1.狸の王と花嫁③

3.主様


 羽衣に導かれてやってきたのは広い部屋だった。広いのに、小さな机と座布団が数枚しかない少し変な部屋である。


「では、主様を呼んできますので少々お待ちくだ」

「その必要はないよ。羽衣」


 そこにいたのは先程私を助けた少年だった。和服のきれいな人…あやかし。


「主様。えれな様をご案内いたしました」

「ご苦労様。下がっていいよ」

「かしこまりました」


 “主様”は羽衣が部屋から出るのを確認すると私と向き合った。


「はじめまして、えれな。藤次郎の唯一の孫娘だろう?会えて嬉しいよ」

「はじめまして。助けてくれたのは感謝するわ。“表”に帰してくれない?」


 私のいいとは言えない態度に対して表情を変えることなく“主様”は言う。


「うーん。懐かしいなぁ。藤次郎も君みたいに偉そ、堂々としていた」


 偉そうって言おうとしてたわね…。


「話をずらさないでちょうだい。…何かお礼がいるの?えっと、まずあなたのことなんて呼べばいい?」

「僕はぬい。よろしく」

「で、縫は私に何かしてほしいの?」

「してほしいこと、ねぇ。僕はないんだけどさ」

「じゃあ、」

「でも藤次郎に頼まれていることがあるんだ」


 おじいちゃんに。

 でもおじいちゃんは私に甘かったし、私に不利なことは頼まないはず。


「んー。なんて言えばいいだろう。君には少々込み入った事情があってね」

「事情はどうでもいいわ。結論は?私は何をすれば良いの?」

「うん。まとめるとさ。君は、櫻井えれなは呪われていてその呪いから身を守る一番の方法は18歳になるまでに僕と結婚することなんだ」


 結婚?婚姻。縁組み…。


「は?」

「僕は藤次郎から、君と結婚するように言われているんだ」

「…」


 絶句。なんてことを約束しているんだろう。おじいちゃんは。

 これがなんとかしたってこと?どういうことなの?

 ねぇ。おじいちゃん。

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