鵜崎真冬の章

第一話

 僕は霊感こそないのだけれど心霊特番が大好きだった。テレビ欄でそれ系の番組を見付けては見漁るという事をしているのだけれど、そんな事をしても僕に霊感が備わることなんて無かった。ただ、今回は自分のその趣味が生かされることになったのだ。なんと、テレビの中から鵜崎さんの名前を呼ぶ声が聞こえてきたのだ。僕は鵜崎さんがテレビに出るなんて夢にも思っていなかったのだが、そこに映し出されていたのは鵜崎さんに少し似ているが大学生くらいにしか見えない若い女性だった。

 鵜崎さんは視聴者から寄せられた悩みごとの相談に乗っていたり、実際に視聴者のもとへ行って解決をしていたようなのだが、その姿はどう見ても僕の知っている鵜崎さんではなかった。

 テレビに映っている相談者は顔が見えないようになっているのだけれど、問題が解決した人達は皆涙を流して喜んでいるようだった。これも演出なのかと思ってみていたのだけれど、沙弥はテレビに映っている鵜崎さんには全く興味を示すことは無かったのだ。

 その後も視聴者の相談に乗ったり心霊写真を解説したりもしていたのだが、どう見ても僕が知っている鵜崎さんとは別人にしか思えなかった。


「鵜崎さんてテレビにも出るんだね。あんまり表に出るのが好きじゃないんだと思ってたけど、なんか意外だよね」

「え、アレは苗字が同じで鵜崎さんとは他人じゃないの?」

「ああ、あの名前が出てる人はもちろん違う人だよ。でもさ、除霊に行くときに後ろの方に鵜崎さんが一瞬見きれてたよ。なんでそんなところにいるのかはわからないけど、画面越しに見ても辛そうに見えたよ」

「そこは全然注目してなかったよ。あとで見てみようかな」

「将也君は本当に心霊特番とか好きだよね。で、心霊写真とか見て何か感じることはあったかな?」

「残念ながら何も無いね。たぶん僕も普通の人と同じか少し発見するのが早いくらいだと思うよ。でも、その心霊写真が本物なのか偽物なのかはわからないな。この番組で取り上げられているのって本物はどれくらいあるの?」

「本物とか偽物とかで言うと、全部本物ではあるけどそれは全部加工されたものだね。加工って言ってもパソコンとか使ってやるんじゃなくて、鵜崎さん達が集めてそれを撮ってるって感じなのかも。だから、作られた心霊写真ではあるけど偽物ではないって事かな。そんな面倒な事をしなくても普通に加工すれば視聴者は騙せると思うんだけど、なんでそんなに面倒な事をするんだろうね」

「さあ、どうしてだろうね」


 番組を最後まで見終わって僕が感じたことは、霊的な事は置いておいてもエンターテイメントととしては楽しめたと思う。作られた心霊写真ではあるが本物であるというのは意外な発見であったし、それに気付いたのは視聴者の中にどれくらいいるのだろうという新たな疑問がわいてしまった。そんなタイミングで僕のスマホに着信が入った。表示されている名前は鵜崎さんであった。


「あ、今は時間大丈夫かな?」

「大丈夫だけど、何か急用でもあったのかな?」

「急用と言えば急用なんだけど、さっきまでやってた心霊特番って見た?」

「うん、見たよ。僕は意外とああいった番組を見るのが好きでね、今回のも普通に見たのに録画もしているんだよ」

「そうなんだ。それはちょうど良かった。あんまり詳し事は言えないんだけど、小野君の力を貸してもらえると助かるんだよね。で、来月の十日から四日間時間が空いてたりしないかな?」

「一応確認してみるけど、今のところ予定は入ってないよ」

「それは良かった。急な話で申し訳ないんだけど、費用はこちらで持つんで埼玉まで来れたりしないかな?」

「埼玉?」

「そう埼玉。撮影場所が埼玉なんだよね。無理そうだったらいいんだけど、出来れば協力してもらえるとありがたいなって思うんだよね」

「ああ、でも僕だけで決めることは出来ないんでさ、奥さんと相談してから返事を返してもいいかな?」

「もちろんそれでも構わないよ。何だったら、奥さんに電話を替わってもらって私が直接お願いするって形を取らせてもらってもいいかな?」

「そうだね。そうしてみるか。でも、あんまり期待しないでいてね」


 僕はいったん電話を置いて幸子に鵜崎さんから電話が着たことと、その要件を軽く伝えた。僕も要件をちゃんと理解しているわけではないので説得することは出来なかったのだが、僕の代わりに幸子が電話で鵜崎さんと話すことについては了承を得ることが出来たのだ。

 二人が電話をしている間は沙弥と一緒に絵を描いて待っていたのだが、幸子は少し話した後に電話を持ったまま部屋から出て行ってしまった。僕のスマホを持ったままなのは少し気になるのだが、スマホを持っていった事よりも僕か沙弥に聞かれたくない話をし始めたのではないかと気になってしまった。

 番組が終わってしばらく経っていたこともあって沙弥はもう眠そうにしているのだが、幸子が戻ってくる気配は一切しなかった。沙弥も眠気が限界までやってきているようなので、一緒に歯磨きをして寝る準備を始めることにした。幸子が戻ってきたのは沙弥が完全に眠についてからしばらく経った後だった。


「あ、寝ちゃったんだね。待たせちゃってごめんね」

「僕は大丈夫だよ。で、どんな話をしてたのかな?」

「それがね、テレビで使う心霊写真の撮影に協力して欲しいって事だったんだよ。私が行った通りで、鵜崎さん達が浮遊霊とかを集めて写真に撮るらしいんだけど、写真を撮る側の人もそれなりに力が無いと写らない事の方が多いんだって。そんなに手間をかける必要があるのかって思って聞いてみたんだけど、今の時代は加工とかは簡単に見抜かれちゃうのでちゃんと本物を使う事にしているんだって。そこで、私が将也君と沙弥ちゃんの写真を撮ることになりました」

「ん、どういう事?」

「つまり、私と沙弥ちゃんも将也君と一緒に埼玉に行くことになりました。お寺の事なら大丈夫。お父さんも行ってきていいって言ってたし、来月は弟も帰ってくるから心配することは何も無いよ」

「幸子がそれでいいって言うんだったら僕は何も言わないけど、勇信君は大丈夫なの?」

「弟の事なら大丈夫大丈夫。来月いっぱいはこっちにいるみたいだし、後半は沙弥の面倒も見てくれるみたいだよ。さっきお父さんと弟には確認取ってるから問題無いって事ね」

「でもさ、家族三人で行くってなったら結構お金かかっちゃうんじゃないかな」

「そうかもしれないけど、向こうが全部用意してくれるみたいだから気にしなくていいんじゃないかな。その代わり出演料は少ないみたいなんだけど、ただで観光出来るって思えば安いもんだよね」

「観光って、そんなことしても大丈夫なの?」

「うん、大丈夫みたい。そもそもさ、そう言う観光スポットで写真を撮るのが良いみたいだよ。何も無い日常でたまたま霊が写り込むことよりも、加工スポットで記念に取った写真に霊が写り込む方が自然だって思うしね」

「でも、そんな事をして後後面倒なことになったりしないかな。例えば、僕が呪われるとか」

「それも問題無いかな。そんなことにならないように細心の注意を払ってくれているみたいだし、万が一のことがあったとしても私と鵜崎さんがいるからね。不思議な事なんだけど、将也君がいると私達も危険な目に遭ったりしないんだよね」


 幸子はそう言うと嬉しそうな顔を隠しきれずにニコニコとしたまま洗面台へと向かっていった。僕もそんな幸子を見て嬉しく思ったのだが、何か忘れているような気がしてならなかった。

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