はこれから『ミレニウス先生』とお呼びなさい。様付けは禁止です」

 

「よろしいのですか?」

 

「勿論です。貴女は今日から私の教え子になるのですから」

 

「はい。ミレニウス先生」

 

「よろしい」


 ミレニウス先生は私を教え子として認めてくださいました。先行きの明るいスタートになりそうです!


「バーバラ嬢、貴女を指導するにあたって一日の行動を把握しておかなければなりません。バーバラ嬢が日々どのように過ごされているのかを知る必要があります。その上でバーバラ嬢に合った教育を施していかなければなりません。バーバラ嬢にとっては不快に感じるかもしれませんが、明日の一日は貴女の私生活を余すところなく観察させていただきます。よろしいですね」


 決定事項のようです。

 それに対する私の返答は、


「はい!よろしくお願いいたします」


 これ一択でしょう!








 ~バーバラ・ロジェス伯爵令嬢の一日~


 AM5:00 早朝の散歩

 AM7:00 家族と共に朝食

 AM8:00 ストレッチ(体操というなにか)

 AM9:00 勉強時間

 PM12:00 家族と共に昼食

 PM13:00 ピアノの時間

 PM14:00 ダンスの時間

 PM15:00 お茶の時間

 PM16:00 午後の散歩

 PM18:00 家族と共に夕食

 PM19:00 ストレッチ(体操というなにか)

 PM20:00 入浴の時間

 PM21:00 一日の反省(日記に記入)

 PM21:30 就寝






 ……

 …………

 ……………………なにやらミレニウス先生は困ったような不可思議な物を見たかのような顔をなさっています。

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